第2話 調査
朝礼が終わると、調査対象企業に調査のアポイントを求める。
企業調査には主に分けて2種類ある。対面調査と側面調査。
対面調査は文字通り、対面して聞き取りを行う。
他方、側面調査は調査対象の企業に会わずに、仕入先、販売先などの関係する企業を取材して調査報告書を仕上げるのだ。当然、こちらの方が難易度が高い。
側面調査との指定が無い限り、対面調査のアポイントを入れる。
私は超特急の案件にアポを入れることにした。今日中に終わらせないといけない。
最悪、側面調査だ。
「あ、山本内装店ですか。私、西日本経済の椎名と申しますが社長様にお取次ぎをお願いします」
対面調査は代表か、経理担当者が望ましい。決算書をもらう必要性があるからだ。
しばらくして電話の相手が変わった。
「社長の山本ですが」と名乗り出た
「初めまして私、西日本経済の椎名と申します。お忙しい所恐縮ですが、御社に信用調査の依頼がありまして。つきましては本日お時間を頂きたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」と、あくまで下手に出る。
「どこからの調査でしょうか」と声がした。毎度、相手にこれを聞かれる。
調査票には依頼主が掛かれているが、それを漏らしたらクビだ。
「申し訳ありません。ご依頼主は申し上げられ間ませんが、御社のお取引です。お心当たりはございませんか」と、逆に振る。
相手はしばらく考えて「うーん、15時ごろなら」とOKをもらった。
「有難うございます。では15時にお伺いします」と電話を切った。
会社の付近の地図をコピーして、調査報告書の書式を一通り揃え手から鞄にしまう。
準備はできた。
「行ってきます」そう言って会社を出た。
車で県庁に行く。業種によって異なるが、営業許可が必要な業種の場合、所轄の行政機関に書類の提出が義務付けられている。建設業の場合は建築指導課、飲食店は各保健所といった感じだ。予約すれば、それらが閲覧できるようになっている。
「山本内装店」は建築業者だから建築指導課に建設業許可申請という書類がある。社長と面談の予定となっているが、必ずしも決算書をもらえるは限らない。そのため、あらかじめ決算書を入手しておくのが目的だ。
建築指導課につくと、小さな長テーブルに9名の調査員が座っており、危うく待機する羽目になるところだった。慌てて席に座り、閲覧申請を記入する。
今回は「山本内装店」の他に2社を合わせた合計3社を申請した。
優先事項は「山本内装店」だが、同時に担当している案件も5件程ある。その都度、県庁に来るのは時間のムダなので、数件をまとめて処理する。そのため、調査報告書の決算書の部分だけ余分に鞄に入れてある。
閲覧申請を出して、5分ほどして3社の建設業許可申請を抱えて県庁の職員が倉庫から出てきた。軽く会釈をして、許可申請に目を通す。調査報告書の書式を取り出して、内容を転記する。あくまで「閲覧」しか許可されていないのでコピーは無い。
代表の経歴、役員の顔ぶれ、資本構成や工事実績などを転記して、決算書の欄に行くと、ページをめくる手が止まった。「あちゃー」と思わず声が出る。
直近三年の決算が毎年赤字で、資本金は累計損失を計上している。
累計損失、「累損」毎年赤字を計上して、それが蓄積されて資本金が赤字になっている状態を言う。赤字の垂れ流しでこのままではこの会社は長くは持たない。
何が原因なのか、詳細を追う。この会社は、薄利多売が上手くいっていないようだ。売上高から原価を差し引いた営業利益の段階で赤字になっている。
経常利益、最終利益も共に大赤字である。
取り急ぎ決算書の複写を始める。三期の決算書を複写して建築指導課を後にした。
次は法務局に向かう。福岡法務局本局は福岡の中心、天神近くにあるので渋滞に巻き込まれる。交差点を右折する車の列に並び、3度目の信号待ちで法務局に着いた。
会社登記と不動産の登記簿の確認を行う。法人登記は問題ない。次に2階へ行く。
法人の所在地は代表の自宅と同一だった。どうやら自宅兼用らしい。
申請を提出してしばらく待ったら、不動産登記が手元に届いた。
不動産の担保状況を確認する。メインバンクの福岡第一銀行の他に、福岡第三相互銀行、そしてノンバンクの抵当権が付いていた。ノンバンクとは商工ローンなど、いわゆる高利貸しの事だ。不動産の価値の余力は皆無に等しい。
メインバンクの話を聞くために福岡第一銀行住友支店に向かった。
企業殺し屋 椎名剛 @mogami2004
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