漢方医の弟子

真花

漢方医の弟子

 先生は今日も研究室にこもって新しい漢方薬を作ろうとしている。

 僕は僕で勉強をしなくちゃいけないのだが、どうも手に付かない。漢方薬の一覧表をぼーっと眺める。今さらながら、漢字が多い。と言うか漢字しかない。覚えるには法則を見付けるのがいい。でも、末尾の一字が同じのが多いことしか分からない。

 一番多いのが「〜〜とう」で、葛根湯とか小青竜湯とか。

 次が「〜〜さん」で、抑肝散とか加味逍遙散とか。

 稀にあるのが「〜〜がん」で桂枝茯苓丸とか八味地黄丸とか。

 あとはその他――

 荒々しくドアが開く音に振り返ると、先生が目をらんらんとさせて立っていた。

中島なかじま君。ついに完成したよ! 研究室に来てくれ」

 僕は驚きながらも先生の成果に嬉しくなった。跳ねるように立ち、先生の後を付いて行く。研究室に入ると、先生は貝を手に取り僕に見せる。

「これが何か分かるかい?」

「貝です」

「何の貝か、だよ」

「分かりません」

 先生はニヤリと笑う。

「サザエだ。漢方では元々牡蠣を生薬として使うから、他の貝でもいけないかと色々試したんだ。そしてサザエを中心にした漢方薬が出来た」

「その名前は……?」

「サザエさんだ!」

「磯野ですか!」

「じゃあサザエとうだ!」

「サザエ党にしか聞こえないです! 後ろにカツオとかワカメがずらっといますでしょ!?」

「ならばサザエがんで」

「劇画のサザエさんが銃を構えてますよね!?」

「どっちかと言うと何かの必殺技みたいだよね」

「先生! 伊佐坂いささか先生! 効能から名前を付けましょう」

「この薬は、日曜日の夕方の憂鬱に効くんだ」

「サザエさんから逃れられない! 僕はもう帰ります!」

 先生は小さく頷いた。

「じゃあ、じゃんけんをしよう」


(了)




 じゃんけん!







 グー!

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