エヴァとシュリ――「オウムとインコの日」によせて
みつなはるね
第1話 エヴァとシュリ
もう随分と昔の話になるが、私はワカケホンセイインコ――通称「月の輪インコ」を飼っていた。
名前はエヴァーグリーン。通称エヴァ。
美しい緑色の羽根に、真っ赤な大きな嘴。成長するにつれ現れた首のまわりには、黒と淡いピンクの輪。
性格は気の強い甘ったれ。ワカケなので声は大きい。
ずっしりとした重み、長い尾羽。足を使って器用に物を掴んで遊び、時々機嫌よく歌い、「エーヴァ、エヴァ?」と自分の名前を連呼する子だった。
ほかにはオカメやオオホンセイとちがい、瞳孔の開閉がとてもわかりやすく、オカメ慣れしていた他の家族からは「目が怖い」と言われていたが、私は彼の感情がわかりやすくて好きだった。
数年後、妹が飼っていたルチノーのオカメインコ「シュリ」が、彼女の結婚を機に実家にやってきた。
ペット不可物件のため連れていけないとのことだった。
この子もオカメインコらしい人好きの甘ったれで、なおかつ音マネが得意。
特に「目覚まし時計のアラーム」がお気に入りで、早朝から「ピピピピ!……ピピピピ!!……ピピピピ!!!」と段々トーンを再現する。
アラームのマネをすると、人間が反応するのを経験で学んだらしい。
なかなか騒々しく、このアラーム音がこの子の唯一の欠点だった。
彼らのカゴはそれぞれ隣あわせで置かれていた。
カゴ越しでも、放鳥してもケンカすることはなく、それぞれが勝手に楽しんでいた。それはそれで、飼育者としては楽で助かる。
シュリは首回りや嘴近くをコリコリしてもらうのが、特に好きな子だった。隙あらば人に寄ってきて「撫でろ」と催促する。
撫でてやれば、うっとりと目を閉じ止めると「もっともっと」とせがむ子だった。
もちろんエヴァも、首回りを撫でられるのが大好きだ。特に嘴周辺がお気に入りなのだが、突然「そこじゃない!」と目を白黒させて大声で抗議しタカと思うと、「もっと撫でろ」と甘えてくる。よくわからない性格をしていた。
そして物凄いヤキモチ焼きだった。
エヴァはシュリの事が大好きだった。
私がシュリと遊んでいると大きな声で「シュリを取るな!」と鳴き叫ぶよう抗議して、噛んでくる。そのくせシュリが一人で遊んでいると、私のところによってきて、羽根を拡げて求愛ダンスをしたり、機嫌よく歌ったりしてくる。
求愛行動は当然シュリに対しても行われたが、シュリはエヴァが近づくと「エヴァうざい」と飛んで逃げた。エヴァがしつこく追いかけると、シュリは抗議の声を上げる。近くにくるのを嫌がるだけで、ケンカは一切しなかった。
こんな距離感だったため、同じ人間の頭と肩にそれぞれが乗っていても、放鳥中に二羽が仲良く並んでいることはなかった。
どんなにシュリに嫌がられても、エヴァは一途にシュリが大好きだった。
シュリへの求愛行動はケージ越しで繰り広げられた。
羽根を少し広げて、愛の歌を歌う。そして吐き戻し(ゲーゲのプレゼントと呼んでいた)を与え、シュリはそれを受け取る。
シュリが求愛行動をする相手は人間か鏡越しの自分だ。エヴァの事はケージ越しに食わせてくれるヤツとしか思っていなかったようで、生涯シュリからエヴァに吐き戻しを与える事も、彼に身体を許す事はもなかった。
まぁ、シュリも男の子だもんね。
さて、私も結婚を機に家を出たのだが、遠地であることと住まいがペット不可だったため、エヴァを連れていく事ができなかった。
10年後、家を建てたのでエヴァを迎えたかったのだが、その連絡をした後にエヴァは亡くなってしまった。
その少し前にシュリも亡くなったので、エヴァは寂しかったのかもしれない。
今でも虹の橋の麓で、エヴァはシュリを追いかけ回して、愛を謳っているのだろうか。ちょっとは二羽の距離感は縮まっただろうか。
6月15日が「オウムとインコの日」だと知り、共に暮らした彼らとの思い出をなんとなく書いてみた。
エヴァとシュリ――「オウムとインコの日」によせて みつなはるね @sadaakira
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