第13話 太陽


 大きな巨体をはっきりと捉え一直線に進んでいく。近づくにつれ視界が悪くなる。


 人間にとって闇は邪魔な存在だ。まずは闇を祓う事が最優先となる。しかし魔族にとっては絶好の領域。基本的に闇を展開し有利な状況を作る。それは彼女も同じである。


 闇上から闇を被せる。二重となった闇の中では人間など殺すには小指で十分だ。


「ヴォルテクス・シャドウ!!」


 自身の発する闇と周りの闇を吸収し高い攻撃能力を発揮する技であり一定以上の魔力を闇に変換し凝縮する威力により力量がよくわかる技でもある。対人間には効果が薄いため知られてはいないが確実にダメージを与えられる技。

 この技を受ければ本能的に分かる。強者であり魔族を殺す事があると。下につき命令のままに人間を蹂躙するのではない。上の魔族と魔族の継承争いなどで使われる技。


「マサカ、十禍称カ? アリ得ナイ。イヤ一人愚カ者ガイタナ……」


 暗闇の中視線が交差する。感じと取ったものは恐怖。いつぶりの恐怖を感じ取ったのか、決して『愚か者』ではない。『十禍称』の名にふさわしい威圧感。そして高揚。


「クハハ……ドレ程ノ強サノ持チ主カ!!」


 闇の中で始まった戦闘に兵は退散。すぐに村へ引き返す事となった。逃げ帰る兵を見て村人は不安に駆られるが状況を濁しながら説明。決して魔族とは言えない。


「それでもこちらに来る可能性があります。村人は全員集まりましたここを中心に守ってください」


「わ、分かった。牧師様はどうなされるのですか?」


「闇には光です。加勢します。心配ですから」


 ***


 急いで戦闘音の鳴り響く所に足を進める。裾が汚れることなど気にも留めずただ必死に迎えに行く。段々と暗くなる辺り、闇が深く自身の光だけでは足元照らすのがやっとの事だ。


 聞こえてくる轟音が不安を煽る。食らってしまったのではないか、重傷を負っているのではないか、『ホーリー』では魔族を回復させる事は出来ない。


「せめて太陽が照らしてくれれば……」


 一つの技が思い当たりいつの間にか叫んでいた。どこにいるかも分からない闇の中立った一人を見つけるための光。


「――サンブレイク・グライトパニッシュ!!」


 薄っすらと聞こえた声と共に闇を薙ぎ払う光が差す。まるで燦然と輝く太陽のような光は現状をはっきりとさせる。見えた姿は傷つき血が流れ辺りの地面も大きく抉れている。どれ程の戦いか、どれ程熾烈を極めているかが理解できる。第二の太陽の光を浴び動きの鈍くなったところに食らわせる。爆音と爆風が響き、散る。光によって散った闇がまた収縮し始め姿が隠れていく。出来る事も無く退場するのは来た意味がない。


「ホーリー!!」


 完全に見失う前に放った『ホーリー』は当たるが高い悲鳴が聞こえた気がし、呆然とする。


「……エクリラ……? エクリラ!!」


 一心に走る。やってしまったのではないかと恐れ、無我夢中で駆け寄る。段々と闇が薄れていき視界に入る絶望。巨大な腕に鷲掴みにされ握り潰されている瞬間。囚われている手に思いっきり翳されるもう片方の腕。高く、固く握られた手で上からやられれば確実に致命傷。いや、死んでしまう。


「エクリラ!!!」


 喉が裂ける勢いで叫ぶがどうにもならない。ここから救う力は無い。視界が涙でぼやけ見たくない光景を見せないようにしているのか。駆け出すも足場の悪い地面に足を取られる。


 まるで時が遅くなったかのように段々と振り上げている腕が落ちていく。しかし、それは力無く、ただ落ちていく。握る手も緩み、崩れ落ちる。


 自力で手から脱出しこちらに手を振る。すっかり闇も消え去り来るはずの朝も遅れて姿を現している。


「おぉ~い! 牧師! 勝ったぞ~!!」


「……まったく。ヒヤヒヤしました……」


 近くに駆け寄り様子を見るに大きな外傷はない。出血はしているが元気そうにしている。


「今なら太陽も壊せそうだぜ」


「太陽は神聖なものですそう簡単に壊しちゃいけませんよ」


「そういえば何でさっき余の名前を叫んでたんだ? あと何で泣いてるんだよ」


 言われ急いで涙を拭う。生きているのだからこの涙は必要ない。


「何でもありません。それよりありがとうございました」


「余は役に立ったぞ!」


「だから、ありがとうございますと言っているでしょう?」


 無事に村は救われ魔族という事も隠し通し普段の日常に戻る。

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魔族と牧師様 天然無自覚難聴系主人公 @nakaaki3150

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