第12話 決断

 朝、日も出ていない早朝。朝と呼んで良いのか分からない時間帯。叫び声と共に目が覚めた。また一人で何かをしているのかと思い気にせずまた眠りに就こうとするが勢いよく扉を開けて入ってくる。


「こんな時間になん――」


「それどころじゃない!! 突破されたぞ!」


 ただならぬ切羽詰った顔で告げられる。朝のお知らせは完全に頭を起こした。


「――本当ですか?」


「本当だ。札に余の魔力を流したって言っただろ? あれは連結させといた。大型の奴が通れば分かる!」


 まずい状況になった。大型の魔族に襲撃すればこちらとしては逃げの一手しか打つことは出来ない。兵は居るものの人数的な問題で頼りになるか分からない。


 時間も時間だ。まだ村も空も寝静まっている。微かに感じられる濃い魔力、目視すら出来ていないのに感じ取れるとは中々のものだ。


 いざとなれば――


「牧師どうればいい!?」


「まずは村に戻ってこの事を伝えます。その後は人命優先で一箇所に集めて非避させます」


「余は? 倒しに行くのか?」


「……いえ、待機です。一緒に村人を避難させます。力は自信が無いので」


「分かった! 余が全員助けてやる」


 ***


 暁暗の刻、村に警告を促す鐘の音が響き渡る。兵が慌ただしく準備を初める。村の人々も荷物を抱え家から出てくる。不安そうにしているが皆てきぱきと行動を開始している。


「牧師様。この度はありがとうございます。位置とどのようなのか分かりますか?」


「位置は北東のまだ村の管轄地区に入ってすぐのところです。規模は大型です。ここからでも感じ取れるほどの魔力を保有しています。気を抜かないでください」


「ふむ、大型か……」


 自分達の戦力はしっかりと把握しているようだ。この村の兵だけで収めることが出来るとはあまり思えない。


「まさか、王都を襲った魔族十禍称 ですかね?」


「分からん。だが最悪の場合を考慮しとけ。牧師様は村に残り村に加護をお与えください」


「貴方方にも加護を施します」


 祈りを捧げ力の向上等色々と加護を付ける。村の避難場所となる建物にも魔族避け等の結界を何層にも張る。


 村の人々も動き出し、ぞろぞろと家を飛び出す。


「皆さん! こちらです! 一箇所に集まってください!!」


「おい、歩けるか? 運んでってやるよ」


「ありがとう。助かります。向こうの家にも不安定な方が居るので助けてあげてください」


「分かったぞ!」


 時計を見るが管轄領に入ってから時間が経っている。もうそろそろ兵と交戦が始まるだろうか。


 やけに暗い空を見上げ日の上らない空が不安に感じる。この異常は村の人達も感じ始める。


「何か知っていますか? 天候が悪い感じではないと思うのですが、」


「見当はつく。これは闇だな。魔族の中でもさらにダークサイドへと行った奴が出せる。牧師とか聖属性とかに弱いが……」


 正直に言って役立たずだ。才があっても強い方では無い。この闇を一時的にでも破るような力は無い。助けに行っても難しい。


「……余が行くか? 余なら時間稼ぎも出来るし、もしかすると倒せるかもだぞ?」


 被害が一番少ないのはその作戦だろう。しかし恐れていた。バレてしまうのではないかと。彼女は魔族であり見つかれば殺されるのは避けられないだろう。兵が集まり交戦状態の所に送り込めばどうなる事か……そんな賭けはしたくない。だがこのままも良くない。


 村の安全と一人の魔族の命。普通ならば天秤に懸けるのもおこがましい。だがそう切り捨てられる程無情な思想は持っていない。


「……牧師。余は行くぞ。兵とこの村を救ってくる」


「で、ですが――」


「分かってる。余もバカじゃない」


 そこに関しては少し引っかかるがそんな事じゃない。自分の意志で行くと決めたのならば行かせてあげるのが道理なのかもしれない。だが少しの間でも一緒に過ごした家族ともいえる。最悪殺されるかもしれない等というところに送り出すなど到底出来ない。


「――ッ」


「ありがとう。牧師やっぱり優しいな」


「……せめて少しでも足しになれば」


 体力がごっそりと持ってかれるような感覚。代わりに伝わる熱。すべての決心がつき見送る。それぞれが自分のできる仕事をする。


「皆さん! 早く集まってください! 辺りは暗いです押さずに安全に!」

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