第11話 朝は遅い
魔族の朝は遅い。今日もいつも通り昼辺りに起きてくる。
「飯~……たい……」
「ちゃんと起きてから来てくださいよ……」
「眠い。やって」
不機嫌そうな顔をしながら洗面所まで引きずってくれる。
「付きましたよ。顔洗って髪を整えてください」
水を出しそのまま立ち尽くす。何の役目も果たさずにただ排水溝に流れる。
「もったいない。起きてください?」
全力で揺られやっと目が覚め動き出す。一度エンジンがかかれば寝るまで止まる事を知らない。勝手につまみ食いをして怒られる。
「――もういいもん!」
教会の扉を壊す勢いでこじ開け、そのまま屋根の上まで逃げる。ここが牧師の追って来れない最強スポットである。
「そんなに怒らなくたって良いのに……!」
静かな場所から村を見下ろす。過去の自分ではこんな生活を送るとは思っていなかった。魔族だから争いからは避けられない。魔族だから優しくされない。そんな世界だとばかり思っていた。
「……余はどうしたいんだろう」
屋根に寝転がり暑い太陽を眺めながら少し浸っていると下から声が聞こえる。優しくない牧師だ。
「ほら、昼食が出来ましたよ~! 屋根から降りてきてください~!」
しかとしてやろうと思ったがメニューを聞いてすぐに降りる。
「――いただきます~!」
「洋服にこぼさないでくださいよ?」
牧師の作る飯は美味い。だから優しいという事にする。ころころと変わる基準だが純粋には牧師が好きである。
「口周りに付いていますよ」
少し強めに拭き取ってもらいまた豪快に食べて汚す。これにはさすがに虚無の表情を浮かべる牧師だった。
朝食という名の昼食を食べ終わったら花に水を上げる。ここ最近は欠かさずにしっかりとやっている。
「さっさと咲け! 余の魔力もかけてやるからな」
「水は適度にですよ。あと、魔力は意味ないですからね」
「良いんだよ。思いはあっても困らないだろ?」
黙った牧師を見ると、目を丸くして固まっている。意識を取り戻すと感激の涙を流す。
「ついに……神の助言を覚えるようになったんですね!」
牧師はたまに気持ち悪い。神様関係になるとやたらうるさくなる。魔族は一人で生きてきた。普通は誰かに縋り付いたりなどしない。自分の力のみで生きていき、死ぬことも運命として受け入れる。
「……余は普通じゃないから縋ってもいいのだ」
「なんか言いました?」
やることも終わりいつも通りにダラダラと過ごす。相変わらず牧師は忙しそうにしているが昨日も同じことをやっていた。人もなかなか来ない所だ。きっとこの教会はずっとこんな感じだろう。
「牧師~暇~何かないの~?」
「何かあったらどうするんですか? 平穏な一日で何よりじゃないですか」
「余は平穏など求めていない! そう、刺激的な日常だ!!」
「太陽破壊するか、また一人で攻めに行ったらどうですか?」
どちらも過去に失敗したものである。皮肉しか言わない牧師がいるからここには人が来ないと勝手に納得する。全力で顔を歪め薄っすらと魔力を放出する。
「……一緒にお菓子でも作りますか?」
「牧師はいい奴だな!」
急に言い出すのが悪かったのか、また良からぬ事を考えてると勘違いされ警戒の念を感じる。
「その前に、手を洗ってきてください。それからです」
「分かった! まっていろ!」
こんな日がずっと続けば良いのにな……
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