霊吐き病
過言
検死
恋が成就しないと、花を吐いて死ぬ。
昔、漫画だか小説だかで、そんな設定の物語を読みました。
そういう病気で、見事両想いに進展すれば完治するんだとか。
なんてロマンチックなんでしょう。恋が成就すれば幸福な生、成就せずとも美しい死が約束されています。
じゃあ、私の目の前にある、
この死体は、一体何に片思いをして、何を患っていたんでしょうか。
――――――――――――――――
「あいつがどうかしたんですか?
……え?……死んだ?…………ちょっと待ってください、本当に?
いや、いやいやいやいや……その、一旦、俺の一個人の意見として聞いてほしいんですけど、……あいつは、……死ぬような奴じゃない、と、思う、いや、思ってたんです、けど。
……はい。何言ってるかわかんないと思います。でもその、俺も今、結構混乱してて。……いやその、あいつが死んだことに対してっていうか、……確かにあいつが死んだことに対して混乱してますけど、……でもそれは、親しい人間が死んだから、とかじゃなくて、……例えるなら……東京タワーが焼け落ちた、とか……富士山が土砂崩れでなくなった、みたいな……そういう、絶対ありえないことが起こったから混乱してる、みたいな感じで。
だから、悲しいとかよりも、疑問が勝つんですよ、本当に。
あいつ、どうやって死んでたんです?」
「ああなるほど、それなら納得です。あいつらしいわ。」
――――――――――――――――
8月11日
今日は〇〇町の××祠にお供え物をしてきた。
あそこは多分外れだ。何も感じなかった。
お供え物代がもったいない気もするけど、元々分の悪い賭けだし、仕方ない。
8月19日
今日、××祠の様子を見に行ったら、お供え物が踏みつぶされて、土と混じってぐちゃぐちゃになっていた。
もしかしたら、ライバルがいるのかもしれない。
先を越されないように、急がないと。
8月30日
吐き気が心地いい。
なんだか、もうすぐ見つけられそうな気がする。
私の、運命の人。
――――――――――――――――
友人Aに対する聞き取り調査メモ初版.txt
※聞き取り調査中、かなり支離滅裂な言動が見られた。それに伴いうまく聞き取れない部分も多かったため、そういった部分は黒塗りで表現しておいた。まとめる時にでも穴埋めしておいて。よろしく 20■■/12/05 担当者B
↓以下、友人Aの供述
わたしがっ、あの女を、わたしがこ■したに決まってる!
だってわたし、ずっと■ろってたんだって!!釘も藁も、ちゃんと全部、ちゃんとしたやつ買ったもん!
まいにち、■じから■んじまでずっと、あそこの木に■■■てた!
だからっ、あいつは死んで当然なのっ!
写真も髪の毛も、全部あいつの後をつけて用意したしっ!!あいつのお■■■■、■ぶした、ぜんぶ!!わたしだけでいいから!!あいつはわたしのせいで、わたしのおかげで!!わたしが死なせたんだ!!
(聴取担当者が、事前に押収しておいた藁人形を取り出す。藁人形の腹をかき分けて、中から写真を取り出す)
…………え?
…………だれ?
※これ以降、友人Aは自発的に話すことも、こちらの質問に答えることもなくなり、ずっと小さな声で「とられた」と繰り返していた。
――――――――――――――――
9月1日
かなり条件の良い祠を見つけた。決行。
――――――――――――――――
その祠に、持ってきたおにぎりを2個、供えた。
一つには、私の髪の毛が。
一つには、私の吐瀉物が。
そして、両方ともに、たっぷりの愛情が、混ぜ込まれている。
私の愛は伝わるだろうか。
私の吐き気は止まるだろうか。
首筋に、冷たい手が触れた。
苦しい。
狭まった食道を、それでもお構いなしに、胃の中の物が流れてくるのを感じる。
息はできないけれど、それでも。
ああ、伝わったんだ、と。
酷く、安堵できた。
胃の中から、肺の中から。
私の体の中の、あらゆる空洞から。
私が、私の幽霊が流れ出して。
口から、濁流のように溢れて、祠に降る。
そうして、邪魔なものがなくなって、愛だけが残った私の体に。
彼が。
――――――――――――――――
その死体は、顎が外れるくらいに口を大きく開けて、笑っていました。
ただ。
ただ、一つだけ、気になることがあります。
祠の影からずっと見ていた、幽霊である私だけが知っていること。
彼女は。
全て終わって、今から死ぬ、というその時に。
「ちがう」
と、呟いていました。
霊吐き病 過言 @kana_gon
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