第6話 魔物と再遭遇する

 ミミとメメは翌朝にちゃんと起きた。そして隣で寝ているロロを見て驚いている。


「ロロちゃんまでいる!」

「……」


「うむ、起きたかの二人とも。ロロはまだ起きぬか。まあ良い、朝餉あさげが出来ておるからの。食べようぞ」


 クウラの言葉にミミは喜び、メメも嬉しそうにしながら簡易ベッド(麻と絹)から降りてきた。

 クウラの用意した朝餉は兎肉を使ったスープだ。その辺に生えていた草も一緒に入れてある。

 前世での長年の経験から食べられる草を見分けられるクウラはそれらを一緒に入れて煮たのだ。


「おいしいよ、クウラお兄ちゃん」

「おいひい……」


 ミミもメメも美味しいと言ってスープを食べている。やがて匂いにつられたのかロロも起きたようだ。


「食べ物の匂いがする……」


「起きたかの、ロロもこっちに来て食べると良いぞ」


 クウラがそう言って石の器にスープをよそって差し出すとロロは頭を下げながら受取り食べ始めた。


「美味しい。塩味がする、なんで?」


 そう、クウラは調味料などは持っていない。ただの兎肉と雑草を煮ただけなのに塩味を感じるのは何故なのかと不思議に思ったロロはそう口に出していたのだ。


「ほっほっ、ロロでも知らぬか? ほれ、そこに入っておる草があるじゃろう。その草はの、大地の塩分を吸って成長するのじゃ。正式な名は知らぬが愚僧は塩草しおくさと呼んでおる。汁物の中に入っておるぐらい成長しておると塩分も十分に出るのでな」


 そうクウラがロロに答えるとミミとメメが頷き合う。そしてミミが言う。


「ロロちゃん! この草、おじいちゃんの畑の近くにいっぱい生えてるよね!」


「あ〜…… 生えてたね。ロウガンおじいもこの草だけは引っこ抜かないし。何故か聞いたら、若い頃に全部引っこ抜いたら作物が育たなくなったって言ってたような…… その時に育たなくなった原因は塩害?」


 ロロの言葉にクウラは頷く。


「恐らくそうであろうの。この塩草は大地の塩分を糧にして生きておるから、生えているという事はその大地に過多な塩分があるという事じゃ。なので全てを引っこ抜くのは間違っておるのじゃ。ただ草ではあるからの。余分なものはこうして抜いて食事に使えば美味しくなるという事じゃよ」


「クウラ…… ロウガンおじいより年寄りみたいな口調だね」


 ロロの言葉にクウラは笑う。


「ほっほっほっ、そうじゃのう。この七つの姿では少し可怪しいやも知れぬが、まあ長年この口調であったのでな。今さら子供らしい口調には戻せぬゆえ慣れてもらうしかないの。それよりも、ミミとメメよ。久しぶりじゃの。と言うても愚僧にしてみれば一昨日の今日なんじゃが…… まさかこうして再会出来るとは思わなんだ。これも如来様のお導きかの」


 クウラは前世の自分の最後を看取ってくれた狼と熊の生まれ変わりがミミとメメだと悟ったようだ。しかし、ミミとメメには前世の記憶がない。クウラ自身に懐かしさを覚えている程度だ。

 だがクウラの言葉にミミもメメも嬉しそうな表情をしている。


「あのね、クウラお兄ちゃんが言ってる事は分からないけど、ミミはクウラお兄ちゃんに会えて嬉しいよ」


「メメも嬉しい……」


「ほっほっ、そうかそうか。愚僧も二人に会えて嬉しいぞ。もちろん、ロロと会えた事も嬉しいぞ」


 そう言って穏やかに朝餉の時はすぎていった。食べ終えて片付けをしてからクウラは三人に言った。


「さて、コクイやワーズが迎えに来るやも知れぬが、こちらからも向かうのも良いかと思うてな。どうじゃ、この岩室から村へと愚僧を案内してくれぬかの?」


「うん!」

「うん……」

「私はもう少しあそこで寝たいけど」


 最後のロロの言葉にクウラは答えた。


「村のロロの住む家にも同じものを出してやるから案内してくれぬかのう?」


「さあ! すぐ行こう!」


 クウラの言葉にロロのやる気がみなぎったようだ。そして四人は岩室を出てコクイの守護する獣人の村へと向かう事になった。


 村へと向かう途中であった。


「クンクン、クウラおにいちゃん。魔物の匂いがするよ」


 小声でクウラにそう伝えるミミ。 


「ほう、そうか。ミミよ、どんな魔物か分かるかの?」


「うん、暴れ猪だよ。ロウガンおじいちゃんよりも大きいの」


 ミミの言葉を聞いてクウラは言う。


「ほっほう、それは良いの。手土産になるじゃろう。どれどれ、方向はこっちじゃな」


 とクウラは暴れ猪がいる方へと向かい出す。


「危ないよ、クウラおにいちゃん。大人が三人でやっと狩れるぐらい強いんだよ」


 とミミが言い、メメもクウラの腕を掴んで止めさせようとする。


「寄り道しないで早く村に行きましょう。私の寝床を整えてもらわないと!」


 ロロはそう言ってクウラを止める。大切なのは己の寝床を整えることのようだが。


「ほっほっほっ、ロロよ。慌てずともちゃんとお主の寝床は涅槃への導きを施すようにしてやろうぞ。人は衣食住が揃っておれば安堵するものよ。なのでこれから世話になるやも知れぬ村へと手土産の一つも愚僧も持っていかねばなるまい。なーに、それほど時は食わぬゆえ安堵するが良い」


 そう言ってクウラは暴れ猪の方へとスタスタと歩いて行く。気配も隠さずに。


 やがてクウラの目にも暴れ猪が見えてきた。体長二メートル、体高一、三メートルほどだ。


「ふむ、ロウガン殿よりは確かに大きいがこの程度では村人全員に行き渡らぬやも知れぬな…… まあ、顔合わせの手土産じゃて。これぐらいで勘弁して貰おうかの」


 言うとクウラは「『割っ』」と唱えた。その瞬間にクウラたちに気づいた暴れ猪の首がコロンと落ちた。だがその体はクウラたちに向かって走り出していた。が、暴れ猪の目に見えているのは縮まらない距離であり、走り出した体も首から先が無くなったので、バランスを崩して直ぐに横倒しに倒れたのだった。


「うわ〜、今のクウラおにいちゃんがやったの? すごいねっ!!」

「凄い、ごちそうだっ!」

「ほんとに直ぐだった。さあ、帰ろう。早く帰ろう!」


 ミミはクウラを称賛し、普段は無口なメメはヨダレを垂らし、ロロは安定の寝床確保であった。


 クウラはまた「『闊っ』」と唱えて狩った暴れ猪を己の異空間へと収納した。


「さて、それでは参ろうかの」


 クウラの言葉に三人は喜んで村へと案内してくれるのであった。


 そうして歩くこと十五分。村からはコクイとワーズがクウラたちを迎えに行こうと村を出ようとしていたのだが、向こうからやって来る四人を見て慌てている。


「ロロ、ミミ、メメ! 無事だったか!?」


 ワーズがそう言うとコクイも、


「クウラよ。其方の実力は知っているが幼子を三人も連れてのこの辺りの外出は危ない。しかもはぐれの暴れ猪が出ているそうなのだ。クウラの元に向かう途中で俺が退治する予定だったのだよ」

  

 とクウラに告げた。それを聞いたミミは大きな声で言う。


「コクイ様! 暴れ猪ならクウラおにいちゃんが一瞬で倒しちゃったよ。村へのお土産だって!!」


 ミミの言葉を聞いたワーズは震え声で言う。


「ミ、ミミの言葉だが信じられんぞ…… それに土産というが何も持っておらんじゃないか」


「ワーズ殿。心配せずともちゃんと猪は持っておるでな。どこに出せば良いか言うてくれぬか?」


 クウラの言葉にワーズは案内すると言って村の中へと招き入れた。村の中心部にほど近い場所に共同使用の解体場所があった。


 クウラはそこに先ほど狩った暴れ猪を異空間から取り出して出した。


「ほ、本当だったのか……」


 ワーズは固まるが、コクイはクウラに礼を言う。


「さすがクウラだな。有難う、村人たちが怪我をしたかも知れないサイズだ。助かったよ」


「なに、愚僧がこの村に住まわせて貰うのに手土産の一つも無いとと思ったまでじゃよ。ワーズ殿、こちらは少ないやも知れぬが村の皆で分けてくれぬか?」


 クウラの言葉にワーズはコクコクと頷き、


「少ない筈がない。これだけの大きさだ。暫くは肉を食べられる。有難う、クウラ殿」


 そう礼を言う。それを見てクウラはこれからロロたちの住まいに行くからと言ってその場を後にした。

 ロロの機嫌が良い。


「クウラ、私の寝床にアレをお願いね!」


「ほっほっ、分かった、分かった。ロロだけでは不公平じゃてな。村の皆も望む者がおればちゃんとつくろうぞ」


 そう好々爺のごとく笑いながらクウラはロウガンの住む家へと向かうのであった。  




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その一喝は全てを整える……筈 しょうわな人 @Chou03

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