050.思い出がいっぱい

──ああ、うん、大丈夫。

ごめんね、心配かけちゃってさ。

──うん、うん。ありがとう。

──大丈夫。ちゃんと食べてるよ。


──うん……ああ、そうだよね。

いや、うん、大丈夫……。

──あ、いや、そういうんじゃないから。

大丈夫……。


……いや、実はさ、先月……15日だったかな……。

──そう、その日。

急に予定なくなったから、最初は家でゴロゴロしてようかって思ったんだけど、それもなんだし、そのまま一人で出かけたのね。

カフェ行って、ちょっと服屋とか覗いて。たまにはこんなのも悪くないなって……あ、いや。一人の方が良いとか、そういうんじゃなくね。


で……なんか気分が乗ってきてさ、電車乗って■■まで行ったんだよ。ちょうどお昼だったし、前から気になってたラーメン屋でも行こうかなって。


それで、ラーメン食べてさ…………。


──ああ、いやごめん。何でもない。

ちょっと……うん、平気。平気。


それでね、お店出て、駅の方に歩いて行ったらさ。

なんか……なんていうの? 雑居ビルっていうの?

あんま大っきくないビルでさ、その一階の、あの、道路に面して、あ、いや、面してっていうか、その、そこがさ……ちょっ……。


……ごめん。ちょっと水飲むわ……。


…………ごめん。オッケー。大丈夫。


それで……そう、そのビルの一階がさ、ギャラリーになってて。たぶんその展示のタイトルなんだと思うんだけどさ、ガラス扉に『思い出がいっぱい』って書かれたポスターが貼ってあったんだよ。なんていうかさ、ノスタルジックっていうか、レトロなデザインのポスターでさ。


俺、昭和レトロとか好きじゃん?


だから、ちょっと入ってみたんだよ。ギャラリーとか入ったことないからさ、ちょっと緊張しながら……。


中は思ったよりは広くて。っても、まあ高校とかの教室くらいの広さかな。そこにさ、展示台っていうか、小さいテーブルみたいのが並べられてて。その上に子供が…………子供が作ったようなさ、その、工作とか、紙粘土で作ったようなのが置かれてて……。あと、壁には、額縁が……で、画用紙に描いてある子供の落書きみたいのが……その、飾ってあって……。


…………ちょっと待ってね。

…………ふう。大丈夫、平気。俺は、平気……。


それで、しばらくは「ふーん」って感じで見てたんだけど、途中から、急にその、違和感があってさ。最初はなんだかわかんなかったんだけど、だんだんと、その……思い出してきて。


その展示してるやつさ、たぶん、俺のなんだよ。


いや、たぶんっていうか。ほぼ、間違いなく。だって覚えてんだよ。覚えてるじゃん? なんとなくさ。幼稚園の時とか、小学校に自分が作った工作ってさ。


──そりゃパッと思い出せって言われてもあれだろうけど、見ればなんとなくわかるじゃん。少なくとも俺はわかるんだよ。わかったの。そこにあるやつ見て、俺の作った、俺の描いたのだってさ。紙粘土の怪獣とか、飛行機の絵とか、絶対俺のなんだよ。


それで俺、絵をね、絵の方をさ、よく見てみたんだよ。ほら、幼稚園とかで描いた絵ってさ、なんかほら、画用紙の端っこに何組の誰それみたいに名前書いてあるじゃん。それ見れば俺のかどうかなんて一発でわかるから……でも……なくて。書いてないってことじゃなくてさ、物理的にないのよ。明らかに切り取られてんの。トリミングされてるっていうかさ。


そんな感じで俺が真剣に絵を見てたからか、急に声をかけられたのね。振り返ったら、なんか、知らない男──俺よりちょっと年上くらいの感じの男がさ、ニコニコしながら立ってて。「どちらか気に入られましたか?」なんて聞いてきて。だから俺……「これって、貴方が作られたんですか?」って聞いたんだよ。そしたら迷わず「はい」って。


いやそんなわけないじゃん?

だって、ねえ、俺だし。作ったの。

作った俺が言ってんだから間違いないじゃん?


でもさ、いきなりそれで「作ったのは俺だ」なんて言ってもさ、ほら、ヤバいやつ過ぎるかなって……その時は思って。取り敢えずなんか適当に誤魔化して外に出たんだよ。そしたら、よくわかんないけど、無性に気持ち悪くて、気持ち悪くなって、吐いちゃってさ……俺…………。


家に帰って、もう考えないようにって思ったんだけど、やっぱり気になるじゃん? でも意味分かんなさ過ぎてさ……。で、母さんに電話してみたんだ。それで「俺が子供の頃に作った工作とかってどうした?」って聞いてみたんだよ。もしそれで「全部家にとってある」って言われたら、昼間のは気の所為だったってなるからさ。


そしたら……「よく出来てるやつはいくつか残してあるけど、それ以外はとっくに捨てちゃったよ」って。


……まあそうだよね。そんなもんだよね。普通。

いや、俺もたぶんそうだろうなーとは思ってたんだけど。


「ごめん、なんか必要だった?」なんて言われたんだけどさ、なんて返したらいいかわかんなくて……。「別に、ちょっと気になっただけ」って、電話切って……。取り敢えず、もうその日は考えないようにして、酒飲んで寝たんだよ。


──あ、ごめん、ちょっと。最後まで話させて。

──うん、ごめん。全部話し終わってから聞かせて。


でね。もう忘れようって思ったんだけど。ただ、やっぱり忘れられなくて。気になっちゃってさ。やめときゃいいのに、またあのギャラリーまで行ったんだよ、俺。一人でさ。


そしたら……なんか空っぽで。展示会、終わってるっぽくて。鍵もかかってたし。仕方ないからSNSで調べてみたんだよ、その『思い出がいっぱい』って展示会のさ、なんか情報ないか。だけど、何にも出てこなくて。


今度はギャラリーに問い合わせてみたんだ。「先日『思い出がいっぱい』って展示やってましたよね?」って。そしたらさ「はい」って。だから作者の名前を聞いてみたんだよ。そしたら普通に教えてくれて。一応連絡先聞いてみたんだけど、それは流石に教えてくれなかったんだよね。


──名前は■■■■■って人。


──うん、そう■■■■■。


──どうしたの?


──……え?


え? え? え?


ごめん、え? ちょっ、えっ? どういう意味?


■■■■■が、俺って、どういう意味?


え?


──いやいやいや。


えっ?


えっ、でも俺……えっ?


あれ? ちょっと待って?


ここ、何処?


あれ? もしもし?


あれっ?


あれ?

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【ホラー掌編集】百話厭説 @tou_tower

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