第37話 おおい(怒)!

 ダンジョン43日目 ダンジョンの応接室にて


「じゃあ、ご主人様。こちらのベッドに入ってください」


「お、おう!」


 見るからに興奮しているケンさんを見るにつけ、俺はますます不安がわき上がってくる。

 大丈夫かな……。

 エリーナさん、やらかしそうなんだけど……。


 ベッドにダイブするように毛布の中に潜り込んだケンさんは、顔だけ出してエリーナさんが来るのを待っている。

 ケダモノの目だ。


「ケンさん、服を脱いでくださいね」


「え? 何で? 後からじゃダメなの?」


「ええ、シナリオが上手くいかないから」


「シナリオ?」


 エ、エリーナさん、危険な言葉を使わないでくれよ!!

 黙って立っている俺は、脇からの嫌な汗が止まらない。

 

「はは、ケンさん。エリーナはどんなふうに抱かれようかシナリオを考えていたみたいですよ」


「あ、ああ、そうか? でも、そんなのいらねえよ。俺に任せてもらえればOKさ」


 ケンさんがドスケベでよかった……。

 危ないところだったよ。


「任せるって、どんなふうにするんですか? 私、パターンを1つしか知らないんですけど」


「パターン?」


 おおい(怒)! お前、わざとやってんのか!!

 俺は慌ててエリーナさんの側に寄る。


「エ、エリーナさん。まずは上着を脱ごうか」


「ええ、でも今、パターン……」


「いいから脱げやあああ!!!」


「はい(嬉)!!!」


 そう言うとエリーナさんは、上着を脱いで惜しげもなく上半身をさらけ出す。

 ふう、辛うじておっぱいだけは隠したんだな。

 揺れるエリーナさんの胸を見たケンの目が、ぎらぎらと輝き出す。


「お、おい! エリーナ! 早く、こっちにこい!!」


 呼び捨てかよ。

 エリーナさんは俺を見て頷くと、ゆっくりとベッドの方に向かって歩いていく。


「ケンさん。もう脱ぎました?」


「ああ、これでいいだろ」


 どうやら脱いでしまったようだ。


「では、目をつぶってください。見られると恥ずかしいし……」


 ケンが目を閉じたのと同時に、エリーナさんが口で何かを呟く。

 ん? ケンがもう眠ってるのか?


「マスター。もう大丈夫です。この人は私の術下にあります」


 綺麗な女の子に見えても、そこはやっぱりモンスターだな。

 得体の知れない怖さがあるぜ。

 次の瞬間、エリーナさんが全ての服を脱いでしまい、俺を妖艶な目つきで眺めてくる。

 はい、すっぽんぽんですよ。


 エリーナさんは、鶏の血が入った袋を目の高さに掲げている。


「この血はどこにつけるんですか? マスター、さわってつけてもらえませんか?」


 絶対、分かってるよね! 

 こいつ、サキュバスの本性を現しやがったよ。


 白い輝くような裸体を惜しげもなく俺に見せつけて、少しずつすり寄ってくる。

 クリュティエだったら、延髄切りをくらわせてるとこだ!

 俺は怒りとリビドーをかろうじて隠す。


「ははは。エリーナさん、ご冗談を。それにケンさんが起きたら大変です。さ、作戦に戻って」


「は、はい」


 エリーナさんが元に戻ったところを見ると、サキュバスの本能が常に現れるわけでもないのか。

 俺は扉を開けて、通路に出ると同時に扉に鍵を掛ける。

 振り返った俺は、先ほどの男と目が合う。


「先ほどは失礼いたしました。この部屋は30分ほど貸し切りになります。その間、執務室でコーヒーでもいかがですか?」


 男は表情を変えずに、くるりと振り返る。


「いや、こんな穴蔵でコーヒーを飲んでも旨くない。俺は洞窟の外で煙草を楽しんでくる」


 そのまま、入口の方へ向かって歩いて行った。

 それを見届けた後に、俺は執務室へと戻る。

 執務室では、灰色狼だけが俺を待っていてくれた。


「よしよし。お前、もう少し、ここを守っていてくれ!」


 狼はうんうんと頷いて、座ると大あくびをして寝る体勢に入る。

 わしわしと狼を撫でた俺は、そのあと、執務室の横にある隠し扉の前に移動する。

 ここから、応接室の中に入ることができる。


 扉を少しずつ開けていく。

 もしかしたら、変な声を出してるかも知れないし、何と言ってもサキュバスに知り合いがいないからなあ。

 でも、何の音も聞こえないな。


 そっと部屋に入るとエリーナさんがベッドの上でケンさんに手をかざしている。

 目を閉じたまま、ピクリとも動かない。

 俺は邪魔にならないように、隠し扉のところに腰掛ける。

 

 その様子を眺めながら、俺はこのあとの作戦について考えを巡らしていた。

 やがて、30分くらい経った頃だろうか。

 エリーナさんがベッドの上でゴソゴソしていたかと思うと、そのままベッドの上に横たわる。

 

 ここが一番大事なところだ。

 俺は急いで執務室に戻り、そのまま応接室前の扉の鍵を開ける。

 ドアを開けた瞬間、ケンさんがベッドの上に起き上がっていた。


 見ると、エリーナさんが毛布の端を持ちながら、しくしくと泣いている。


「寝てしまったか……。って、エリーナ。お前、最高だったぜ」


 そのまま、エリーナさんに近づくのを見て、俺は咳払いをする。


「ケンさん。お楽しみいただけたでしょうか?」


 俺がいたことにケンさんは動揺したのか、エリーナさんに近づくことを諦める。


「ダイスケ、最高だったよ。お前の誠意、しかと受け取ったぜ!」


「気に入ってもらってよかったです。どうかギレン様によろしくお伝えください」


 名残惜しそうにエリーナさんを眺めながら、ケンさんは洋服を身につける。

 そして、エリーナさんに一声掛けると、俺の立っている場所に近づいてくる。


「また、エリーナと遊びたいんだが」


 俺は満面の笑みになる。


「分かりました。ただし、無料は今回だけです。次からは銀貨3枚をいただきます」


「何! 高いぜ!」


「でも、エリーナであれば、もっと高くてもいいっていう方が多そうです。そちらの方には銀貨5枚にしようと思っているんですよ」


 しばらく考えていたケンさんだが、やがて承諾の意を示す。


「分かった! じゃあ、次、すぐに来るからな」


 その後を、俺とエリーナさんが見送るのだった。

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ダンジョンマスターなのに配下のモンスターが自由すぎる。早く現代に戻りたいんだけど。 ちくわ天。 @shinnwjp0888

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