山に囲まれた限界集落、「おいぬさま」という土地神を祀っていた。
村の存続のためにIターン政策を取るが、根付いたムラ社会で生きてきた先住民と、来てやった意識の移住者の仲は芳しくない。
主人公は「おいぬさま」への進行を守る家に生まれ、幼少期に「おいぬさま」に助けられたからか、強い信仰心があった。
しかし、移住者にはこの「土地神への信仰」は受け入れられず、さらに互いの溝を深くする原因であった。
その中で、遂に移住者の一人が不審死を遂げる。
それが、引き金となり、村は惨劇へと歩んでいく。
読めば読むほど、「人間関係の沼」が詰まっており、追い詰められた時こそ本性が出るというのがよくわかる作品です。
怪異もホラーですが、それ以上に……。
もっと、おぞましいものがいる、そういう作品です。
「おいぬさま」とは、何なのか。
「信じる」とは、何なのか。
是非読んでほしい作品です。
限界集落出身の俺としては、懐かしい思いでこの物語を読んだ。
惜しむらくは俺の出身地は因習村ではなかったので、この点においてはシンパシーを感じることはできず、想像力に頼るしか術はなかったのだが。
巧く社会風刺が効いた物語だと思った。(ホラー小説に対する褒め言葉になっているのかどうかは、はなはだ疑問ではあるけれど)
作中の村ではIターンを推奨する政策をとっているが、ムラ意識の強い先住民とお客様気質の移住者の間に在る溝は深い。引いて語るならば我が国の高齢化社会の働き手不足を、外国人労働力に頼る向きもあるのだが……この物語に照らして見れば、行き着く先に恐ろしさを感じずには居られない。
さて、冒頭で因習村などと表現したが、本作で住人に課せられた因習と言えば、弊を『おいぬさま』の祠に捧げて加護を祈る事だけだ。しかも当番制で、月に一度か二度の順番が回ってくるだけである。
このささやかな習慣をめぐって事件は起きる。
主人公はおいぬさまを祀る家の女性で、信仰を護る立場に在るのだけれど、登場人物の全員が一癖も二癖もあるものだから、何をするにしても一筋縄では事が運ばない。
先住民と移住民の確執のみならず、先住民の間にも確執があり「ああ、ムラ社会ってやつは……」などと昔を思い出して頭を抱えずには居られなかった。
このような状況だから、信じられるのは身内のみという事になるのだけれど、はてさて……。
安定感の在る文章で、安心して読むことができる作品だ。
終止不穏な空気は漂っているけれど過激すぎる描写もなく、ホラーが得意ではない方にも安心して読んで頂けるのではないだろうか。
限界集落で繰り広げられる惨劇の、行き着く先はどこなのか……。
ぜひご自身の目で確かめて欲しい。