墜落ノ宴

結城 優希

第1話 落ちゆく銀翼

「柄本副機長……」


 めっちゃ嫌そうな顔すんじゃん。無理だって、そんな顔したって俺は言うから。


「聞きたくないです。言わないでください。」


 馬鹿じゃねえの?今仕事中だっての。


「この飛行機は墜r─────」


「言わないでって言ったじゃないですか!」


 言わないでって言われたらそのまま言わないとでも!?


「これも仕事だから言って現状の共有をしなければならない。それでその現状なんだが、この飛行機は墜落する。燃料が切れた。」


 なんでよりにもよってこの機体なんだよ。ヤダよ他の機体に起これよ。


「げ、原因は!」


 知らねぇよ!こちとらこの飛行機の整備員でも何でもないんだぞ?急劇に減ってなくなった燃料の行方なんて知らん!漏れでもしたのかなぁ〜くらいの想像しかできんわ!


「わからん。わからんが、作品進行上の都合ってやつだろう。いや、そんなこと今はいいんだ。何らかの原因で突然燃料タンクが空になった。そして俺らはこの機体をどうにか不時着させなければならない。それだけ分かっていれば今は十分だ。」


「そんなことって……」


 原因わかったところで燃料はねぇんだからどうしようもねぇんだよ!無駄口叩いてないでさっさとどうするか考えやがれこの無能が!いや、ダメだ。こんな状況で感情的になってどうする。こんな時こそ冷静にだ。


「今はこの期待を安全に着陸させることが最優先だ。原因を探すのは全て終わってからでいい。この飛行機は東京発サンフランシスコ行きで今は太平洋上を航行している。この飛行機の最良滑空比は約20。機体の高度は1万メートル。つまり滑空できるのは200キロメートル程でその範囲に陸は無いか……詰んだな。」


 片方のエンジン止まるくらいならどうとでもなるけど燃料空でエンジン全停止はさすがに想定外過ぎてどないせいっちゅうねん!


「何諦めてるんですか!水上着陸を試みるとか……」


 そりゃ諦めるさ!今できるの滑空だけなんだぜ?ちょっとでもバランス崩せばそれすらもままならずに50メートル地点から飛び込んだらコンクールにぶつかるのと変わらないとかいう水面と熱いハグだぜ?死ぬだろ!


 助けて某黒の剣士さん!ステイクールできません!このままだと海に向かって猪突猛進しちゃいます!もう俺にはどうすることも出来ないんだ!別に俺は怠惰な訳じゃない!


「無理だ。動力がない今機体の安定させるのは熟練の機長でも至難の業だ。しかも俺は今日初めて旅客機を操縦するんだぞ?そんな状況で水上着陸なんてしてみろ。間違いなく大破する。それにここは太平洋の上だ、絶対に助からない。」


 ハハッこれは自業自得だよな。コネなんてろくなもんじゃねえや。次の人生があれば……俺は人になれるのか?こんな状況でコネで機長やってる俺は来世は……いや、次は地獄かな?


「ちょっ!あんたしれっと今やばいこと言いましたよね!今日が初めての操縦とか僕の聞き間違いですよね?そうだって言ってくださいよ!」


 まぁしょうがないか。死んだら地獄でしっかりこの罪を償っていこうじゃないか。そうは言ってもちょっと怖いなぁ……


「おいコラ現実逃避してんじゃねぇよ!」


 おっと柄本を怒らせてしまった。まぁこんな状況だからイライラするのは分かるがこんな時こそ冷静になるべきだと言うのに柄本のやつはまだまだだなぁ。やれやれ……


「え〜っと確か俺が今日初めて飛行機を操縦するのが本当かって話だったな。残念ながら聞き間違いではない。純然たる事実だ。」


「何でそんなやつが機長やってんだよ!」


 柄本は想像力が足りないなぁ。そんなの一つしかないじゃないか。アレだよアレ。


「俺の父親が役員でな。所謂コネだ。」


 ふっ、親が役員とか羨ましかろう?


「じゃあなんでよりにもよって東京サンフランシスコ間の運航担当してんだ」


 ふむ、思っていた反応と違うなぁ……つまらん。とりあえず質問には答えておくか。


「俺がアメリカに行きたかったからだな。」


「普通そんなんじゃ決まらねえんだよ!」


 そんな普通なんざ知らねぇよ!実際決まってんだから現実受け入れろや!


「コネだ。」


「ざけんじゃねぇよ!」


 ギャーギャーギャーうるせぇなぁ、発情期かよ。


「どうせもう助からないし最期に俺は俺の夢を叶えてくる。」


「夢?こんな時に一体何をするっていうんだよ。てめぇのせいでこれから死ぬっていうのによぉ!」


「水上着陸することになった原因を俺に求めるのは筋違いというものだよ。文句ならこんな機体を航行させた整備員か創造主に言ってくれ、俺は知らん。」


「すまん、これはただの八つ当たりだな。それでいったい何をするんだ?」


「デスゲームの主催者だ。」


「は?お前何言ってんの?」


「まぁとは言っても主催者は母なる海だけどな。俺はそれに相乗りする形にはなるが人間側の主催者ということでいこうと思うんだがどう思う?」


「こいつイカれてんなぁって思う。」


「どうせみーんな死んじゃうんだ!最期のゲームと洒落込もうぜ?まぁデスゲームと言っても俺が直接誰かを殺す訳でも殺し合いをさせる訳でもない。ちょっとしたゲームをしてその結果としてとある薬を飲んでもらうだけだよ。どうだ?楽しそうだろう?」


「こいつ……イカれてやがる。」


「デスゲーム配信かぁ〜ワクワクするな!お前もそう思うだろ?柄本。」

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