第3話「聖痕」
いたたたたたた……
目を覚ますとそこには見知らぬ天井があり横を向くと寝る前に様子を見に来た幼い少女メイドのケティが椅子に座り寝息を立てている。
「まだ小学生高学年くらいの歳かな?それにしても背もたれも使わず器用だ……」
独り言に気が付いて確認に来るくらいだし朝まで起きてたのかな?
マモルは体の痛みを我慢してゆっくり横を向き今にも涎が落ちそうなケティの寝顔を見守る。
しばらくそうしていると急にケティがビクッとして目が開き目が合う。ケティは寝顔を見られていた事そして主人である護の前で寝てしまっていた事を理解した途端、顔をトマトの様に赤くし両手で顔を隠す。
「マモル様……申し訳ございません」
「大丈夫だよ。疲れてたんだね……可愛い寝顔をありがとう」
お礼を言うと更に茹で上がったように全身が赤くなりショートしそうになっている。
今日は医者が来るって言ったけど俺の身体に何があったんだ?痛みがあるから怪我をしてるのは理解できてるけど家に医者を呼ぶほどの事なのかな……
「ケティ……質問なんだけどさ、俺はどうして怪我をしてるんだ?」
ケティはどう話したものか悩みつつ言葉に気をつけながらゆっくり話始める。
「マモル様は奥様と神殿で5歳の洗礼の儀を受けてスキルを頂いた後、隣町の市でお買い物をした帰り道に突然雨の中馬車から飛び降りて道中にある木に向かって走り……運悪く雷に撃たれて重傷をおってしまいました。直後は息もしておらず危機的な状態だったのですが一緒にいた奥様付きのメイドが回復魔法を使えたので応急手当をし心肺蘇生をすることで何とか息を吹き返しました」
薄っすらだけど状況が掴めてきたな。つまり記憶にないだけでこの体は普通に生活をしていて、ある日スキルを授かれる儀式?を受けた後に隣町までショッピングに出かけて帰り道に何を考えたのか飛び出して雷に撃たれて生死をさまよったという事か……。我ながらその突飛な行動はどうなんだ?神様が絡んでいたりするのかな?
黙って状況の整理をしているとケティは申し訳なさそうに上目遣いで複雑そうな様子を見せつつ話を続ける。
「しかしそこまでの重傷を完治させれるほどの魔法師は中々見つからなくて伝書を飛ばし、王都から早急に回復魔法師を呼び寄せることになり今日到着予定になっています……ごめんなさい……私が傍にいたのに守る事も出来ずマモル様が意識不明になっても眺める事しか私にはできなくて……ごめんなさい……」
遂に我慢できなくなったのかケティは謝りながら泣き始めてしまった。
話を聞く限りだとケティに落ち度は見当たらない。飛び出した自分が悪いしこれでケティを責めるなんてことがあれば俺は自分で車にぶつかっていちゃもんをつけてるDQNみたいじゃないか。
「大丈夫だよ。ケティに落ち度はないし俺は怒ってもいないからそんなに泣かないで……せっかく可愛いんだから笑ってよ」
「でも……私はマモル様付きの専属なのに何も出来なくて、痛みを和らげることもできなくて……へぇっ……わた……し……」
ケティに手を伸ばし優しく涙を拭ってあげてそのまま頭を撫でる。
「ケティ!どうしようもない事で泣かなくていいんだよ……俺は生きてるそれが全てだし何も出来なかった事が気になるなら次出来るようになってればいいんだよ。今はケティの笑顔で安心させてくれない?」
「……ハイ……」
泣きながらも笑顔をマモルに見せてくれる。
「もう少しこっちにおいで」
少し困った顔をしつつゆっくりベットに寝たマモルに近づいたところで今出せる目一杯の力で抱き寄せる。するとマモルに顔を埋めてまた泣き始めたケティの背中を撫でてあげると次第に落ち着きを取り戻してくる。
「グスッ……ごめんなさい……次こそマモル様の力になれるようもっと努力します」
ケティの力強い瞳にはっきりと覚悟が見てとれてマモルは嬉しくなる。
これまでの記憶はないけどそれほど年も変わらないケティに自分がここまで慕われると言うのは嬉しいな。
話をしながらケティを抱きしめていると部屋の扉が突然開き、昨日母親と名乗っていた女性と白を基調とした鎧を着た男が一緒に入ってくる。
「マモルちゃん。ケティちゃんと何かあったの?」
マモルに抱かれ明らかに泣きはらした目をしたケティを見て心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫だよ。怪我した時の話を聞いてたら泣いちゃっただけだよ……それよりその隣の方が昨日言っていたお医者さん?」
マモルにはどう見ても医者には見えない。どこの世界に重そうな鎧を着て屈強な体を持った医者がいるだろうか。
さっきから探るような目つきで男がこちらを見てくるけど不快感がある訳ではないし何なんだろうこの感覚……。
「予定していたお医者さんが捕まらなくてどうしようもなくなった時に、手紙を受け取った第二王女様が自分の優秀な騎士様を送ってくださったのよ」
王女相手に手紙を出せるってうちの家はそんなに偉いのか?それに確かに優秀そうな騎士ではあるけどどうやって治すんだろう……騎士だし応急手当くらいは出来そうだけど……
マモルは疑いの目を白い騎士に向ける。
「エレナ様。そろそろ自己紹介と診察をしてよろしいでしょうか」
「そうね……マモルちゃんが明らかに疑いの目を向けてるし……」
白い騎士は目の前まで歩いてきた後しゃがみ込み目線を合わせる。
何も分かってない子供相手にちゃんと目線を合わせるなんて凄いな。ただの騎士ではなく王女の騎士なのであればそれなりの地位もあるだろうに……
「マモル君、俺の事はグランツと呼んでくれ。第二王女の持つ白の騎士団で副騎士団長をしている」
このグランツさんが想像以上に偉い立場の人で驚きを隠せない。
副騎士団長というとおそらく2番目に偉いと思うんだけど子供の怪我一つで動いていい人なのか?
グランツは疑いの視線が強くなっている事を気にすることなく説明を始める。
「エレナ様……結論から申し上げますと完全な回復は難しいと思います。私の魔法で治療すればとりあえず食べたり動いたりは問題ありません……しかし身体に深く刻まれた傷や半分白くなってしまった髪を治すことは……」
グランツが完全に治せない事が分かり困った表情をする。
エレナはすぐにグランツに詰め寄る。
「治せないとはどういうことなのですか!?白の騎士団は騎士団の中でも回復魔法に秀でた人が多いはずでしょ?」
「確かに私たちは回復魔法に関して国で1番の自信があります。ですからこれがただの怪我なら問題ありませんでした。しかしマモル君に刻まれている傷などには神力が感じられるので聖痕だと思います。聖痕は魔法などを弾くので回復魔法で治すことができません」
申し訳なさそうにマモルを見るグランツをみたエレナはどうしようもない事なのだと理解し唇を嚙みしめる。
「母さん大丈夫だよ傷くらい何も問題ないよ。グランツさん痛みもどうにもならないの?」
「いや、痛みならハイポーションで引くと思うよ。弾いてしまうのはあくまで外側だからね。それに聖痕は悪い事ばかりじゃないよ、聖痕は神に愛されたものに与えられることが多く恵まれているともいえるし何よりこんな大きな聖痕を自分は見たことが無い。もしかしたら神に愛されたスキルを授かってたりしてないかい?」
「それがちょうど落雷に撃たれた日が洗礼の日だったのだけどかなり神父様でも読めないものが多く分かっていることは祈祷のスキルのみなんです……あまりに分からないことだらけだったので後日王都に行ってもっと詳しく調べる予定だったんです」
どうやら俺のスキルはまだ誰にもバレてないんだな……
==========
マモル・グラディール 5歳
職業:夢見る会長
称号:神の愛し子
<ステータス>
Lv.1
HP:20 MP:1
STR:3 DEX:2
AGI:2 VIT:1 INT:100
<スキル>
①施設召喚Lv.1【U】
②保管庫【U】
③健康Lv.1【L】
④祈祷Lv.1【R】
⑤神眼Lv.1 【L】
⑥鉄壁Lv.1【L】
<加護>
創造神の加護Lv.10 ▼
守護神の加護Lv.10 ▼
==========
改めてこれ見せて大丈夫なやつなのかな?……とりあえずまだ先の話だろうしまた後で考えよう。
「マモル君も辛いだろうしハイポーションなら持っているから先に聖痕以外を治しますね」
グランツは腰に下げた小さなポーチからフラスコのような形状をしたガラスの容器に真っ赤な液体の入った物をマモルの前に差し出す。
明らかにポーチのサイズと合っていないがとりあえず差し出されたハイポーションを一気に飲み干すとすぐに体の痛みが引き始め、あっという間に痛みを感じなくなり体を捻ったりして体の調子を確かめる。
「グランツさんありがとうございます。痛みも無くなって今にも走れそうな気がします」
痛みからの解放に嬉しくて思わず立ち上がろうとするもケティとグランツに抑えられる。
「いくら痛みが亡くなったとは言ってもマモル君は10日間も意識がなかったんだいきなり動いたら駄目だよ」
困った子を見るような目で優しく抑えてくれる。
(……10日間!?……)
驚きすぎて声もでない。
よく考えればそうか……王都までの距離は分からないけど意識不明になってすぐ第2王女に手紙を送ったとしてもそこから人探しをしてグランツさんがここに来るまでの時間がたってるわけだもんな。
「とにかく少し安静にして軽い食事から始めるといいよ」
「グランツさんありがとうございます。今回の事は借りにしておいてください……自分が必ず利子をつけてお返しするとお約束します。今が自分に貸せる最高値ですよ」
マモルはグランツに満面の笑みを向ける。
グランツはその提案に驚きが隠せない。僅か5歳の男の子が借りていずれ利子を付けて返すというのだ。
グランツはしばらく悩んだ様子を見せる。
「マモル君は面白いね!いいよ本当はハイポーション代など諸々を請求予定だったんだけどマモル君に貸しておいた方が大きくなって帰ってきそうだ」
グランツはついに我慢できず笑い涙を流す。
「そしたらその借りは私へではなく私が支える主、第2王女殿下に返してあげてほしい。マモル君は大きくなりそうだ!」
最初の落ち着いた騎士様といった雰囲気はもう無く、笑い転げてはいないが誰も見ていなかったら転げてそうなほど爆笑している。
「分かりました。そう遠くない未来にお返ししに行きますね」
いつ入ろうか迷っていたエレナが割って入る。
「グランツ様!貸しなんていけません。何も支払わず返してしまったら私が怒られます」
「大丈夫ですよ。私から第2王女殿下には説明しておきますので。それにこれは勘なのですがマモル君に貸しを作っておくほうが良いと言っているんですよね……きっと大きく育つと思うので王都に返しに来てくれるのを楽しみにしています」
エレナもそこまで言われると折れて改めて頭を下げてお礼を言う。
その後も今後の事などを話しているとあっという間に時間が過ぎグランツが帰路に向かう時間がきてしまった。
「エレナ様、マモル君それでは時間なのでそろそろ報告しに帰ろうと思いますが何かありますか?」
「大丈夫です。姫様にお礼だけお願いします」
「かしこまりました。マモル君は大丈夫ですか?」
落ち着いた雰囲気といい子供への気づかいといいモテそうな男だ。あの大爆笑は何だったのかと思わせられる。
「こんな時間から帰れるのですか?それほどたたず日が落ち始めそうですけど……」
ピューーーー!
窓を開けホイッスルの様なものを吹くとすぐに10mを超える白いドラゴンが庭に降りるとグランツはドラゴンの背に飛び乗ると少年のような笑みをマモルに向ける。
「これが俺の相棒さ!王都まで借りを返しに来たらその時乗せてあげるよ」
鞍がついてるとは言えあれに乗るのは凄いな俺も乗ってみたい……
「約束ですよ!絶対に返しに行くのでその時お願いします」
「わかった約束だ!……それではエレナ様、マモル君もう行きますね。今後もよろしくお願いします」
「この度は本当にありがとうございました」
エレナとマモルは深々と頭を下げる。すぐにグランツは飛び立ちあっという間に姿が見えなくなった。
「もう!マモルちゃん!勝手な事ばっかり言って!冷や冷やしたわよ……」
明らかに疲れた様子を見せるエレナを見て申し訳なさを感じる。
ごめんね母さん……何故か分からないけどグランツさんとは縁を結んでおいた方がいい気がしたんだ。
「まぁいいわ。今日はもう疲れたでしょう……グランツさんに言われたように軽い食事を準備するからゆっくり寝て休みなさい」
エレナは溜息をつきながらもしっかりマモルを心配してくれる。
「大丈夫。もう元気……だ……よ?」
「大人しく安静にしていなさい!ケティも部屋を出るわよ!」
「はい奥様!」
背後に何か鬼が見える程怒ったエレナにずっとマモルの手を握っていたケティもすぐに立ち上がって扉に向かう。
結構怖いな……ちょっと怯えていたけどケティは大丈夫かな?
「いい?絶対に大人しく寝るのよ?」
かなり強く念押しするあたり諦めるしかなさそうだな……正直眠気は0なんだが。
「分かったよ母さん」
少し目を見開いて驚いた様子を一瞬見せたが嬉しそうに部屋を後にした。目覚めた後からの事を思い出すも最後のドラゴンに持っていかれていた。
ドラゴンか……分かってたことだけどファンタジーだなぁ……
「怒られないうちに食事まで寝るか」
今後の事を考える間もなく自分が思ってるより疲れていたのかあっという間に眠りに落ちていく。
貴族転生〜異世界で移動式ホテル事業を始めます〜 神月ちとせ @kamituki_chitose
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