さいきょうのつるぎ

つるぎと棒

 太陽がキラキラと輝く夏の日だった。


 空から剣が降ってきた。ある少年の前に、ポトンと。

その子はすぐさまそれを拾い、天に突き上げて叫ぶ。


 「俺は勇者だぞ!!」

 

 目の前にいた彼の友達は皆、目を見開き呆然と立っている。

 次の瞬間、その中の誰かが叫んだ。

 「斬られたら死ぬぞ!逃げろ!!」

 歓声と悲鳴の中を切り裂いて彼は走る。皆を追って。


 ある子は木の裏に隠れ、ある子はトイレの中、滑り台の上、ベンチの下に隠れ、また、ある子はブランコの柱の裏に隠れた、つもりになった。


 彼は容赦なく斬り倒していく。木の裏、トイレの中、滑り台の上、ベンチの下まで彼は見逃さなかった。彼を応援する声も増えてくる。彼は顔を火照らせながら、少し膨らんだ鼻を砂のついた指で横にこすった。

 蝉の鳴き声が大きくなっていく。

 あともう数人を倒せばクリアだ。砂場のあの子もこっちを見ている。

 手に持った剣をもう一度見つめなおす。

 表面の凹凸が彼の手にぴったりとフィットしている。

 蒸し熱い空気の中、一筋の涼しい風が彼の頬を撫でた時だった。

 再び彼は走り出した。


 「俺は最強だ!!」

 

 彼はそう言いながら、勢いよくブランコの前を通り過ぎていった。



 少年は年を重ね、不惑の年になろうとしていた。

 白髪と皺がいたる所に表れるようになっていた。


 ハンカチで額の汗を左手で拭い、右手でネクタイを緩めながら彼は家に向かう。今日は土曜ということもあり昼で帰ることができたが、疲れがどしっと彼に圧し掛かっていた。

 公園の真横を通り過ぎている時、子供たちが遊んでいるのが目に入った。よくあんなに走り回れるものだと感心する。

 パキっと何かが折れる音がした。足元を見ると、木の枝が革靴の下で真っ二つに割れていた。彼はそれを拾い上げ、見つめる。

  やがてそれをポイっと公園の方に投げ、彼はまた歩き始めた。


 次の瞬間、公園の方から声が上がった。

 「俺は勇者だぞ!!」


太陽がギラギラと照りつける夏の日だった。



 


 


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さいきょうのつるぎ @K02ara

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