さいきょうのつるぎ
朔
つるぎと棒
太陽がキラキラと輝く夏の日だった。
空から剣が降ってきた。ある少年の前に、ポトンと。
その子はすぐさまそれを拾い、天に突き上げて叫ぶ。
「俺は勇者だぞ!!」
目の前にいた彼の友達は皆、目を見開き呆然と立っている。
次の瞬間、その中の誰かが叫んだ。
「斬られたら死ぬぞ!逃げろ!!」
歓声と悲鳴の中を切り裂いて彼は走る。皆を追って。
ある子は木の裏に隠れ、ある子はトイレの中、滑り台の上、ベンチの下に隠れ、また、ある子はブランコの柱の裏に隠れた、つもりになった。
彼は容赦なく斬り倒していく。木の裏、トイレの中、滑り台の上、ベンチの下まで彼は見逃さなかった。彼を応援する声も増えてくる。彼は顔を火照らせながら、少し膨らんだ鼻を砂のついた指で横にこすった。
蝉の鳴き声が大きくなっていく。
あともう数人を倒せばクリアだ。砂場のあの子もこっちを見ている。
手に持った剣をもう一度見つめなおす。
表面の凹凸が彼の手にぴったりとフィットしている。
蒸し熱い空気の中、一筋の涼しい風が彼の頬を撫でた時だった。
再び彼は走り出した。
「俺は最強だ!!」
彼はそう言いながら、勢いよくブランコの前を通り過ぎていった。
♢
少年は年を重ね、不惑の年になろうとしていた。
白髪と皺がいたる所に表れるようになっていた。
ハンカチで額の汗を左手で拭い、右手でネクタイを緩めながら彼は家に向かう。今日は土曜ということもあり昼で帰ることができたが、疲れがどしっと彼に圧し掛かっていた。
公園の真横を通り過ぎている時、子供たちが遊んでいるのが目に入った。よくあんなに走り回れるものだと感心する。
パキっと何かが折れる音がした。足元を見ると、木の枝が革靴の下で真っ二つに割れていた。彼はそれを拾い上げ、見つめる。
やがてそれをポイっと公園の方に投げ、彼はまた歩き始めた。
次の瞬間、公園の方から声が上がった。
「俺は勇者だぞ!!」
太陽がギラギラと照りつける夏の日だった。
さいきょうのつるぎ 朔 @K02ara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます