走っている

青いひつじ

第1話

みな、走っている。

なぜ走っているのかは、分からない。




青黒い空の帰り道。お店がぎっしりと詰まった賑やかな商店街に吸い込まれるように入っていく。


いつものコロッケとポテトサラダをぶら下げ歩いていたその時、地響きのような揺れと何かが迫ってくる音を感じた。  

地震かと思い、歩みを止め振り返ると、人々が私の方に向かって走ってきていた。

その大群は奥にも続いているようで、何人いたかは分からないが、100人以上はいたと思う。


凄い勢いで走ってくるので、私も逃げるように走るしかなかった。

みな、前だけを向いて走っていた。


八百屋の店主も、美容室のおばちゃんも、喫茶店のマスターも、みな、走っているのを見てつられるように店から出てきた。

そして、共に走った。中には、小さい子供や、かなりの年配者もいた。



途中、絡まりそうなほどフラフラとした足取りでなんとか走っている男性を発見した。

私は、思わず声をかけた。


「大丈夫ですか??」


「あぁ‥‥大丈夫‥‥です‥‥」


そう言いながらも、男性の足は限界を迎えているようだった。私たちは、石段に座り休憩することにした。


「あの、みなさん、どうして走っているんですか?」


「それが僕にも分からなくて。でもみんな走ってるから、走らないといけないような気がして」


私たちが座って休憩している間も、目の前を大勢の人が去っていった。その人数は、感染するように、どんどん増えていった。

おばあちゃん、おじいちゃんも、孫も、小学生も、お母さんも、OLさんも、営業マンも、みんな頑張って走っている。

私は、座っている自分が情けなくなり、急がなくてはいけない気がした。



「そろそろ我々も行かなければ」


「すいません。私は、ここでリタイヤします。足が限界で」


「そうですか。私は行きます。それでは」



私はまた走り出した。何も考えずに、走った。

途中、道の真ん中に立ち尽くす少年がいた。


邪魔だー!

どけー!!

みんな走ってんだぞ!


罵声が飛び交ったが、少年はそのまま動かなかった。

すれ違う時、ほんの1秒も無かったが、少年と目が合った。


私は、また前を向いて走り続けた。どれくらい走ったのだろう。なぜ走っているなんて、そんなこと、もうどうでもいいか。




私に1人の女性が声をかけてきた。


「あの、なぜみなさんは知っているのでしょう」


「いや、それが私にも分からなくて」


「では、なぜあなたはそんなに一生懸命走っているのですか?」


「さぁ、、なぜでしょう」


私は、また前を向き走り始めた。




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走っている 青いひつじ @zue23

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