大切に読みたい物語

誰かに安易に共感してほしいわけではない。肯定されたいわけでも、否定されたいわけでもない。そんな、ある意味で読者を突き放すような書き方がされています。そこには、はっきりと形が見えず、それでいて重々しく、どこまでも沈み込むような静かな孤独があるように感じました。

もしかしたら、この物語に出てくる男女に対して、「ずるい」だとか「甘えている」だとか、そんなことを思う方もいるかもしれません。それもまたこの物語の読み方の一つだと思います。

でも、作者様の大切な想いが沢山つまったこの作品は、それだけの感想で終わってしまうのは勿体無いかもしれません。なぜ、彼女は「彼に会うのは、私の生まれ月である六月がぴったり」だと想ったのでしょうか。なぜ、彼は彼女の家族の将来設計を語るのでしょうか。これはどこまでいっても彼女と彼の物語で、だから読者がすべてを読み解くことはできません。でも彼らの行動と言葉、その一つひとつに想いを馳せると、彼女の降らせた雨の、その冷たさに、少しだけ触れることができるかもしれません。

きっと何年経っても、日常のふとした瞬間にまた思い出す、そんな心に深く残る名作だと思います。

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