第八話『四葉カイという男』


「ふーん…☆」

パシャッ


「ふふーん?」

パシャッ


「うぅん…☆」

パシャッ


「…何してるの、カイ」

「あっ、心くんじゃないか!こんな所で偶然だね☆」

「まぁ…家の中だし」


確かに☆と指を鳴らして七海を指す四葉。七海はあまり反応を見せずに、今の四葉の状況について問いただした。


「なんで、お風呂場でドアを閉めないで写真撮ってるの?しかも、スマホを持って裸で…」

「お風呂場なんだから裸なのは当然だろう?」

「それは…そう。でも、ドア開けてるのは違くない?」

「違くなぁい☆」


ノンノン、と指を振り否定する四葉。首を傾げる七海に四葉は現状の説明を始める。


「良いかい?まずこの世界は愛で満ちている☆」

「……うん」


これは長くなりそうだ。

そう思った七海は、頭の中で素数を数える事にした。


「そして次に俺は愛の擬人化だ」

(2、3、5……)

「つまり俺の全てをさらけ出し写真を撮る事で」

(7、11、13……)

「世界にもっと愛を広げようと言う魂胆さ☆」

(17、19、23……)

「分かったかい、心くん?」

「んぁ?……えっと、何の話?」


四葉に声を掛けられた事で、四葉が何の話をしていたのか、自分は何をしていたのかをスッポリと忘れてしまった七海。それを見て四葉はやれやれ、と肩を竦め要約する。


「簡単に言うと、世界に愛を広める為さ☆」

「そっか。頑張って。…じゃ」

「待ぁちたまえ心くん☆」

「ぐぇ」


服の首元を掴まれ、苦しげな声を上げる七海。それを四葉は気にもせずに自身のスマホを七海に差し出した。コレで写真を撮れと言う事だろう。


「…なんで、俺に?」

「自撮りじゃあ限界があるだろう?俺は俺の全てを世界中に伝えたいんだ☆その為には俺だけでは撮れない角度の写真も必要だと思わないかい☆」

「……まぁ、良いよ。撮ってあげる」

「感謝する☆」


それから一時間程経った頃。四葉の写真を撮っては目的を忘れた七海がスマホの初期化を行おうとしたり、写真を撮ってはスマホを水没させかけたり等があったが、無事に撮影会が終わった。


「ふぅ…ありがとう心くん!これでまた世界にひとつ愛が芽生えたよ…☆」

「…どういたしまして」

「と・こ・ろ・で☆」

「……何?」


そろそろ疲れたから自室に戻ろうとした時、四葉からまた声を掛けられる。性格の都合上無視しきれずに返事をしてしまう七海。七海はこの時の事を酷く後悔する事となる。


「感想は?」

「……は?」

「この四葉カイの愛に満ちた撮影会を終えた感想は?」

「……ごめん、特に無い」

「Oh My God!!!」


四葉が膝から崩れ落ち、七海は何故か申し訳ない気持ちになった。四葉はそれならば、と再びスマホを起動させ、今度はカメラを七海の方へと向けた。


「今度は、何?」

「ふっふっふ…この四葉の撮影会でLoveを感じなかったのならばぁ?今度は心くんがLoveに満ちれば良いんだよ!あぁっ、なんって名案!流石俺☆」


これは、マズイ。四葉が愛をLoveと言う時は、暴走している時だ。こんな時に限って他の皆は出掛けてるし、どうすれば良いのだろう。こんな変態とこれ以上二人きりなんてごめんだ。


(いや…それ以前に俺がこの事を忘れたらカイにされるがままになっちゃうから、忘れないようにしないと)


「さぁさぁ心くん!今すぐその服を脱ぎたまえ!そして世界中にLoveを満たす撮影会をしようじゃないか!Come on!」

「〜〜〜っ……嫌!」

「あっ、何処へ行くんだい心くん!」


七海がお風呂場を飛び出すと、四葉もお風呂場を飛び出す。そしてハウス中を走り回り追いかけっこを数分続けた時だった。

不意に、七海が足を止める。


(……あれ、なんで俺走ってたんだ?)


「足を止めたね心くん!さぁ俺とLoveに満ちた撮影会をしようじゃないか!!!」

「ん?……うわっ、なんで裸なのカイ」

「そんな事どうだって良いだろう!早く俺と世界にLoveを満たそ───」

「嫌」

ドゴッ!

「グハァッ……!!!」


七海が四葉のみぞおちにアッパーを食らわせ、四葉がダウンする。七海は四葉にそっと近くにあったタオルを掛けてあげ、傍にしゃがみ込んで呟いた。


「……やっぱり、カイの事はよく分かんないや」




第八話     fin

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レインボーホーム 落谷 @Oiotya_rakutani

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