第七話『三日月雪華という男』


「アーイ愛♪アーイ愛♪アーイ愛♪アーイ愛♪よつーばさーんだよ♪……ん?」


上機嫌に四葉が替え歌を口ずさみながらスキップしていると、庭に座り込む人影が見える。四葉はそれが誰なのか気になり、窓を開け庭の人影に声を掛けた。


「おーい!ソコに居る誰かさん!何してるんだーい☆」

「……あ、四葉…お、おはよう……」

「何だ、雪華くんだったのかい。うん、おはよう☆庭で何してたんだい?恋愛?」

「いや、違うけど……に、庭で恋愛って何……?」


庭に居たのは三日月だった。

花を手に取り、プチプチと花弁を取り花占いをしていたのだと説明を受け、成程と四葉が納得する。


「ち・な・み・に☆何を占っていたんだい?俺気になる☆」

「えっと……実際に、やってみようか?」

「お願いするよ☆」

「分かった…じゃ、いくよ」


新たな花を手に取って一つ目の花弁を摘み、三日月の花占いが始まった。


「オレは……死んだ方が良い」

「ん?」

「死なない方が良い」

「んん?」

「死んだ方が良い」

「ちょ」

「死なない方が良い」

「待って」

「死んだ方が良い」

「話を聞い───」

「死なない方が良い」

「四葉の話を聞いてーーー!?」


耳元で四葉が叫び、漸く花弁を摘み取る手を止めた三日月。耳を擦りながら三日月が何事かと四葉の方を見る。それに対し四葉は焦った様子で三日月の肩を掴み揺さぶった。


「雪華くんキミ正気かい!?自分の生死を花に託すんじゃないよ愛が無いなぁもうっ!!!」

「ゆ、揺らさないで……は、吐く……!」

「おっと失礼」

「た、助かった……」


四葉が三日月の肩を離すと、三日月は深呼吸をして四葉に向き直る。そして、聞いてもいない説明を始めた。


「オレは…生きているだけで人に迷惑を掛けちゃうから…でも、し、死んでもきっと迷惑を掛けちゃう……だから、いっその事お花さんに決めてもらおうかな、って」

「Not Love!!!止めなさいそんな事!そもそも死なないで!?」

「わ、分かったよ…死なないから叱らないで……自分が、み、惨めになる……」

「それは失礼…でも、そんな事せずにもっと楽しい事しないかい?雪華くん☆」


楽しい事、と復唱する三日月。それに四葉はうんうんと頷いて様々な提案を出す。


「例えば、ゲームとか☆」

「お、オレが勝てば、相手を不快にしちゃうし…逆に手を抜いても、怒らせちゃう……」

「うぅん…スポーツは?」

「ドジでノロマなオレが居た所で…い、イラつかせちゃうだけ、だから……」

「じ、じゃあ読書は?」

「き、きっとオレとの沈黙に耐え兼ねて相手が自死を……!」

「No!Not Love!Oh My God!」


思わず英語が連続して出てしまう程に、四葉は衝撃を受けていた。


(前々からネガティブな青年だと思っていたが、まさかこれ程までとは…どうやら俺は雪華くんの事を侮っていたようだ…☆しかし、こんな状況下でも燃えるのが、四葉カイ☆)


「良いかい雪華くん。まずゲームだが」

「ん…?」

「別にキミが勝っても負けても、楽しいものは楽しいんだ☆」

「はあ…」

「次にスポーツ。初心者に適切な指導を行うのも、スポーツの醍醐味と言えよう☆」

「うん…」

「最後に読書。別に沈黙しなくたって良いだろう?ココが良いとか笑えるとか、そんな事を共有しながら読むのも面白いんじゃないのかい☆」

「……」

「分かってくれたかな?」


これで大丈夫だろう、そんな考えを持っていた四葉は、なんて愚かだっただろうか。三日月がそんな事で正気を取り戻していたのなら、そもそもあんな花占い等していないのである。


「……わ、分かりました」

「うぅん!分かってくれたのならそれで良いんだ☆」

「きっとゲームだと引き分けになってスポーツはオレは別に初心者じゃないから指導なんて受けられないし読書だって何が面白いのか上手く読み取れないから会話の種が生まれない。つまりオレは……」


大きく息を吸い込み、三日月は言い放った。


「死ぬしかない……」

「なんでそうなるんッだい!!!!!」




第七話     fin

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