第六話『二宮雄斗という男』
朝七時。シェアハウス『レインボーホーム』にて。
それは、不規則かつ唐突に始まる。
「やぁ皆!!!おはよう!!!僕だよ!!!」
バン!と扉を壊しかねん勢いで開けて入って来たのは、二宮。手鏡を持ってその場で跳躍しトリプルアクセルを決めながら着地し、リビングへと入室してきた。
「今日の僕は昨日の僕より倍…いや十倍…いいや百倍……いやいや一万倍!!!素敵だね…♪」
「あ、相変わらず元気だね…二宮…」
「ん?今日は三日月くん一人なの?珍しい事もあるものだね!」
そう。あんなに轟々しく入って来た割に、それに反応を示せる人物が三日月ただ一人しか居なかったのだ。
いつもならもう少し人数がいる筈では、と三日月に聞くと、いつもの通りオドオドとした様子で答える。
「み、皆、外に行ったよ…」
「外?なんで?」
「え、えっとぉ……」
「はぐらかさないで教えて欲しいね!」
「う、うん。……皆、二宮のモーニングコールが、い、嫌だって言って…行っちゃった……」
は、と喉から声が漏れる。
僕の、あの、華麗な、モーニングコールが、嫌?
思考がストップし固まってしまった二宮の顔を前で手を振る三日月。
(か、固まっちゃった……どうしよう。や、やっぱり言わない方が良かったよな…うぅ、またオレのせいで迷惑をかけてしまった……オレはなんて駄目な奴なんだろうか……)
「グス……」
「え、ちょっと待って、なんで泣いてるの三日月くん」
三日月のすすり泣きに気付き思考を再開させる二宮。はぁ、と溜息をついて二宮は腕を組み、ソファへもたれ掛かる。
「失礼しちゃうねどいつもこいつも!僕のモーニングコールが嫌だって言ったり、僕と会えたのに泣いたり!嫌になっちゃう!」
「ご、ごめん……」
「いいよ!三日月くんは謝ってくれたから許してあげる!でも皆は駄目!僕に何の断りもなくモーニングコールを嫌いになるなんてどうかしてるね!」
プンプンと擬音が聞こえてきそうな程に頬を膨らまし怒る二宮。それを三日月はオロオロとしながら眺める。
出来れば、早く皆に帰って来て欲しい。不機嫌な二宮と二人きりは正直気まずい。何しでかすか分からないし。
そんな事を考えている間に二宮は携帯を取り出し、ピポパポとボタンを押して誰かに電話をかけていた。
『はい、もしもし?!』
「あ、一之瀬くん?僕───」
ブツッ。ツーツーツー。
「……」
ピポパポ
『……もしもし?』
「あ、七海くん───」
ブツッ。ツーツーツー。
「……」
ピポパポ
『はぁい、もしもし☆』
「あ、四葉───」
ブツッ。ツーツーツー。
「ふんっ!!!」
バキッ!!!
(あ、また携帯折った……あれで何回目だろ……)
半分諦めた視線を二宮に送る三日月。
二宮はああして電話を掛けては切られるという事を繰り返されるとストレスが溜まり、携帯を壊してしまうのである。故に、このご時世なのにガラケーしか許されていないのだ。
「全く、今日は厄日か何かなの!?最悪の一日が始まりそう!」
すっかり拗ねてしまっている二宮にどう対処しようか。迷っている内に三日月はふとある事を思いつく。
「ご、ごめん二宮……ちょっと席外す…」
「ふん、好きにしたら?」
「うぅ……」
チクチクとした言い草で言われ、少し傷つく。しかし、この気まずさに比べたらマシだと思い勇気を振り絞って席を外した。
数分後、未だに怒っている様子の二宮に三日月はある物を差し出した。
「に、二宮…はい、コレ。あ、あげる…」
「何?くだらない物だったらいらないんだけど……って、こここ、コレは!?」
「前、欲しいって言ってた鏡……偶然持ってたから、あ、あげる……」
「良いの?!」
「う、うん。オレは、いらないから……」
「うぅぅ〜!!!僕はなんて良い同居人を持ったんだろうね!感激!ありがとう三日月くん!お陰で元気出たね!」
それなら良かった、と胸を撫で下ろす三日月。早速鏡の中の自分に見惚れている二宮に、ふと思いついた事を聞く事にした。
「そ、そう言えば……二宮って鏡沢山持ってるよね…?それで、何枚目なの…?」
「238枚目」
「多!!!???」
数ヶ月振りの大声を出し、翌日三日月は喉がやられた。
第六話 fin
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