第五話『五十嵐明という男』
「ふんふんふーん♪」
ブチッ、ブチッ、ブチッ
「らんらんららーん♪」
ブチッ、ブチッ、ブチブチッ
「るるるんるんるーん♪」
ブチブチブチブチブチッ
「え、怖。何してるの五十嵐くん」
「あっ、雄斗さん!おはようございます!」
「あ、うん、おはよう」
たまたま通りかかった二宮は、信じられない物を見るような目で五十嵐を見ていた。何故ならば五十嵐が何故か身体中土まみれでシェアハウスの周りの草という草を抜き取っていたからである。
どうすれば草むしりであんなに土まみれになるんだろうか。怖。
そう思っていたらつい声に出してしまったようで、それに気付いた五十嵐が二宮に朝の挨拶をして、今に至る。
「ねぇ、何でそんなに土まみれなの?」
「何でって、草むしりしてたからですね!」
「普通草むしりでそこまで土まみれにならないからね!怖いよ君!」
「えー…?」
そんな事言われても、と眉を八の字にする五十嵐。
「で、なんで草むしりしてたの?まさかとは思うけど……」
「はい、そのまさかですよ。私の親切です!」
「……」
(出た、五十嵐くんの親切。誰も頼んでないのに私の親切だから!って何もかもをやってくれる…のは、嬉しいっちゃ嬉しいんだけど……)
「こうも大袈裟だとねぇ……」
「?」
ボソリと呟いた声が聞こえているのか否か、五十嵐は首を傾げる。
五十嵐の親切は、度が過ぎている。洗濯、掃除等の家事は勿論の事、酷い時はお風呂入る時に身体を洗います、なんて言い出すものだから皆参ってしまう。しかもこの親切とやらを素でやっているのだから、余計に恐ろしいものだ。
「……とりあえず、もう草むしりは良いから。朝食の時間になるまでに汚れ落としておいたら?」
「うーん、私としてはもう少しむしってたいんですけど。雄斗さんがそう言うのならやめておきます!」
ニッコリと笑顔で返事をする五十嵐。
この笑顔も素なんだから、本当に恐ろしい子。
そう思いながらシェアハウスへと帰って行く五十嵐を見送り、二宮もシェアハウスの中へと戻った。
数時間後……
「…ッはあ、はあ……」
「何…してるの?五十嵐くん」
「あっ、雄斗さん!はあ……えへへ、今日はよく会いますね!」
「うん。まあ共同生活してるんだからそりゃ会うよね。会わない方がおかしいね」
確かに、と同意する五十嵐。
二宮はまた五十嵐のしている事に若干ドン引きしつつももう一度聞いた。
「五十嵐くん、君…何してるの?」
「心さんが放置して泡だらけになった洗濯機の修理です!」
「業者に頼んだら!?」
そう。五十嵐は泡だらけになりながら洗濯機を分解して修理を行っていたのだ。
こればかりは、親切とは掛け離れている。いや親切と掛け離れてるのはこれだけじゃないけど。
(とにかく今すぐ止めさせないと。感電とか爆発とかしたら危ないし…何より業者でも何でもない五十嵐くんに直せる訳無いしね!)
「よし、直りました!」
「嘘ォォ!!!???」
「煩いです雄斗さん」
「あ、ごめんね?」
思わず大声を出してしまい、迷惑そうに耳を塞いだ五十嵐に謝る二宮。
それよりも洗濯機だ。隅々までチェックしていくも本当に、ガチと書いて本当に、洗濯機は直っていた。
「嘘…五十嵐くん君凄いね?」
「そんなそんな…」
「謙遜する事ないね!業者でもないのに家電を直しちゃうなんて…僕、君の事を見直したよ」
「本当ですか…!?」
「勿論!これからは自信を持っていいね!」
「ほ、褒められた…!嬉しい…!し、し…」
「し?」
二宮が聞き返すと、今日一の声量で五十嵐が叫んだ。
「親切、イズ、ビューティフルッッッッ!!!!!」
「……前言撤回しておくね!」
第五話 fin
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