カクヨム甲子園用ホラー

オオキャミー

孵化




俺は高橋翔馬。今日は中学時代の同級生との自主同窓会に来ている。

まぁ、自主っていうのは要するに俺と同級生が勝手に少人数で開いてるだけだ。全員が来てるわけじゃない。俺と友達とあと2、3人の同級生が集まる予定だ。

要するにただの昔馴染みの友達で飲むだけってこと。


集合場所に行くとすでに1人が来ていた。


とりあえず先に店に入って他のメンバーが集まるのを待つことにした。

最初に来ていた1人は、中学から唯一社会人になるまでずっと仲良くしていた親友とも呼べるやつで、他のメンバーは中学以降会ってない。

久しぶりに会うから実のところ少し緊張している。


リラックスするために親友と他愛ない話をしていると、さらに1人が到着した。

どうやら親友が事前にメールで先に店に入ってると送っていたらしい。こういうところで親友には何度も助けて貰っているから頭が上がらない。


そして久しぶりに会った緊張が解れてきた中。ふと、昔自分が体験した不思議な経験を思い出した。丁度良いし話の話題として出すとするか。


その話をするか聞くと興味があるようで催促してきた。

仕方ないな、声の調子を整えて……ンンっ! ヴン! よし。



あ、中学の時に近道があったの知ってる? 森の。知らない? OKじゃあついでに説明するわ。


じゃあよ~く聞けよ?









それは、とても暑い夏の日だった。


あの日、俺は汗をシャツに滲ませながらも長い坂を上っていた。部活があって、朝から学校に行かないといけなかったんだ。まぁ、それで少し遅刻しそうだったから近道をすることにしたんだよ。

その近道は道中に山の中を通る道があって、学校に行く途中に少し道を帰れば行くことができたんだ。

だけどそこは、熊とか猪みたいな害獣が出るから絶対に通っちゃダメって大人達に言われてたんだよなぁ。


でも、部活に遅刻したら顧問に怒られちゃうし。なにより、クラスメイトの何人かがそこを通れば学校の近くに出て、近道ができるってことを言ってたんだよ。

今思えば危険なことをしてたなとは思うんだけど。まぁ、子供の時だからってことで許してほしい。



とりあえず、その近道のことを学校に向かいながら考えてた俺は、早く向かうためにそこを通ることにしたんだ。

木々が生い茂っていて少し薄暗かったんだが、その時の自分は遅刻してしまうって考えが頭の中を埋め尽くしていて。そこを突っ切ることしか考えてなかった。


それであまり整備されていない近道をひたすら小走りで移動していたら、途中で何かに惹かれるような感覚がして途中で立ち止まったんだ。


なんでそんなことを考えたのかはわからないんだけどさ。その惹かれた感覚がしてるほうを見てみると、少し寂れた神社が奥の方にあるのが見えたんだよ。


こんなところに神社? 管理する人がいなくなっなのかな? とか、そういう考えが頭をよぎったわけなんだけど。

俺はすぐに遅刻しそうだったことを思い出して学校に向かったんだ。

ここまで聞いても、俺が遅刻しそうになって通っちゃダメって言われてるところを通ってバカなことをしたって話なんだけどさ。

ここから先が、俺が体験した不思議な話なんだよ。




◆ ◆ ◆




ミーンミーンミンミンミンミン



「暑い……」


暑すぎる。くそっ夕方なのに暑すぎるだろ。

それにしても、部活に間に合って良かった。

俺より遅れてきたやつが、丁度顧問に見つかって怒られてたからなぁ。

あと少し遅かったら危なかった。


蝉がミンミンとうるさく鳴き続ける中を一歩一歩と歩いてく中ふと、ある考えが浮かんできた。


近道を使えば早く家に帰れるし、普段歩く距離よりも短くなるから。部活で疲れた体にあまり負担をかけなくてすむじゃん……と。


要するに、楽できるじゃんってこと。



いやぁ、仕方ないよね。自分の気持ちには正直に生きなさいって昔の偉い人も言ってたよきっと。



そんなことを考えていると、いつの間にか近道を通っていた。


あちゃー大人達には通っちゃダメだって言われてたのになー! たは~!


まぁ、登校するときに通っちゃってるから時すでに遅しなんだけども。


それにしても本当に蝉がうるさい。心なしかいつもよりもうるさく感じる。


山の中は木々が生い茂っていて、太陽の光を遮っていて昼間よりもさらに薄暗くなっていた。

そんな薄暗く足元が見えづらい中足元の悪い道を進んでいくと、木々の間から暖かい色をした明かりがふと見えた。


「あそこは……来るときに見えた廃神社?」


もしかして、廃神社って俺が勝手に思ってただけで誰かがきちんと管理してるのか?


俺の中で神社に対して少しだけ興味が沸いてきた。


家に帰るのが遅くなるかもしれないという考えが頭の中を過ったが、好奇心には勝てなかった。

普段なら寄り道なんてしないで真っ直ぐに帰っていたのに、その神社はそんなことすらどうでもよく感じさせるほどのがあった。


参道と思われる場所は、到底誰かが管理しているなんて思えないほどに草が生い茂っていて。薄暗い中さらに足元の視認性を悪くしていた。

何度か躓いて転びかけたが、何とか鳥居が見える場所までやってきた。


くっそ……早く帰ればよかったなぁ。

周りだんだんと暗くなっていってるから何があるかだけ確かめて帰ろう。

ふと、鳥居の横を見てみると石碑のようなものがあった。


「神…土……? 神社って書いてあったのか?」



鳥居にはおそらく神社の名前が刻まれていたであろう痕跡があり。神社という文字は風化しつつもかろうじて読めるが、その前の神社そのものの名前は完全に風化しきっていて読むことは不可能になっていた。


やっぱり誰も管理してないんじゃね? もしかして不良とかが集まって騒いでるとか?

いや、でも何も聞こえないしな……。


階段を上っている途中で止まったから神社を直接見たわけじゃないけど。明かりは未だに辺りを照らしているから、誰か人が周りにいるという予想は間違ってないんじゃないか?

もし不良が勝手に火をつけてどっかに行ってたりとかしてるんだったら、消さないといけないしな……。



階段をさらに上って鳥居をくぐった。






視界に広がったのは暖かな光を放つ幻想的な神社だった。



「綺麗……」



明かりはまるで神社や境内そのものが光っているようで、これといった光源は見当たらなかった。


普通だったら灯籠みたいなのが光ってるんだろうけど。なんだここ……すげぇ……。


神社の本殿は所々ボロボロになり、苔や蔦といった植物が生えていてお世辞にも綺麗とは言えない状態だった。しかし、それが逆に神秘的な雰囲気を醸し出しているようで。


俺はその雰囲気にすっかりと呑まれていた。


そんな境内を見渡していると。

ふと、あることに気がついた。


虫の鳴き声がしない。

いや、虫だけじゃないさっきまで鳴いていたカラスの鳴き声や木々のざわめきすらも聞こえない。


自分の心臓が脈打つ音がいやに大きく聞こえる気がする。


だけど……何か大変なことが起こるんじゃないかと……そんな気配がするのに。

なぜか心の奥底、頭は妙にスッキリとしてる。


おかしい。


この神社の明るさも、雰囲気も、自分自身も、全てがなにもかもおかしいはずなのに。


おかしい。





その時、夕方を知らせるチャイムの音が突然聞こえてきた。


チャイムの音が聞こえた瞬間、さっきまでの異様な雰囲気が霧散した。


辺りを見渡すとさっきとは違い、薄暗い神社の境内になっていた。あんなに綺麗だと思っていた神社は、ただ植物に覆われてボロボロになっているだけの建造物程度にしか感じなくなっていた。



「なん……だったんだ」


思わず口に出さずにはいられないほどにアレはおかしな出来事だった。

あのままだったら確実にナニかがヤバかった。

今でも心臓がドクドクとうるさいほどに脈打っていて冷や汗も止まらない。



「帰るか……」





◆ ◇ ◆



「ただいま~!」


さっきみたいなことがあった後で家に帰ったらめちゃくちゃ落ち着く……

あれって本当にあったことだよな。

幻覚……だったら病院とかに行った方が良いんだろうな。


そんなことを考えていると家の奥からドタドタと歩いてくる音が聞こえた。


「お帰り~! そして、おそい! 馬鹿兄貴!」


奥から来たのは妹の華鈴かりんだった。


「母さんはキッチン?」


「もう、ご飯できてるから皆リビング! お兄ちゃんを待ってたんだから!」


「ごめんって」


華鈴の機嫌がだいぶ悪い。

華鈴は一度機嫌が悪くなると、なかなか治らないんだよなぁ。

どう謝ろうかと考えていると、華鈴がこっちをジッと見つめてきていることに気がついた。


「な、なんだよ」


華鈴はしばらくこちらを見つめると急に顔を近づけて匂いを嗅いできた。


「お兄ちゃん……女の人と遊んできた?」


「はぁ?」


いきなり何を言い出すのかと思えば、意味のわからないことを言ってきた。

女? なんで?


「だって、お兄ちゃんからなんか甘い香水みたいな匂いがするから」


「甘い匂い?」


自分で自分の服の匂いを嗅いでみる。

が、別にそんな匂いは1ミリもしない。


「気のせいじゃないのか? とりあえず、そんなことより飯を食おう。もう、腹が減ってしかたないんだ」


「……ふーん。わかった」


華鈴は少し怪しそうにこちらを見てきたが夕飯を食べるためにリビングに戻っていった。







その日の夕食の時、母さんと父さんもなぜか俺から甘い匂いがするって言ってきた。


そんなに匂う?


結局その日は念入りに風呂で体を洗って、次の日に備えて寝た。




◆ ◆ ◆



話をしているとまた1人懐かしい顔ぶれが増えた。

なんの話をしているのか聞かれたから、俺が体験した不思議な話ってことを伝えた。


するとそいつはそれが不思議な話なのかと聞いてきた。

まぁ、確かに今までの話だと俺が暑さのせいとか熱中症か何かで幻覚を見ていたってことですむ話だけどさ。

実際、他の2人も信じてはいないようだ。

だけど、こんなのは序の口だ。


俺が体験した不思議な話はここからが本番なんだから。


あ、店員さん!ビール4つお願い!

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