著者:縺輔∪繧医≧縺九″縺ヲ 「コーポ峰山 二〇二号室」について


収集奇談 「コーポ峰山・二〇二号室」について


 コーポ・峰山にある「二〇二号室」は、明らかな「いわく」がありながら、心理的瑕疵物件として人間に認知されていない特異な物件である。そのためか近年発達したインターネットなどにおいても、その情報の殆どが出てこない特徴がある。


 筆者がこの物件について調べているときも、情報源は基本的に「部屋に関わった人への聞き込み」が中心であり、それ以外の情報源はほとんど得られなかった。

 今回の記事作成に際して、部屋に関わった人間から得ることができた、「部屋についての怪異」は下記のとおりである。


①入居日から就寝時に金縛りに襲われる

②金縛りの際に人影が現れ、その人影が何故か自分自身の顔である

③同じ場所をノックする人影が現れる

④夜にインターホンが鳴り響き、ドアスコープから外を覗くと、覗いた者の思い出したくない過去が再生される

⑤過去そこで起きたであろう殺人事件に現場が幻覚として現れる

⑥寝室付近から縄の軋むような音が聞こえる

⑦クローゼットで蹲る少女が現れる

⑧夫婦と思われる言い争いの声が聞こえる

⑨部屋から出ることができず、扉から出ようとすると真っ逆さまに落ちてしまう感覚に襲われる

⑩突如部屋とは全く違う空間で目を覚まし、大勢の人影が現れる



 これらはすべて、今回話を聞くことができた「A氏」よりの内容である。

 本人もこれらの現象に対してすっかり混乱しているのか、未だ上記の内容が現実であったのか、それとも妄想や幻覚の類だったのか判別がつかないという。


 更にこの部屋の壁には、女性の白骨死体が埋め込まれていたという。

 加えてA氏は、その白骨女性を「隣人」と呼称し、「唯一自分のことを信じてくれた人間だった」とまで表現した。

 現実において、その女性の幽霊をA氏が見ていたとして、既にそれを検証することは不可能であろう。A氏は当然であるが、「もう二度とあの場所には立ち寄りたくない」と話している。


 さてここからは、これらの情報を持って、「コーポ・峰山の二〇二号室」について考察をしていこうと思う。


 結論から述べると、筆者は部屋で起きた奇怪な出来事の原因を、「部屋そのものが、そこで起きたあらゆる情報を記録することができる能力を持っていたから」と推測する。


 本来では考えられない話であるが、上述した怪異の大半は「部屋で過去起きた出来事のリフレイン」であると解釈する事ができる。


 考えるべくは上述の怪異に、一貫した法則性や出来事が存在せず、まるでそこでおきた出来事を闇雲に再生されているように受け取ることができるという点だ。

 また、それだけに留まらず、怪異は「現在進行系で起こっていることすら再生すること」もできる可能性がある。


 これを踏まえて、怪異は下記のように分類することができる。


・入居者に襲いかかる一般的な怪異(①)

・入居者自身や本人の個人的なことに関わる怪異(②・④)

・その場で起きたあらゆる過去の出来事に関わる怪異(③・⑤・⑥・⑦・⑧)

・部屋に関わる怪異(⑨・⑩)


 やや大味な分け方であるが、概ねこのような分類分けになるだろう。


 上のような怪異に対しての解釈は、人によって千差万別になるだろうが、前述の通り筆者はこれらの原因を「部屋の持つ記録媒体機能」によって発現したと解釈する。


 人間がエピソードや出来事を記憶するように、部屋そのものが「記憶」を行い、人間と同じように何かしらの方法で、それらの情報を外部に吐き出す事ができると仮定する。


 情報を吐き出すための手段は皆目検討もつかないが、その手段が「怪異」となっているのであれば、大方の説明はつけることができるだろう。


 部屋が情報を出力する際、「過去にまつわる怪異」が生じる。これが部屋において最もベーシックな怪異である。


 更にそこに付随して、現在進行系で記録した情報に関する怪異も発生する。

 これを「入居者自身に関する怪異」となって現れ、更にそれらが生じる時に起こるであろう、金縛りなどの「ポピュラーな怪異」も想定される。


 最後に、記録機能を持つ部屋という、存在そのもののが異質な部屋である二〇二号室特有の怪異もあろうだろう。

 それが「部屋に関わる怪異」として現れるのかもしれない。


 当然だが、こんな常識では考えられない部屋に、人間が長く留まればただで済むはずがない。

 A氏のように、住んだ時間に比例する形で怪異が現れたのが良い例だろう。


 だがここで、「どうしてこの部屋が他の人間に、異常な部屋だと認識されないのか?」という疑問に戻って来る。

 考察のような機能が存在するのであれば、明らかな怪異として周囲の人間が認識するのが普通だ。


 この疑問を解消する仮説として、「情報出力を行うためにはチャンネルがある」という考え方だ。


 一般的なテレビも、送信側と受信側の周波数を合わせて、情報をやり取りしているのだが、これがこの部屋でも同じことが言えるのではないだろうか。


 部屋は情報を記録する事ができるが、それを出力して他者に伝えるためには、受け取る側が「部屋とチャンネルが合っている必要がある」のではないか。


 A氏を始め、あの部屋でたまたま「チャンネルが合ってしまった人間」は、恐らく怪異に見舞われる。

 そのチャンネルをより深く、正確にするためには、A氏のように長時間部屋に留まる必要が合ったのではないだろうか。


 筆者はこの話を聞いた時、それらの情報を知ることで引き起こされる異常ではないかと考えた。

 なぜならA氏は、同じく怪異の類であるとされる「隣人」から繰り返し、「部屋について調べるな。早く出ていけ」と言われていたからだ。


 この言葉が表すところはストレートに「部屋について調べると引きずり込まれる」ということだろう。実際、部屋にまつわる怪異が発生したことで、A氏は部屋から出ていく決心をしたという。

 しかしながら、A氏以外で部屋にまつわる怪異にまで遭遇したものはいなかった。それだけ、A氏と部屋の親和性が高かったと推測する事ができる。それは元々「チャンネル」が合っていた人間が、「長時間部屋に留まる」ことで発生するのであれば、彼以外にそれが発生しない理由もうなづける。


 ではもし、そのチャンネルが合っていない状態であの部屋に留まればどうなるのだろうか。

 筆者の考えでは「知らぬ間に精神を侵され奇行に走る」と推測している。理由はどうあれ、あの部屋では殺人事件を始めとして何かが起きていたのは事実だろう。


 例えば「クローゼットから聞こえてくる少女の声」と「夫婦の言い争いの声」はつながっていると考える事ができるだろう。険悪な夫婦仲から、虐待的なことにつながってしまったことは容易に想像がつく。


 それ以外にも、「縄の音」はそれそのものが首吊り自殺を想起する。単純な考察だけでも、「児童虐待」や「殺人事件」、「自殺の可能性」など、マイナスな出来事が部屋で集中して発生している。


 その原因が、「チャンネルの不和から生じたマイナスの影響」と筆者は仮定する。

 もしチャンネルが合っていないのであれば、「記録された情報が漫然と部屋に重なっている状態」になっている。

 そうなれば、知らず知らずに人間が影響を受け、過去の出来事のマイナスな情報が人間の行動に影響していたのなら、「異様な事件の多さ」もうなづける。

 恐らく多くの人間がチャンネルが不和の状態であの部屋に遭遇する。そうなれば「怪異」の認識できなくとも、水面下で影響を受け続けることになるだろう。そうなれば、「理由はわからないけれど徐々におかしくなる」という状態になっていき、やがてトラブルが起き、部屋から出ていく。


 部屋そのものの異常性を人間が認識できないのは、ほとんどの人間が「チャンネルが合わないから」なのだろう。


 煩雑になってきたため、ここで一度まとめておこう。

 つまりこの部屋で起きた怪異の流れは、具体的には下のようなものであったと考える。


・二〇二号室(以下部屋)には、「そこでおきた出来事を記録する機能」があると仮定する

・部屋には「記録機能」と「出力機能」が存在しており、出力するには受け手(部屋の住人)のチャンネルが合っている必要がある

・チャンネルが合った人間が部屋について深い見識を得ると、記録されていた「過去の出来事」を怪異として認識する

・またチャンネルの有無にかかわらず、部屋は現在進行系で情報を記録し、無造作に出力する可能性がある

・仮にチャンネルが合っていない人間が部屋に住んだ場合、過去の出来事に無意識下で影響を受け続け、悪辣な行動に出る可能性を強める

・外部から部屋を見た時、「チャンネルが合っていない人」であれば、その異常性に気が付かない


 部屋についての筆者の考え方は上記の通りである。

 しかしながら、筆者は本当に二〇二号室がそんな力を備えていると本気で確信しているわけではない。部屋が情報を記録するなんて話、自分で見ても失笑ものの考え方かもしれない。


 ただ、小手先の考えを抜きにして、このような話を聞けば、「原因は不明であるが、部屋にはなにか、想像もつかないものがある」という結論は、この現象が真実とするのであれば多くの人間がたどり着く結論であろう。


 筆者はこれから先も、このような「奇談」を収集したいと考えている。

 なにか、この部屋について知っている情報があれば「縺輔∪繧医≧縺九″縺ヲ」まで、ご連絡いただけると、大いに筆者は喜ばしい限りである。

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名前のつけられていない部屋 古井雅 @pikuminn3

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