サーカスの前に、仲直りをしました。

 わたしたちは四人でサーカスのテントの中に入った。真ん中の方の座席に四人で座る。少し待ってるけれど、とても蒸し暑い。大型の扇風機が隅の方で動いてはいた。

 お兄ちゃんがわたしの分もうちわを渡してくれたので、パタパタあおいだ。少しだけの風で心地良くなる。

「トイレ行ってこようかな」

 冬原さんが、少しもじもじして言った。

「ただ、さっき、入り口にガタイのいいピエロがいたから、横を通るのちょっと嫌で、ね」

 冬原さんの言ってることは、わたしにもよくわかった。

 ピエロさんが、テントの入り口あたりで子供達に風船を配っていたんだけれどね。

「ハイ。みんな。どーぞ。楽しんでね。お、れ」

 みたいな感じでテンションがすごく高くて、おまけに体格もすごくいい。白塗りで本当の表情がわかりづらいのもある。

 だから、わたしも実は、あのピエロの横を通りたくなくて、トイレをほんのちょっと我慢してた。

「じゃあ、一緒に行く? まだ時間あるし」

 冬原さんに言うと、冬原さんはこくんとうなずいた。めちゃくちゃ可愛い。

 冬原さんとわたしは、用心深くトイレに向かった。幸い、さっきのピエロはどこかに消えてしまっていた。トイレには若干の行列ができてる。

「冬原さん、なんか、長い間ごめんなさい」

 わたしはトイレを待ちながら、自然と、冬原さんに言う。

「わたし、じとじとして、暗いし、目つきも悪い。正直、廊下でにらまれて嫌だったでしょ」

「そんなこと、ないなあ」

 冬原さんがふふふ、と笑う。

「わたし、橘子さんのこと結構好きだよ。中学生の時のわたしに、なんか似てる」

 冬原さんは、「ほら、見て。アゲハ蝶」と、大型扇風機の横を指差す。

 確かに、いた。テントの中に入ってきた綺麗な蝶々。

 開演五分前のベルが鳴り響いたけれど、わたしたち、ふたりともトイレの行列に並び続けた。

 サーカスの目玉、空中ブランコは後半の方。

 後半で抜けるよりは、今のうちに女子の用事を済ませておいた方がいいだろう。

 


 

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狐子さんの憂鬱 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro

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