イチゴのミルフィーユを、あの子と。

 サーカスに行く日の当日は、青空が綺麗な快晴だった。お兄ちゃんとわたしは自転車をこいで、クイーンショッピングストアまで行った。

 サーカスを見る前に若干時間があったので、お兄ちゃんと一緒に喫茶店に入る。イチゴのミルフィーユがおいしそうだとわたしが言ったら、

「おごってやるから、食えよ」とお兄ちゃんは嬉しそう。

 白いお皿に載ったミルフィーユが運ばれてきた。

 ちょうどその時、空いていた隣の席に誰かが案内されてきた。

「あ、橘子さん!」

 聞き覚えのすごくある凛とした声。間違いない。

 途端に顔から炎が出そう。

「ん?? どうした橘子。知り合い?」

 お兄ちゃんが、何も言えないわたしの代わりに、その子と話をしてる。

 冬原さんと、あの好印象の眼鏡男子くんだ。今日は眼鏡をかけてないけれど。男子くんはふわりと微笑むと、冬原さんにこう言う。

「ミルフィーユ、茅平は好き? 僕、結構好きだから、一緒に食べない? 美味しそうだよ」

「うん、わたしも、橘子さんのお皿見てそう思ってたんだ。サーカス始まるの十一時で、終わるの一時半か二時でしょ」

 冬原さんがウキウキしたように言う。そして、お兄ちゃんに聞いてる。

「橘子さんの彼氏さんですか」

「いえ。これでも兄です。似てないかなー」

 お兄ちゃんが笑い、二人は気がよほど合うのか、楽しそうに話してる。

 あの子の前では笑顔になんてなれない。 

 わたしはずっとそう思ってた。

 でも、イチゴのミルフィーユが冬原さんとあの男子くんの分も、今、運ばれてきた。同じものを食べてる。わたしの顔はきっと赤くなってる。冬原さんが好き。大好き。

 ミルフィーユはサクサクとフォークで砕ける。綺麗に食べるのは意外と大変。大きなイチゴが二個乗ってる。イチゴは甘酸っぱい。わたしの胸の奥がキュンとする。

「冬原さんたちもサーカスに行くの?」

 冷静ボイスでわたしは聞く。

「うん。あれって自由席でしょ。良かったら一緒に見ようよ」

 冬原さんはさらりと言う。


 


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