カルーアミルクの思い出

いらの庵

第1話 前編

いつから酒が必需品になったのだろう、酔っ払ったって数時間後には現実が待っているのに。

そんな現実を理解してもなお、俺は飲み続ける。

「ちょっとトイレ行くわ」

同席していた同僚がカウンター席を立ち上がった。同僚の行きつけの店だというこのバーは広いとも狭いとも言えない広さだった。改めて見渡すと奥にグランドピアノが見えた。やる事が無いので俺は飲みかけのカルーアミルクを飲み干し、ピアノの方へ移動した。

グランドピアノは年季が入っていて、歴史を感じさせる黒色だった。

「ピアノ、弾けるの?」

声の方へ振り向くと、この薄暗い空間の中でもはっきりと分かる美人がそこにいた。金色に輝いた髪に艶やかな色のドレスが暗がりだか、自然と目に焼き付いた。

「まぁ……少しね、」

俺は少し動揺していた、こんな可愛い子に話しかけられるとは思わなかったから。平然を装うとして、短めのフレーズで対応した。

「じゃあ何か弾いてよ」

彼女は子供のように目をキラキラさせていた。

「ごめん、今日は調子が悪いんだ」

彼女に嘘をついて断った。いや、あながち嘘ではないと思う。……うん、きっと。

「そっか、なら今度聞かせてね」

残念がっていたが、彼女は約束してきた。

「わかったよ」

口約束だからまぁ、期待するのは良してくれ、と思ったが、こんな可愛い子は俺にねだらなくたっていくらでもピアニストは弾いてくれるだろうし……まぁ、大丈夫だろう。

「おーい、ダーツしようぜ」

トイレから戻ってきたらしい。

「今行くよ」

演奏は披露出来なかったが、何かしてやれる事は無いかと丁度考えていた所だった。

──よし、ダーツに誘うか。

「もし良かったら君も……」

振り向くと彼女は消えていた。

──女の子って、ほーーんと気まぐれ。

今宵はダーツで男同士のガチンコ勝負をした。

1週間後、俺はまたあのバーを訪れた。だって、あの子がいるから。

「あ、今週も来てくれたんだ」

カウンター席に座っていると突然、彼女は現れた。

「んでさ、さっき言った奴が声が籠ってて何言ってるか分かんないんだよ、聞き返すと怒鳴るし」

俺の愚痴を彼女は受け止めてくれる。

「大変だね、色々」

悩み事をノートに書き込んで、物事を整理すればストレス発散になるとかどこかに書いてあったが、実際こうやって誰かに話した方が発散になるだろう。

この様に俺は毎週金曜日にこのバーへ来て、彼女とおしゃべりするという習慣が出来たのだ。

「最近顔色いいな」

上司や同僚に言われた。余計なお世話だ、と言いたくなるが自分でも驚くくらいに顔色が良くなった。彼女のおかげである。

現に俺の一週間のサイクルは彼女中心に動いている。月曜日は、あと四日で彼女に会える仕事頑張ろう。火曜日は、あと三日で彼女に会える、披露するエピソードトークを厳選しよう。水曜日は、あと二日で彼女に会える、眉毛を整えよう。木曜日は、あと一日で彼女に会える、脳内で会話のリハーサルをしよう。金曜日は今日頑張れば会える、仕事を片付けよう。土曜日は昨日の反省会、日曜日は土曜日の反省を活かし、次の金曜日にするべき目標を立てる。

このように俺の生活は彼女に侵食された。いや、侵食というより寧ろ、彼女の色に染まってしまったようであり、ボロ雑巾だった俺の人生は彩りができて、多少ましな雑巾になった。

と、そんな事を考えていると雨が降り出した。

──傘持ってきてねぇ……。

あのバーのいつものカウンター席で俺が嘆いた。

「雨か、なんかやだな」

俺はふと言葉を漏らした。そうすると彼女がやんわりと突っかかってきた。

「そう? あたしは好きだけどな、雨」

「えー、傘さすのが面倒じゃん」

「まぁ、それもあるけどさ。雨によって皆が外へ出かけられないとか、洗濯物が濡れちゃうとかさ、不幸になるじゃん? そしたらあたしだけが不幸じゃないんだ。あたしはひとりじゃないんだって思えるじゃん」

「だから、平等な雨が好き」

時々彼女は真面目に不思議な事を言った。そんな所も彼女の魅力である。

「あっ、そういえば」

彼女は思い出した様に僕に言った

「どうしてピアノやらないの?」

「少しは弾けるんでしょ?」

俺を責めてるわけじゃなく、ただ純粋に気になるという目を彼女は俺に向けてきた。

「……俺の両親は音楽家でさ」

彼女になら語って良いと俺は判断した。そうしたら蛇口をひねるみたいにドボドボドボドボ俺の過去が口から流れてきた。

「母さんはピアニスト、父さんは昔オレンジジュースのCMソング歌ってた人でさ……。だから俺も小さい頃からピアノをやらされてたんだよ。んで、その後父さんが売れなくなってさ……母さんに、捨てられたんだ」

過去を流しているつもりが気づくと涙が出ていた。

「……そんな」

悲しそうな顔になる彼女。それを見ると余計に涙が止まらくなりそうなので、彼女の顔を見ずに話を続けた。

「離婚した後、母さんについてった俺はピアノをやってた。前まではやらされてたけど、この時は自発的にやってた。父さんみたいに捨てられるのが怖かったからさ。……それで一生懸命弾いたんだ。だけどその後、母さんは再婚したんだ」

「……」

彼女はただ、俺を見守っていた。

「母さんは、きっと父さんの遺伝子では天才は生まれないと悟ったんだろう、再婚したのは有名作曲家だった」

自分の母を冷酷で合理的な教育ママと結論付けるのはどうかと思うが、俺はそう思ってしまうのだ。

「その間に産まれた男の子、つまり俺の義理の弟は4歳でショパンのエチュードを弾いていた。​────天才が生まれたんだ」

当時8歳だったおれは忘れもしない。自宅のグランドピアノで母さんよりも繊細な音色を奏でていた。

「母さんは喜んでいたよ。それを見て嫉妬心が沸き立った俺は決意したんだ、母さんの母校である音大附属中学校に入学する事をさ」

これしか無かった。

「これしか無かったんだ、母さんの気を引く方法がさ」

本当にこれしか無いと当時は思っていた。

いや、これしか無いんだ。母さんに自分の子供は天才だという事を認識させるには。

「合格するために、俺はピアノ教室と母さんとのレッスンの往復の毎日でさ、大変だったんだよ。でも、母さんと一緒にピアノを弾いてると母さんに俺を見てもらえて嬉しかったんだよ」

これは本当だ。本当に嬉しかった。叱ってくれたし、褒めてくれた。“親子”っていう感じがした。

「だけど、結果は落ちたんだ……。うん、悔しかったよ」

彼女は自分の事のように悔しい顔をして、話をじっと聞いてくれた。

「合格発表で隣にいた母さんに言われたんだ、“大丈夫、弟が受かってみせるから”ってね」

慰めの言葉を放った母さんの涼しい顔を見るに最初から俺に期待していなかったのだと気がついた。

「その後、俺はピアノを辞めた」

受験に落ち、天才ではないと気づかれた俺に母さんは期待するはずも無いと悟った俺は音楽とは無縁のスポーツや勉強に力を入れた。

「そして、俺が高校生の時、弟が音大附属に受かったんだ」

既に母さんから認められているのに母さんの母校にまで受かるなんてのは、もう完全に弟は理想の息子だったと思う。嫉妬心なんてもう無かった。

「大変だったね」

話の終わりを察知した彼女は、すぐさま感想を伝えてくれて、俺に寄り添おうとしてくれた。

「うん、だけどね。ある人に言われたんだ、“自分を認めてくれるのは家族だけじゃない”って」

「いい言葉ね、誰に言われたの?」

「それが思い出せなくて……」

彼女は失笑した。でも本当に思い出せない。きっと、数年すると同級生の顔も思い出せなくなるんだろうな……。

「あっ、思い出した!」

そういえば!

「え、どうしたの?」

「もうすぐ小学校の同窓会があるんだった」

「忘れちゃダメだよ、そんな大事な事」

微笑みながら叱ってくれた。

今夜は俺の人となりが彼女にアピールできた日となった。

翌日の午後3時、目を覚ますと同僚からメールが届いていた。そういえば、こいつとは最近あのバーへ行ってないな、こいつが紹介してくれたのに。

「お前大丈夫か? 悩み事があったら聞くぜ」

心配されていた。なぜ心配されているのか理由を探るべく、指でスクロールする。そうしたら、こう書かれていた。

「バーのマスターから聞いたよ、いつもカウンターに座ってひとりで喋ってるって」

何を言っているんだ? マジで。

「そもそも酒癖悪かったっけ? まぁ、なにか悩みがあるなら気にせず俺に頼れよ」

こいつが情に厚い奴だと初めて知った。ありがたいのだが、俺は至って普通だし、悩みなんて無い。むしろ悩みを聞いてくれる存在が居るんだ。

「いや、俺は隣にいる女の子と喋ってんだけど?」

俺が返信すると、同僚は奇妙な事を言う。

「え? お前ずっとひとりで喋ってたってマスター言ってたよ」

「は……?」

これには驚きを隠せなかった。

これでは俺が幽霊か幻覚を見ている事になる。

「確認してみるしかねぇ」

俺の足は、あのバーへ向かっていた。

「だから、そんな人いません」

マスターは呆れた顔で俺を突っぱねた。

「いや、絶対いましたって、金曜日ですよ? しかも昨日もいた」

俺は引き下がらなかった。そんな俺を見かねて、マスターは店内の防犯カメラの録画を見せてくれた。日にちは昨日の夜、カウンター席には、顔を赤くし誰も座っていない隣の席に体を向けて話している泥酔状態の男が映っていた、俺である。

「そんな……」

こういったオチの映画を見た事がある。全部主人公の妄想で、最初から何も無かったというラスト。まさか自分がその哀れな主人公になるとは思いもしなかった。

それからの生活は彼女に出会う……いや、妄想する前に戻り、彩りの無い毎日だった。

「はぁ」

それから俺は、恥ずかしくなりあのバーへ通うのをやめた。

今はうるさい居酒屋で寂しさを埋めている。

「カルーアミルクか」

あのバーでよく飲んでいたが、他で飲むのは初めだった。

「甘い……甘すぎる」

今まで自分に甘すぎたんだと思った。

あの数ヶ月の彼女との思い出は、自分に甘い俺が生み出した幻覚だったと今になって思う。

「これからは苦い酒でも飲むか」

もう現実を見るしかないんだ。あんな可愛い子がタダで俺の話を聞いてくれるわけが無い。

もう、カルーアミルクは飲まない、と誓った。


最後のカルーアミルクだからか4杯飲んでしまった。

寒々しい風、薄暗い道。俺は彷徨う様に自宅を目指した。

ふと、少し先にある街灯に目をやると、人が照らされていた。彼女だった。

俺は街灯まで走った。あれが俺の妄想なのは分かっている。幻覚なのは理解している。ただ、もう一度会いたかった。

「あの!……」

近づくと消えてしまった。立ち尽くし、俺は彼女が幻覚だったのだと、この身をもって理解した。

街灯に照らされた俺は、自分が悲劇のヒロインだと思うしか無かった。



「全然変わってねぇな、お前」

喧騒の空間である大衆居酒屋で聞こえたのは、わずかこれだけだった。

「もうちょいでかい声で話せ」

俺は小学校の同窓会に参加した。

25歳ともなるとみんな落ち着いていた。

「そういえば、みつおさ」

隣に座ってきたコイツは当時ガリ勉で、中学受験した奴だと思い出した。

「ん?」

こいつとは卒業以来、絡みが無かったので何を言われるのか分からず俺は少し緊張していた。

「女の人と居酒屋の裏で話してたよね?」

何を言われるかドキドキしていた矢先、言われたのは意味分からない事だった。

「え? ん、なにそれ……」

本当に分からない。そんな事俺の人生の中であったのか、

「何の話?」

ガリ勉の興味深い話の導入に周りは興味津々だった。

「いや、僕見たんだよ。塾帰り、みつおが居酒屋の裏で綺麗な女の人と喋っていたの」

ガリ勉は周りの期待に応える為に話を続けた。

「綺麗な女の人? そんな人と話したかな……」

俺は頭をフル回転させ、思い出そうとしていた。

「あのドレス着た、金髪で髪の長い人だよ」

「金髪に……ドレス?」

こんな時に俺は、ある人を思い浮かべた。それと同時に記憶の欠片が物凄いスピードでくっつき始めて、妄想は確信に変わった。

「ん? どうした、立ち上がって」

こうしちゃいられないと思った俺は立ち上がり、

「ごめん、急用を思い出した」

千円札3枚をテーブルに置き、居酒屋を後にした。

(全て思い出した。彼女だったんだ)

なんで今まで忘れていたんだろう、こんな重要な事を、俺はなんて馬鹿野郎だ。

15年前、俺がピアノ教室のレッスン帰りに寄り道していた居酒屋の裏、ビールケースをイス代わりにして2人で喋っていた。

この“女の人”との出会いは、ピアノ教室の帰り、突然雨が降ってきて、居酒屋の裏で雨宿りしていた時だ。同じく雨宿りをしていた彼女と肩を並べて、雨が止むのを待った。

「あたし、雨が好きなんだ」

突然、“女の人”の口が開き、会話が始まった。

「そう? 俺はジメジメしてて嫌い」

「まぁ、それもあるけどさ、あたしは雨によって皆が外へ出かけられないとか、洗濯物が濡れちゃうとかさ、皆が不幸になるじゃん? そしたら、あたしだけが不幸じゃないんだ、あたしはひとりじゃないんだって思えるじゃん」

「だから、平等な雨が好きなの」

“女の人”の強烈な持論は、今思い返せば俺が潜在的に覚えていて、それを幻覚である彼女に言わせていたのだと理解した。

俺は“女の人”との記憶から彼女(幻覚)を生み出していた。

「あたしはね、この居酒屋の店長さんと知り合いだから、ここで休憩させてもらってんの」

と、カルーアミルクを片手に俺に説明していたのを思い出した。

(あの居酒屋に行けば!)

そう思い立ったら、身体は動いていた。

駅前の繁華街にひっそりと経営している小さな居酒屋。

(なんで忘れていたんだろ)

この駅はよく利用しているし、なんで今まで忘れていたのか分からなかった。

「すみません、店長さんいますか?」

戸を開けて、勇気を絞り出し、バイトであろう若い男の子に尋ねた。そしたら店長を呼んできますと言われ、30秒くらいたった後に店長が来た。事情を話すと、店長は目を丸くし、俺をスタッフルームまで通してくれた。

「たしかに、さっちゃんはよく裏で酒を飲んでたよ」

彼女、つまり、“女の人”は相楽さつる、という名前の人物だった。

「懐かしいね」

遠い目をしている店長に俺は質問する。

「それで、さつるさんは今どこに?」

店長はそれを聞いた瞬間、寂しそうな目で俺を一瞬見た後、

「少し待っててくれ」

店長は立ち上がり、奥の引き出しから手紙らしき物を取り、俺に渡した。

「私はずっと君を待ってたんだ、君にこれを渡す為にね」

店長は手紙を俺にくれた後、さつるについて語り始めた。

「さっちゃんは、10年前に亡くなった」

1番聞きたくないフレーズを皮切りに、店長は、さつるの過去を話した。

「両親共々、どうしようもなくてね。親父は蒸発して、母親は虐待というか暴力というか、ネグレクトって言うらしいけど、」

不遇という言葉があるならば、さつるにピッタリだった。

「それで病弱な弟を守る為に、2人でこの街に逃げてきたんだと。それで……」

店長は教えてくれた。17歳のさつるはこの街でガールズバーやホステスなどをやり、弟と暮らしていたと、頼れる親戚は居なくて、ひとりで背負い込むしかなかったという。店長などの優しい大人と知り合い、それを辞めて学校へ通えるようにはなったが、ガールズバーで働いていた事がバレて、学校に居づらくなり辞めたらしい。

「さっちゃんは学校中から好奇な目で見られて、学校を辞めて、ガールズバーに戻ったんだ。私らもさっちゃんをどう扱っていいか、分からなかった。行政に解決してもらおうとすると、さっちゃんはそれを拒んで、“大人は信用出来ない”って言われちゃってさ。その後、君に出会ったんだよ」

「俺に、ですか?」

「そう、君にね。ガールズバーの休憩中、ここの裏で雨宿りをしていたら君に会ったんだと」

そんなタイミングで出会っていたのか。

「さっちゃんは君の事を私に話していたよ」

店長は懐かしそうに語る。

「“あたしとどこか似ている”って」

似ている? 俺とさつるが?

「“あの子も家庭が特殊で、居場所を探してた”と言っていたよ」

確かに俺たちは似ていたのかもしれない。経済的な面では少し違うかもしれないが、似ていた、やすらぎを求めていたんだと思う。

「家庭内の疎外感を打ち消す為に中学受験をしていて、プレッシャーになっていた君にさっちゃんは何か言葉を掛けてやりたいと、勇気づけたいと相談されたんだ」

店長には俺の情報筒抜けで恥ずかしかった。

「それで、私はさっちゃん自身にも通づる言葉を挙げたんだ」

「“自分を認めてくれるのは家族だけじゃない”ってね」

それを聞いた瞬間、鳥肌が立った。

それも俺が忘れていた記憶だ。

「その後、さっちゃんは君に言ったらしい」

「それは覚えているかい?」

「その言葉はずっと覚えていましたが、誰から言われたというのは、今思い出しました……」

誰から言われたのか分からなかったが、俺はずっと覚えていた。

「驚きましたよ。いつもは俺の悩みを聞いてくるばっかりで、急にそんな事いうんだから。……まぁ、でも勇気づけられましたよ」

「よかった」

店長は安心したようだった。

「そう、それでね……」

店長は本題に戻る。

「弟が亡くなったんだ」

どれまでの不幸が彼女に降り注ぐのだろうか、もうやめて欲しかった。これ以上、不幸にならないで欲しかった。

「え……」

「彼は元々病弱でね、それでさっちゃんが自暴自棄になって、この街を出てったんだ」

「……そうですか」

俯く俺を横目に店長は話を続ける。

「私は、この時の君らしき人物を覚えているよ、ここの裏に来るけど、さっちゃんが居ないと分かると消えちゃって、あれは君かい?」

思い出した。俺はいつも通り、ピアノ教室の帰り、ここへ来た。しかし、いつまで経ってもさつるは来なかった。次の日も、また次の日も来なかった。ここからは俺の仮説だが、癒しの場所を無くした俺は悲しみを抑える為に記憶から消したのかもしれない。

「多分、俺ですね」

「そうか」

「あと、それから1年後くらいか、さっちゃんから年賀状が届いたんだ。計5回ほど貰ったよ。でも、自暴自棄なのか分からないが、差出人住所が毎回違うし、隣に写っている男性も毎回変わっていた」

それを聞いて、俺が大人だったら、彼女を救えたのかもしれないと思った。

「そして、ここにある男性が訪れたんだ。話を聞くと、さっちゃんの恋人で、さっき君に渡した手紙を彼は、くれたんだ」

俺は手元にある手紙を触る。まだ封が切られてない状態だった。

「この手紙は元々、結婚式の招待状と一緒に渡すものだったらしいんだ。でも、さっちゃんは結婚式を挙げる前に亡くなった」

俺は、もう過去の事なのに後悔が止まらず目頭が熱くなった。

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カルーアミルクの思い出 いらの庵 @tureturegisa2

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