第3話 容疑者たち

「ねえねえ一緒にデスゲーム作ろうよ」

「……」

「ねえねえ」


 拝啓昨日の俺へ。俺はデスゲーム作りを止めるどころか、執拗に勧誘されています。はっきり言ってやかましいしうっとうしいです。もともと俺は口下手だし、こいつを言いくるめて黙らせることなどできない。


 というか一回病室から出て行って欲しい。こちとら昨日意識不明の重体から脱出したばかりの重症人である。昨日は火事場の底力的な感じで動けていたが、今日は体がきつい。


「ねえねえ一緒にデスゲーム作ろうよ。僕を無視しないでよ」

「……」


 無視してるのではない。喋る気力が無いだけである。というか俺は元来無口だ。昨日はパニクってて多弁だったが、話さないのかデフォルトなのだ。


 それに誰が好き好んでデスゲームを作るか。こいつは例外として、普通の一般人はデスゲームを作ろうとしない。


「だいたいお前、何でそこまでデスゲームにこだわるんだよ。俺を死なせないための対策、デスゲーム以外にも思いつくだろ」


 まあ俺は思いつかないが。


「僕がデスゲーム作りにこだわる理由はおおまかに三つあるんだけど。その内の一つ目は、ご存知の通り君を死なせないため」

「残りの二つは?」

「今はまだ内緒。今は」


 進展するどころか謎が深まっただけだった。


 ここでふと思う。どうして俺はここまでしてこいつのデスゲーム作りを止めたいのだろうか、と。やはり、苦労して俺が助けた命で他の大多数の命を犠牲にするのが嫌だから?冷静に考えてみると、俺は知りもしない大多数の人間の命を犠牲にするのを気にするほど優しい性格の人間ではない。じゃあ一体なにが嫌なのか。


 他の誰かを犠牲にするのが嫌なんだ。こいつには犯罪者になって欲しくないし、綺麗なままでいて欲しい。でも、こいつがデスゲームを作るのを止めるのは限りなく不可能に近い。ならば逆転の発想だ。


「俺、デスゲームを作るよ」


 こいつがデスゲームを作ろうとする理由が三つもあるなら、俺がそれを代行しよう。俺が罪を背負おう。


「だから、お前も妹もデスゲーム作りを手を引け。な?」

「『デスゲームを作る』って言ったね。言質はとったよ。ということで、一緒にデスゲーム作りを頑張ろう」

「人の話をちゃんと聞いてたのかお前。俺は『手を引け』とも言ったぞ」

「もちろん君の妹はもとから手を引かせるつもりだったよ」

「いやだからお前も手を引けと俺は言ってるんだ」

「僕のデスゲーム作りにこだわる理由というか目的というか、とにかくそれは僕自身が作らないと達成できないんだよね」


 俺が決死の覚悟で言ったのに、こいつは平然とかわしやがった。


「よーし、早速仲間集めから始めよう!」

「俺はまだ納得してな……」

「実はデスゲーム作りをする仲間の候補はもう決まってるんだ」

「相変わらず人の話を聞かねえやつだな」


 そして机の上に置かれたのはプリントの束。プリントの一枚一枚には候補者と思われる人たちの顔写真と個人情報が書かれていた。


「まずは一人目。公立中学校の教師」

「公務員に副業させるな」

「ツッコむところそこなの?とりあえず説明を続けるね。この教師は五年前に僕たちの母校の中学に勤めていた人物だよ」

「五年前ってことは俺らが小学六年生のときか。面識はない教師だな」

「次は二人目。SNSで僕に絡んできた人」

「それ大丈夫なやつなのか?しかもSNSって匿名だよな。何で個人を特定してるんだよ怖すぎる」

「特定方法は企業秘密だよ。次の三人目で最後。元ゲームクリエイターで現無職の人」

「やっとそれっぽい人が出てきたな。いやでもガチのデスゲームはゲームクリエイターにとっては畑違いなのか?」


 候補者は全部で三人か。プリントの束が厚い割に人数が少ないな。それだけプリントにかかれている一人辺りの情報量が多いのだろう。


「この中の誰を正式に仲間にするんだ?」

「全員だよ」

「全員?候補者って言うからてっきりこの中から誰かを選ぶんだと思ってたんだが」

「候補者って言った方が格好いいなと思ったんだ」


 こいつ、個人を特定できる程度には頭が良いっぽいが、変なところで阿呆だな。


 それにしても、仲間にするやつらの傾向が分からなさすぎる。プリントをしっかり読んでみるか。


 まずは教師。五年前に母校の中学に勤めていたということは、三年前のデスゲームには参加していない。ぎりぎり逃れられていたのか。悪運が強めなのだろう。


 次にSNS で絡んできた人。ちょくちょくSNSで三年前の事件に言及していたようだ。匿名掲示板では結構饒舌に語っているな。


 最後に元ゲームクリエイター。手掛けていたのは謎解き系のゲームが多い。そして何より気になる文言が。『三年前の事件の重要参考人』というものだ。


「一つ聞いて良いか?いったいどういう意図でこの人選をした?」

「僕がデスゲーム作りにこだわる理由の二つ目に関係があるんだ」

「意地でも理由は教えてくれない感じなんだな」

「時が来たら話すよ」







──容疑者たち

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