第4話 感情を引き出すラストチャンス
「本日はお日柄もよく……」
ヤバい。初手をミスった。空は曇天。今にも雨が降り出しそうで、お世辞にも天気が良いとは言えない。だが、ここで失敗する訳には行かない。
「兎も角、本日はお忙しい中お集まり頂きまことにありがとうございます」
今日は新しい仲間達との顔合わせである。ちなみにあいつは自宅療養中なので、俺は一人で初対面の相手に立ち向かわなければならない。あいつの分の罪も背負うと言ってしまった手前、頑張らなければならない。
「今回はまずゲームのコンセプトを説明させ──」
「何故ワタシはここに呼ばれたのでしょうか……」
「ねねねね、これってボクもデスゲーム作りに参加して良いかんじ!?」
「やるからには完璧なゲームを生み出さねば」
コイツら一向に話を聞かねえ。いくら温厚な俺でもキレてしまいそうだ。だがそれも我慢我慢。あいつに言われた手筈通りに進めないと。
「まず、ゲームの舞台はこの廃校」
「はははははは廃校……ワ、ワタシは別にそこに勤めていたことはないですよ」
「えーまた学校ー?」
「ふむ。以前のリメイクということか」
何だろう。一言話すだけでものすごく疲れる。俺、帰っても良いですか?駄目か。知ってた。
「廃校でキャンプをして青春を取り戻そうというていで始まるデスゲームだそうです」
「ま、またデスゲームを手伝わされるんですか……」
「つまんなさそー」
「本気で考えてそれなのかい?」
反応が悪いな。さすがにテーマが雑すぎたか。まあこれはあくまでカモフラージュで真のテーマは他にあるし。こんなものだろう。
「君は少々頼りないようだからな。ここからはオレが進行役を務めさせてもらっても?」
「むしろ進行役を変わって欲しいです。お願いします」
元ゲームクリエイター氏が俺の段取りに痺れを切らしたのか、進行役を変わってくれた。俺、喋るの得意じゃないしありがたい。それに、今回はこのヒトに動いて貰わないと色々と後で困るからな。
「じゃあまずはここの配置なのだが──」
そこからは先程までの進みの遅さが嘘のようにサクサクと話が進んだ。尚、俺の存在は終始空気だった。話についていくのに必死だったのだ。あと、めちゃくちゃメモをとった。あいつに内容を伝えて次の作戦を立てなければいけないからな。
そうと決まれば善は急げ。果たしてこれを善と呼べるかは分からないが。自宅療養中のあいつのもとへ向かおう。
「おはよ。体調は大丈夫そうか?」
「まあまあかな。話す分には問題ないよ」
「おっけ。早速アイツらと話した内容なんだけど、かくかくしかじかで」
「『かくかくしかじかで』って何言ってるか分からないよ。真面目に説明して」
ちょっとくらいふざけたって良いじゃないか。だが、こいつの視線が痛いので大人しくメモを見せることにした。
「なるほどなるほど。こう来たか」
最近気がついたんだが、こいつ割と頭が良いのでは。声色とポーズがクレバーなキャラっぽい。今まで単細胞だとか思っててごめんな。
「よし、この案は採用。ということでこのゲーム計画を乗っ取ろう」
「え?乗っ取る?一緒にデスゲーム作りをするんじゃなくて?」
「コイツらが目指すゲームのラストと僕が目指すゲームのラストは別物だからね。セットとか参加者とかは有効活用させてもらうけど」
何言ってるか一ミリも、一マクロンも分からない。未だに俺はこいつがデスゲームにこだわる理由を知らないのも相まって、頭がこんがらがる。
「ここで特別出血大サービス。僕がデスゲーム作りにこだわる理由を教えよう」
「唐突だな」
「理由は簡単。三年前の事件の犯人への復讐だよ」
まあ明らかに仲間(暫定)のヤツらは重要参考人だったりしたからな。復讐するために近づくのは妥当っちゃ妥当か。
にしても復讐か。やはりデスゲームによって世話になった教師や同級生が死んだことを恨んでいるのだろう。
「うーん、僕が大々的に理由を明かしたのにリアクションが薄い。さすがにわかりきった理由すぎたかな?」
「お前がわざわざ復讐を使用とするタイプの人間だったのは驚きだぞ」
「まあ僕は即行動するタイプの人間じゃないしね」
「それにしてはこのデスゲーム作り、やけに急いでないか?」
「嗚呼、それはね」
呼吸音がしたあと、長い長い間があった。空気の振動も感じなくなり、まるで時が止まったようだった。
「僕にはあと一年しか時間がないから」
「は?」
「僕、十八歳までしか生きられないんだって。だから君にデスゲームで助けられたとき、どうせすぐに逝くのに助けるなんて無駄なことするなと思った」
思い返してみれば、ラストゲームのときにこいつは『何で、僕なんかを助け?どうせ僕は……』と言っていた気がする。これは寿命のことを表していたのか。
「だからまあ、復讐をするのは今がラストチャンスなんだ」
こいつはこいつなりに三年前のデスゲームにけじめをつけようとしているのか。教師や同級生の仇をとるために計画しているのか。
「なら、俺も頑張らないとな」
俺はこいつになら地獄の果てまでついていく所存だ。
「絶対に勘違いされてる気がするなあ。僕が復讐するのは仇うちじゃないし。君の感情を引き出すのはいつも僕でありたかった。なのに君の絶望顔も格好つけたセリフも引き出したのはデスゲームの主催者なんて。それが許せなかったから復讐するんだけど。まあいっか」
このときの俺は、こいつの呟きに気づかずにいた。
──感情を引き出すラストチャンス
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます