第5話 完璧主義者
俺はやればできる男だ。だから大丈夫。自分一人で敵地に乗り込むのもお茶の子さいさい⋯⋯。
「なあやっぱり俺一人じゃ無理だよ」
なんて弱音を吐いても、誰からも返事はない。つまり今の俺は、道のど真ん中で独り言をこぼす変人である。
腹をくくろう。もとより罪は背負う覚悟だろ。それに今からすることくらいグレーでもないホワイトなことである。おそらく。
重い足取りでデスゲームの舞台となる廃校に向かう。
「こんにちは」
「こ、こんにちは⋯⋯」
そこには仲間⋯⋯仲間?の一人の教師がいた。どうやら約束の時間よりも早くに着いたようだ。
「こちらから呼び出したのに、遅れてしまいすみません」
「あ、いやその、全然だいじょぶです」
すごくキョドってるなコノ人。なにかやましいことがある態度な気がする。このデスゲーム作りに参加してる時点でやましいことはしてたか。うん、全然不自然な態度ではないな。
このキョドってる人と今から一対一で話すのか。コミュ障気味の俺じゃ辛いぜ。あいつの指示だしやるけどな。あいつの指示だし。大事なことなので二回言った。
「今日は聞きたいことがありまして」
「な、なんでしょうか……」
「ちょっとした世間話と言いますか、何故このデスゲーム作りに参加してくれたのかなあと思い」
「此方が脅してきたじゃないですか……!何を今さら白々しい……」
少なくとも俺は脅してない。脅すとしたらあいつだ。いや本当にマジであいつは何をしたのだろうか。
というか、話の切り出し方を間違えたな。今回のデスゲーム作りの暫定仲間は三年前の事件の犯人候補らしい。そして犯人か仲間かの裏取りをするために話を聞け、というのがあいつからの指示。でもこの状態だと裏取りなんて出来そうもない。
「このデスゲーム作りに参加しないと、三年前の事件に協力したことをばらすって」
まさかの自分から語り始めた。あいつ、『ばらす』って脅したなら事件の真相を実は既に知ってたのだろうか。俺が裏取りする必要なくね。あいつは念には念を押す完璧主義者ってことなのか。もしかしたらカマをかけただけかもしれないが。どちらにしろ、あいつの情報網が謎すぎる。
「そそそそれに、働きに見合う正当な報酬をくれるって。それも三年前よりも高い金額の」
なるほど、つまり三年前も金が目的でデスゲーム作りに協力したと。
「この廃校も昔勤めてましたから……!設備とか詳しいです。だから、だからばらさないで……」
とりあえず三年前の事件の関係者なのは確定っと。
「話は以上です。今日はもうお帰りください」
「……失礼します……」
よし、うかうかしてられない。次は二人目の裏取りをしなければ。
「やっほー。話があるってなにー?」
「所謂世間話ってやつですよ。何故このデスゲーム作りに参加してくれたのかなあと思いまして」
「そりゃあ三年前よりもすごいデスゲームを企画するって言われたからだよ」
またもやあいつ、何かしたのか。
「んでえ、三年前のボクはまだ素人だったけどお、今作れば前より愉しそうじゃん」
なるほど愉快犯。ついでにまたもや三年前の事件の関係者確定。これ、やっぱり俺が裏取りする必要なくね。スムーズすぎる。ここまで来ると逆にあいつが何か企んでたとか言われた方が納得する。
「なるほど。教えてくださりありがとうございます。今日はもうお帰りください」
「えーもうお話は終わり?まあいいや。バイバーイ」
さて、次の三人目でラスト。コノ人が一番手強そう。
「やあ」
「本日はご足労いただき、誠にありがとうございます」
俺、話し方合ってるのかな。敬語の使い方間違ってたらどうしよう。気にしたら負けか。考えるのやめよう。
「今日はですね、何故このデスゲーム作りに参加してくださったのかお伺いしたいと思い」
「君は、ゲームクリエイターのヒット作を聞かれたらどう答える?」
は?何を言ってるんだコイツ。
「オレならこう答える。最新作だ、と。これはゲームクリエイターに限らず、全ての創作者においてこうあるべきだと考えている」
思想強めなヒトかあ。唐突に語り始めるじゃん。早く本筋に戻ってほしい。
「新たに作るゲームは、以前作ったものより良いものを。この美学に則り、オレは三年前のデスゲームを超える」
素朴な疑問なのだが、何をもって超えると判断出来るのだろうか。普通のゲームなら売り上げやら何やらで判断するのかもしれないけど。デスゲームにおいては判断方法が分からない。
「それに、あんなにも挑発されれば、ねえ?」
本当の本当にあいつは何をしたんだ。怖くて考えることすら出来ない。
「三年前、オレ達が作ったデスゲームは完璧でなかった。今度こそは完璧にしてみせる。なんせ、オレは完璧主義者なんでね」
コイツら、結構簡単に三年前のデスゲームを作ったことを白状するな。これでよく逮捕されなかったものだ。コイツにいたっては、重要参考人になったにも関わらず逃れている。証拠の隠滅が得意なのだろうか。完璧主義者が完璧たる所以?
──完璧主義者
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