第2話 退場者の未練擬き

 何とかデスゲーム作りを止められないか。そう考えながらもなかなか良い案は思いつかない。


「よし、ここの謎はこうしてっと。割と良い感じ~」


 件の友人は今日も俺のもとを訪れ、デスゲーム作りにいそしんでいた。どうやら頭を使うようなデスゲームにしたいらしく、上機嫌に謎を作っている。上機嫌に人死にが出るゲームを考えてるなんて、控えめに言ってサイコパス。


「僕、実は天才だったりして。君もそう思うだろ?」


 あんだけトラウマになりそうな事件を経験しても尚デスゲームを作ろうとする精神力は、ある意味天才的だとは思う。


「え。僕は阿呆だって?さすがにそれは酷いよ」


 俺の発言を勝手に捏造するな。いくら俺の声が届かないからって、虚偽はよくないぞ。


「そうそう。君の妹は今日は来ないよ。中学校が忙しいんだって。大変そうだね」


 いや、それを言うならお前だって高校生だろうが。なに呑気にデスゲームを作ってるんだ。学生の本分は勉強なのでは。少なくとも健全な学生はデスゲームなぞ作らない。はっきりわかんだね。


「君もデスゲーム作ろーよー。楽しーよー」


 無茶なこと言うな。俺はむしろデスゲーム作りを止めたい。それにそもそもデスゲームを作れる体じゃねえよ。


「ちなみに、実はもうほぼデスゲームは完成してて、あとは実行するだけって言ったらどうする?」


 は?


「うっわなんか寒気した。これが悪寒ってやつ?」


 思わずキレたら冷気を垂れ流していたようだ。よもや、俺が怪奇現象を起こす立場になるなんて。人生、何があるかわからないもんだね。


「でも本当に、そろそろ君は起きた方が良いと思うよ。そうじゃないと、今度は僕がアイツみたいな惨劇を起こすかもしれないよ」


 やっぱり俺の友人は犯罪者予備軍のようだ。でも俺には止めることは出来ない。だって今の俺は。


「君ってば、せっかく一命はとりとめたのに三年も目を覚まさないなんて」


 意識不明の重体の筈だからだ。


「早く目を開けてよ。ねえ。何でこうなっちゃったの」


 震えた声はただ病室で響くのみだった。


 何でこうなっちゃったの、か。俺だって聞きたい。というか俺自身が一番混乱してる。何故、俺の体は意識不明の重体なのに、こうも思考することが出来るのか。魂のような状態になって漂っているのか。俺が一番聞きたい。


 三年前の事件の後。俺は意識を手放した直後に再び意識を取り戻した。あくまでこれは主観であり、はたから見れば俺はずっと意識不明のようだった。


 自分が宙に浮いているような感覚がし、見下ろすと自分の体が見える。そんな状況に陥った俺は、一つの結論に至った。それは俺が幽体離脱しているということだ。


 あれよあれよと俺の体は救急車に乗せられ、病院に運ばれた。そして体に戻れないまま、かと言って死ぬことも出来ないまま三年が経った。


 いやマジで何で。俺的にはめちゃくちゃ格好つけて自分を刺した手前、潔く死にたかったのだが。まだこの世に未練がある的な感じで死ねなかったのだろうか。死ねないなら体に戻りたいんだけどな。というか今となっては切実に戻りたい。そうじゃないとこいつも妹も止められない。


 でも心のどこかで、こんな事態になるのは仕方ないのかななんて思ってて。体に戻れないし、声も出せない。今日も俺は何も出来ない。


「いよいよ制作も大詰めかな」


 さすがに早すぎないか。デスゲームを作る宣言されてからまだそこまで日付は経ってない。もしかして、ある程度準備が終わってから俺に宣言しに来たのだろうか。


「お兄ちゃん、おはよう」


 え、何で妹も来たの。中学校で忙しいんじゃ。


「ちょうどいい所に来たね。ようやく最期の作業が終わったんだ」

「そっか。じゃあ、予定通りに行きそう?」

「うん、明日に決行できるよ」


 は?明日?


「デスゲームは一ヶ月間開催するから、しばらくここには来れないね」

「お兄ちゃん、待っててね。絶対に無念、晴らすから」


 いや、だから俺には無念なんて無い。それに一ヶ月開催だと。俺達がデスゲームに巻き込まれたときですら開催されたのは一週間だ。アイツ以上の惨劇を起こすつもりなのだろうか。


「三年前、何で君が僕をかばったのか知りたいんだ。だからデスゲームを開催して、同じ状況を作る」


 そんなくだらないことのためにデスゲームをやるのか。俺が身を呈して助けた命で、アイツよりも多くの命を犠牲にするのか。俺のあの格好つけたセリフを無駄にするのか。


「そんなに知りたいなら……教えてやるよ……」


 あれ。今、俺、声が出た。もしかして、もとに戻ってる感じなのか。それならすることはただ一つ。力づくであいつを止める。


「病み上がりの体でそんなに動くなんて感心しないなあ」

「誰の……せいだと……」

「息切れもすごいよ。休みなよ」


 休めと言われてもはいそうですかなんて言うわけ無いだろ。


 と、ここで気がつく。妹な姿が見えない。あいつに気をとられているうちに、逃げられたのか。妹も止めなければ、デスゲームは開催されるかもしれない。そう焦りながら病室を見渡すと、視界の端に妙な板が映る。


『ドッキリ大成功!』


 妹はそんなふざけた文字をかかげ、立っていた。


「ドッキリってどういうことだよ」

「実は、君を起こすために嘘をついたんだ」


 嘘。ということは、デスゲームなんて最初から作ってなかったのか。一気に安堵した。これなら、安心して逝ける。


「デスゲーム、まだ全然完成してないんだよ」

「いやデスゲームは作ってるのかよ」


 じゃあこいつ、本当にこんなしょうもない俺がかばった理由を知るためにゲームを作ろうとしたのか。


「だって君、ただの嘘じゃ起きたとしてもすぐに逝っちゃうでしょ」

「は……?じゃあ俺を死なせないため……?」

「僕たちはこれからもデスゲーム作りを続行する。止めたければ、君はまだ生きて僕たちを妨害するしかない」


 俺が何でこいつを助けたのか知りたいという願いはブラフか。だが、どちらにしろくだらない目的。たかが俺一人の延命のために他の大多数の命を危険に晒すゲームを作るか普通。


「勿論、君も一緒にデスゲームを作りたくなったら言うんだよ」

「誰が言うか……馬鹿野郎……」


 死んだらきっと、こいつらがデスゲームを作るのを止められなくて後悔する。そう考えてしまう時点で、俺はこの世に未練たらたらなのかもしれない。




──退場者の未練擬き


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