デスゲーム製作委員会

睦月

第1話 ラストゲームの生存者

 夏。キラキラとした学生は青春を送り、俺みたいなやつが惨めに過ごす季節である。無論、俺はすることなどなく、ただ漂っていた。


 そんな俺のもとへやってきたのは、唯一の友人。


「僕、デスゲームを作ることにしたんだ」


 は?今こいつなんて言った。デスゲームってあのデスゲーム?お前、中学時代のトラウマからそういうの苦手だったんじゃなかったのか。ホラー耐性ゼロのくせに。


「ああ、ゲームといってもビデオゲームとかそういうのじゃなくて。リアルのやつね。ガチで人の生死がかかっているデスゲーム」


 なおさら駄目じゃん。俺、唯一の友人が犯罪者予備軍だったとか嫌なんだけど。


「じゃあ、そういうことだから。ばいばい」


 当たり前だが、結局俺はあいつを引き留めることはできず。あいつは家に帰っていった。と思われたが。


「おっと忘れてた。これ、お前が好きだった菓子な。今度こそばいばーい」


 わざわざ菓子を置くために引き返してきた。俺のもとを訪れる度に菓子やら果物やら置いていく友人。どうせ俺が食べることなんてないのに。律儀なやつである。


 にしても、デスゲームか。こんな軽いノリで作れるものなのだろうか。あいつ、単細胞だし阿呆だから尚更作れない気がするのだが。作る作れない云々より前に、倫理観的にアウトだし。何とかあいつを止めたいところではある。


 俺が止めたところで、あいつの耳には入らないしあいつは止まらないだろうけど。あいつ、変なところで頭固いし。


 そうこう考えていると、足音が聞こえてきた。あいつ以外に俺のもとを訪ねるやつなんて居ただろうか。


「お兄ちゃん……」


 妹だった。思春期であろう年頃なのに、兄である俺のとこに来てくれるなんて。ちょっと感動。思わずうるっときちゃったよ。まあ、涙なんて出ないけど。


「私ね、あの事件のことを未だ夢に見るの。実際に事件現場にいた訳じゃないのに、夢に見るの。何でお兄ちゃんがこんな酷い目に、ってずっと思ってたの」


 兄思いの良い子すぎる。俺には勿体ないくらい出来た妹だ。あの事件が起きてからはもう三年経とうとしているのに。やはりあの事件は、妹にとってもトラウマになっていたようだ。


「だから、デスゲームを作ろうと思うの」


 お ま え も か ブ ル ○ タ ス 。


 だからって何だよだからって。接続詞が仕事をしていない。脈絡が無さすぎるんだよ。どいつもこいつも何故デスゲームを作りたがるのか。あいつといい妹といい、トラウマはどうしたのかい?いくらなんでも論理が飛躍しすぎだ。


「絶対、お兄ちゃんの無念を晴らすから。ばいばい」


 無念とか別に俺にはないんですけど。そんな声が妹に届くはずもなく、妹は去っていった。


 次から次にデスゲーム作る宣言されて、胃が痛い。これはあくまで慣用句の一種であり、痛みなんて実際には感じられてないが。


 でも、本当にどうしよう。俺にはあいつと妹を止められる手段も方法もない。大体、何故アイツと同じ道を辿ろうとしているのか。もしかして、俺が体を張ったことはすべて無駄だったのだろうか。思考がだんだんと沈んでゆく。


 あーーーもう、やめだやめ。落ち込むのはここで終了。とにかく頑張ってデスゲーム作りを阻止するぞ!えいえいおー!


 と思っていたのに。


「会場はこことかどう?廃校になった中学」

「良いと思うよ。こっちは集めれそうな人手をピックアップしてみたよ」


 どうしてここで友人と妹がデスゲームを作ってるんですかねー!?場所は他にもあるだろうが。ピンポイントでここを選ぶ必要があるか。ないよね。つうかさ、ここまでして何でデスゲーム作ろうとしてんだよ。もしかして俺、何か間違ったことした?


 デスゲームを作ろうとするきっかけか。十中八九あの忌まわしい事件、忌まわしいデスゲームのせいなんだろうけど。当時の俺の言動を思い出そうと、約三年前の出来事に思いを馳せる。














 ただの林間学校のはずだった。夏休み中、いまどき珍しいくらいのド田舎にある俺たちの中学校で泊まり込む行事のはずだった。生徒数は年々減少しており、参加者は十数人ほど。


「アー、テステス、マイクテスト」


 明らかにボイスチェンジャーを使ったであろう声が放送された。この時点ではまだ、何かの余興なのかと思っていた。


「キミタチニハイマカラ、ゲームヲシテモライマス」


 これが、絶望の始まりで。


「ルールハカンタン。ミニゲームヲコナシナガラ、コノナノカカンヲイキニクコト」


 どこからか悲鳴が聞こえた。そんなことにはお構い無く始まっていくゲーム。文字通り、命がけのゲーム。教員も、生徒も関係なしに日に日に減っていく人数。


「コレガ、サイシュウゲームダ」


 気がつけば残っているのは俺とあいつだけで。ミニゲーム内容はなんだっけ。まあたぶん殺し合いの一種で。


 気がつけば何故か握っていたナイフを俺は床に捨て。あいつに一歩ずつ近づいて。


「な、なんで……」


 俺はあいつがナイフを持つ手を自分の手で包み込み、


「お前は生きろよ」


 自分の腹を突き刺した。


「なんで、なんで、僕なんかを助け?僕はどうせ……」


 だって俺ら、親友だろ?なんて声はもう出せなくて。消えゆく意識の中、どこか遠くでサイレンの音がした気がした。













 俺、何か悪いこと言った?言ってねえよな。むしろマンガの主人公ばりに格好いいセリフ言って退場したんだけどなあ。なんであいつも妹も、デスゲームを作ろうとするんだか。俺にはさっぱりわからん。







──ラストゲームの生存者

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