未知との邂逅と、警戒心と、第一印象と、立ち食い蕎麦について考える。

 次の電車が来るまで結構な時間があるな……まぁのんびりするのもけっこうだろう。そんな中、ホームで見かけたイタリア人と思しき青年。
 本を読むのも良いけれど、ページを捲る手を困っている人に差し伸べるのも悪くない。というか、彼の笑顔を見れば読後感よりも、素晴らしい感情が押し寄せてくる。乗りかかった船……じゃない、電車だ(まだ来てもいないけれど)。青年と一緒に蕎麦を啜る。蕎麦は勢いよくずずずっと音を立てて啜るのがマナーだと、外国人に言えば驚かれるというが、この青年はどうだろうか……。私がそれを英語で伝えられれば、是非とも聞いてみたいところである。
 私のジョークにもきちんと反応して、笑ってくれる青年。お節介を焼いて正解だったようだ。
 ベンチに腰掛け、彼の話に耳を傾ければ、彼の研究分野は地球人だという。……地球人? それは人間や人類学とどういった違いがあるのか。きつねとたぬきように明確な違いがあれば別として、私にはどうにも理解が追い付かない。
 それでも、私のお節介はベストな焼き加減だったのか、青年はとても嬉しそうでホッとする。とりあえず、地球上には存在しないどこか違う星から来た人、という体で私は頭の中で情報を軽くまとめた。
 彼はペンギンに興味があるのか……。それは興味深いな……私はペンギンに対して造詣が深いわけではないから、彼の話にはペンギンでなくとも好奇心がわく。彼が私に警戒心を持たずに接してくれているように。(こう書くと私がいかにも彼に危害を加える前提のような印象を持たれるかもしれないが、決してそんなことはないとここではっきりと書き記しておく。)
 これは、今の私と彼のようにも当てはまるのではとふと思い始めた。どちらが人間でどちらがペンギンかは差し置いて、お互いは「お互いに別な種類の人間」とでも思っているような共通認識はおそらく、彼も持っていることだろう。
 そう、まさにそれだ。第一印象は大事というけれど、もしも彼がいかつい見た目をしていたら、もしかすると私は素通りしていた可能性だって否定しない。でも、私は彼におせっかいを焼いてみようと思う程度には、警戒心を緩められるほどやんわりとしたいでたちだった。
 目は口ほどにものをいうというけれど。いや、そこまで言われると私も少し自信を無くしてしまう……。
 どこか後ろ髪をひかれるような感覚のまま、彼と別れた私は。この奇妙な事の顛末をホームに置いていくのか、ホーム(家)に持ち帰って家族に話すのか。その二者択一を贅沢に悩みながら、本でも開いて次の電車を待つことにしよう。
 ここまで読んでくれて、ドウモアリガトウゴザイマス。