私の母が死にました

@kokoroyomi

私の母が死にました

そこには一人の娘とその両親がいた

「あなた、あーん」

「止めてくれ、恥ずかしい///」

「ほら早く。冷めちゃうよ」

モグモグ

「おいしい?」

「美味しいよ」

「お母さん、私も私も」

「はい、あーん」

「おいしい」

そんな仲が良い家族の元に一つの不幸の知らせが届いた

ピンポーン

「はーい。誰かしら」

「西原さん徴兵です」

そう、今は戦争の真っ只中なのだ。この近くに被害はないが、戦地では今も多くの者が亡くなっている

「え、?」

「どうした?客人か?」

「西原さん徴兵です」

「もう、ですか、、、分かりました」

「嫌、嫌、嫌。あなた死んじゃうかもしれないのよ」

この戦争に生きて戻ってこれる確率は10%以下である。仮に生き残ったとしてもまた戦地に赴くことになる

「お国の為だ。行くしかない」

男には覚悟がある。それは別に国を守るための覚悟では無い。 家族を守るために自分の身を犠牲にする覚悟だ。

「では、これを」

「はい」

その時、娘が言った

「お父さんどうしたの?」

何も知らない娘にこのような酷なことを告げられるか。男は、はぐらかした

「お父さんは長い間旅行に出かけるんだ。そのまでの間お母さんをよろしくな」

優しく、けれど突き放すように言った

「私も行きたい」

旅行という言葉に反応したのか娘は父にせがんだ。 けれど父が何度も説得する内に、渋々納得した

「お仕事頑張ってきてね」

子供とは言っても小学生、何の仕事かは分からないもののこの旅行が仕事であることは理解した。

娘の言葉に両親は泣いた。 同情はするなと言われていた兵士でさえ泣いた。

父は旅立った。もう二度とに戻って来れないところまで

それからすぐに戦争は終わった

たくさんの者が亡くなったが、最終的に和解という形で戦争は終わった

もしこれが童話であれば、めでたしめでたしになるのだが、

「お母さん、お母さん、、、」

ハッと我に返る。周りを見渡すと、 何もないところにフォークを差し出している 右手。その先には見慣れない仏壇。 そこには1枚の写真があった。夫だ。 母親は思い出し、また泣いた。 娘は落ち着いている。 もちろん最初は泣いた。 しかし 父親に言われたことを思い出した。『母さんをよろしくな』 お母さんは泣いていた。娘はまるで赤ん坊をあやすように、母親の頭を撫でた。

そして数日が経ったある日娘は学校から帰ってきた。

「お母さん今日ね、、、」

静かな廊下。いつもならば母親が玄関まで来るのだが、今日は来ない

「お買い物かな?」

娘は2階へ上がった。2階には2つ部屋がある。両親の部屋と自分の部屋だ

娘は宿題をやるために自分の部屋に行った。 宿題が終わると娘はリビングで母親を待った

18時、19時、20時、母親は帰って来なかった。 娘は家を出て 駐車場を確認した。あった。 娘は部屋へ戻りお母さん、お母さんと叫びながら 一つずつドアを開けていった。 トイレ、お風呂、押入れ、どこにもいなかった

2階を見てみることにした

いつもより、階段の音が五月蝿い。五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。 家が妙に静かなせいで落ち着かない。先ほどまでは大丈夫だったのに、、。 足が重い。 まるで本能が行くなと語りかけるように。 それでも少女は前へ進んだ。 階段を上り終え、 部屋の前まで行く。

ドアノブを手の力と重力を使って下げる。鍵はかかっていない。 恐る恐る覗くと、そこには短な距離を振り子の様に右へ左へ、右へ左へ揺れている母親の姿があった

娘は絶望した。 母親が死んだこと、父親との約束を守れなかったこと。 自分の無力さを嘆いた。ほんの数秒。 しかし彼女にとってそれは状況を理解するのに十分な時間だった。 すぐに家の固定電話で救急に電話をかけた。

「火事ですか、救急ですか」

電話の先から聞こえた言葉に娘は

「私の母が死にました」

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