勇者視点と補足
ただ引き継いだだけのくせして真面目すぎる奴がいるから、奪ってやりたい。はじめはただそれだけだった。
自分はこんなに「勇者」を嫌々やっているのに、大真面目に「魔王」全うしてる若い女の子がいること知った時の感情はただ一つ。認めたくない、だった。旅を成し遂げた動機は顔を見てやるため。それがいつしか「一言言ってやる」に変わり、最後は「手に入れてやりたい」に至る。いざ顔を突き合わせてみれば当たり前のように話が通じず、「魔王」でない彼女と話すにはすべてを奪ってやる必要があると思った。だから倒し、生け捕りにして牢を訪れた。負わなくて良い責任を負わされ続けた彼女が、義務の終わりを突きつけられればきっと折れてくれると思っていたのだ。だが蓋を開けてみれば彼女は当たり前のように犠牲になる気でいた。その姿を見て、自分の中の何かが切れた。
汚してやりたいのかどうしたいのかわからなかった。ひどい焦りのようなものだったのだろうか。カッとなって凌辱してやった。もう無力な女なのだとわからせて、快楽に抗えず男の手に落ちてしまう存在なのだと思い知らせて、今度こそ心を折ってやろうとした。皮肉なことに、そこまでやってやっと気付いたのだ。自分が彼女に抱いた情愛の底しれぬ深さに。
次の日に自分がどれほど愛する人を傷つけたのか、愛する人が傷つくことがどれほど辛いかを思い知った。どんな手段を使ってでも俺の傍から離したくない。五体満足で、綺麗なままで繋いでおくだけで満足だと思っていた。でも違った。身体が無事でも、心が傷ついている姿は耐え難かった。支配して得たのは後悔だった。それでも彼女を手放して生きていくことは想像もしたくない。理想を言えば、俺は彼女より一日だけ長く生きて、彼女の命が俺の腕の中で終わるのを見届けて、その日の最後に彼女を抱きしめて眠りにつきたい。我ながら恐ろしい執着心だと思う。異常さに気付いてなお手放すことができないから、愛とは狂気なのだ。
「名前を聞かせてくれ。魔王として継いだものじゃない、ただのお前だったときのそれが知りたい」
「……アルバン王エリナだった私はそなたが殺したのだろう」
「俺はレイモン。フォレの勇者は、レイモンって名前だったんだ。なあ、ただのお姫様だった頃のお前は、なんて娘だったんだ?」
「…メリサンド。父王エリナスⅢ世が、ただの父親としてつけてくれた。私を愛してくれる人しか呼ばないはずの名だ」
「メリサンド…愛称にするとメリューとか…ミリシャンとかか…可愛い名前だな」
レイモンの眦が緩む。
「信じてくれなくて良い。ただ、愛させてもらうよ。俺はきっとただ自分にできるやり方でお前を愛するために捕らえたんだから」
以下、エッッや恋愛には絡まないので切り落とした国の事情。蛇足
国の事情
・魔族は多種族がまばらにまとまっていて、明確な国境もなかった
・今の魔王の一族が力で統制し国を作りなんとなく文明や文化を根付かせていった
・最初は人間側が魔族の国を国と認めず、侵略行為とみなされる行動をとったのがきっかけで戦争が長く続く
・戦争が始まった当時の魔王は人間の国の姫を転移魔法で人質に取り、人間の王家に代々第一子が女児になる呪いをかける
・姫が生まれる度に人質に取り、「姫の命が惜しければ人間の国は大軍勢を出さない」「魔族の国を国と認め続ける限り、大軍による侵略や転移魔法による暗殺を行わない」という条約を締結させる
・人間の国にも魔族と戦えるような強い力を持って生まれる一族がまばらにおり、有望な若者が育つ度に少数精鋭のパーティを組んで出兵している
・魔族の国民も危機感を感じることが少ない地域では「滞在して経済を回したり文化を持ち込んでくれたりするし」くらいの感覚で人間と商売する者もいる。ぶっちゃけ人間をナメていた
勇者
・魔王城への旅路のおかげで、異文化を受け入れる視点を持つ
・ぶっちゃけ種族や国の対立には何の感想もない。魔王にも最初は「使命だししょうがないだろ死んでくれ」くらいの気持ち
・魔族の女性にもモテたり、かわいがってもらったりして性的な知識を得た(ので実は宿をくれたはぐれの魔族の魔女に童貞心を弄ばれたこともある)
・メリサンドを犯した後日、一緒に魔王城に旅立ったメンバー紅一点の子と姫様に本気で「最低野郎」と叱られてショボンと縮んでいた
生け捕りにされた魔王が勇者に〇される話 くまぃっさ @p0cketBamb00
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