第2話 神テンプレ
世の中には”テンプレ”なるものがある。
例えばあれだ、異世界転生したらチートスキルを得ました、とか。
今まで雑魚って呼ばれてたけど、スキルが覚醒して最強になりました、とか。
まあ、大体のテンプレというのは、妄想の産物に過ぎない。
否定しようにも、実際そうだしね。
とは言っても、こういうのは妄想で、現実ではありえないからこそ面白いというのはある。
別に、否定しようとかは思わない。
俺自身こういうの大好きだし。
なんか、チートって無性にワクワクするもんね。
しかしながら、だ。
妄想の産物と一笑に付すには極めて惜しい、現実的なシチュエーションというのもある。
一日夜なべして考えた結果、思い浮かんだ物だ。
そう、あれだ。
”ダンジョンに籠ってたら、パーティーに見放されて魔物に襲われる美少女の前にカッコよく表れて、惚れてもらう作戦”、だ。
これは文字通り、よくあるテンプレ系漫画とか小説とかのあるある展開である、美少女に惚れてもらうイベントだ。
天才か?
俺は、天才なのか?
こんな神テンプレ、どうして最初から思いつかなかった!?
そんな事を友人にメールで送って相談してみると、
「最低だな」
「そんなんだからモテないんだぞ」
って返ってきた。
ひ、酷いぞ!
いくら友達でも、言っていい事とダメな事があるだろ!
そんなだからモテないって……確かに合ってるけどさぁ!
確かにこの方法は一見見ると最低な行いなのかもしれない。
しかしながら、だ。
よくよく考えみると、ダンジョンで仲間から見放された女の子が魔物に襲われているんだぞ?
モテるどうこうじゃなくて、助けなきゃダメだろ。
道徳的に助けるべきだ。
だから、人助けだと思って積極的にやらねばならないことなのだ。
という訳で、俺は考えた。
魔物に襲われている人間を助けよう、と。
あ、ちなみにそんな事を受付嬢のお姉さんに言ってみたのだが、
「そんなテンプレ通りの状況が来るわけがないじゃないですか、現実的に考えて。というか、大麻さんはS級冒険者なんですよね?そんな変な努力しなくても私で良かったら……」
「あ、いいです、俺、純愛しか認めないんで」
「え?」
「いや、こういうのってそういう話じゃないんですよ。こう、なんて言えばいいんですかね……もっと正常な関係から始めたいんです」
「はあ……?そのガバガバな貞操感でそんな事、普通言います?」
なんて言われたぞ。
いや、そちらの貞操感の方がおかしいと思うぞ?
早速交際から始めるだなんて違うだろ。
ふん、所詮は夜しか考えられない男女の戯れに過ぎぬ。
しかし、俺にはモテるという使命がある。
ダンジョンに冒険者。
こんなテンプレ的な素材があって、どうしてそれを使わない?
ダンジョンで美少女を助けて、モテるという事が出来るではないか。
テンプレは、あちらから来るものではない。
こちらから手繰り寄せるのだ。
そして、それを達成して初めて、俺が考える真にモテる人間になるという物だ。
とまあカッコつけて言ってみたのだが、要は下心丸出しって事。
とは言っても、この際別にモテなくてもいい。
いや、モテなくていいというのは、その限りではないのだが……。
まあ、とにかく誰かのピンチにカッコよく登場したい、ってだけだ。
一番重要なのは、”カッコよく”という部分なのである。
▼
という訳で、はい、ダンジョンに来ました。
ところどころに水晶色の魔石がまだらに光っている、薄暗い空間。
その中心の中で、なだらかな丘の上の、ひときわ大きな魔石の上に座る。
さて、ダンジョンで助けを求めている女の子を助けにあたり、色々考えてみた。
先ずはどこを重点的に回るか?という事だ。
ダンジョンは広い。
俺は普通の人よりは魔力探知範囲がかなり広いらしいのだが、流石にダンジョン全域を探知するとなると、不可能だ。
しかしながら、助けを求める人間は多い。
なので魔物との戦闘による死亡率が高い、というか前のダンジョン3階層よりも急激に死亡率があがるダンジョン4階層を重点的に探知しようという訳だ。
助けられなかった人間は……知らん。
救助隊の人に助けてもらってください……南無南無。
とまあそんな事を考えながら、俺は目をおもむろに開けた。
「魔力探知」
目をさらに大きく開く。
人間は基本的に、目で魔力を感知する。
そして、俺は特に目が普通の人よりも発達しているらしい。
だからこうして目に集中すれば、ダンジョン一層分まるまる探知できる。
数分ほど、そうしていると、複数人、男二人、女一人が魔物と戦っているのが見えた。
「これは……!?」
おっと、今日はツキが良いらしい。
早速それらしい現場を発見だ。
男二人と女一人だなんて、まるでテンプレ通りの感じではないか……。
い、いや、まだだ、まだ落ち着け……、
まだテンプレ通りになると決まった訳じゃ……。
あ、男の方が逃げた。
「来たこれ!!!」
まさかのテンプレ通りの展開に、俺は魔石の上から飛び降りた。
さてさて、ここからは自然に登場するとしよう。
こういうのはいきなり少女の前に現れるものではない。
テンプレ通りに行くならば、逃げだしたへっぴり腰の男どもに遭う事から始めねばならない。
「ひ、ひいいいいい、にげろおおおおお!!!」
そして、俺は魔物から逃げてきた男たちの前に立った。
「どうしたんですか?なにかあったんですか?」
「お、お前も逃げろ!ここに居たら不味い!」
「いや、だからそういう事じゃなくて、何があったんですか?」
「説明は後だ!あの女が、あの女がああああ!ひ、ひいいいいい!!!」
なんだこの男、話が通じないんだが。
素直に、テンプレ通りの展開ですって答えればいい物の……。
まあ、別にいい。
とりあえずこの二人が一人の少女Aを魔物の前に置いてきたのは確定した。
ならばこんな男は放置してさっさと行くべし。
それに、俺はこんな少女一人を置いて自分たちだけ逃げる人間には用はない。
ささっと男たちが通ってきた道を辿ると、予定調和の如く少女Aは尻もちを付いていた。
黒髪、黒目、整った顔立ち。
美少女だ。
しかして、一つ予定調和ではない要素がある。
それは、
「ひひひひひひ!ああ、楽しけれ、楽しけれ、ひひひひひひひひひひひひ!!!」
そんな事を言いながら、巨大なショットガンを抱えていた事。
その前には首を失ってひくひくと痙攣する魔物が。
あ、これはヤバい奴ですね、はい。
関わっちゃいけない人間だ。
えっと、さっきの男の人たち、なんか、うん、よく頑張った。
確かにこの人はヤバいわ。
「そこのあなた、ちょっといいかしら!」
そんなこんなでそーっと、踵を返そうとしていると、
「あ、はい、俺ですか?」
「そうよ!ちょっと、私をおぶってくれないかしら!」
「あ、はい」
そして、俺は少女Aをおぶい、ダンジョンセンターまで運んで行った。
どうやら、先ほどのショットガン使用により、魔力が底を尽きたとの事。
俺はそのまま、家に帰ると、枕に顔を埋めて叫んだ。
「クソテンプレがあああああああああああああああああああああ!!!」
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【あとがき】
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モテたい一心でダンジョン冒険者になったけど、ヤバい奴しか来ないんだが? 絶対一般厳守マン @mikumiku100
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