モテたい一心でダンジョン冒険者になったけど、ヤバい奴しか来ないんだが?

絶対一般厳守マン

第1話 モテたいのでダンジョン冒険者になりました

 15年前、日本に突如としてダンジョンが出現した。

 

 ダンジョンが地上に出現した際、迷宮建造物は周囲に魔力を巻き散らした。

 その影響もあってか、魔力に適合した人々は魔力というエネルギーを自在に操れるようになり、魔法という物を扱うようになった。


 そして同時に、政府の調査によりダンジョン内部には危険な魔物が生息しており、同時に超高エネルギーを内包する魔石という資源が眠っていると明らかになった。

 故に、人々はそれらの資源を、夢を求めて己の魔法を駆使し、ダンジョンに潜るようになった。

 



 それは、ずっと前の事だった。


 遥か先に昇る光の柱。

 魔力の渦が空に広がり、世界は赤く染まっていた。

 その時の俺が知らなかったのだが、それはダンジョン出現による物だと初めて知った。


 そんな世界の中で、俺は息が荒くなっていた。

 

「ハア、ハア、ハア」


 息が苦しい。


 何かが肺を満たして、とんでもなく苦しい。


 お母さんと、お父さんの手をギュッと握る。

 

 お母さんとお父さんは、ダンジョンが出現した最初の衝撃から俺を庇って死んだ。

 そして、俺の手を握ったまま塵になった。

 高密度の魔力に触れたことで、肉体が限界を迎え蒸発したのだ。


 そして、手だけが残った。


「ハア、ハア、ハア!」


 苦しい。


 どうして、俺が。


 なんでお母さんと、お父さんが……!


 年端もゆかぬ少年であった俺には、突然日常を奪われる理不尽は理解できなかった。

 到底受け入れられるものではなかった。


「ああ、ああああ、ああああああああああああッ!!!」

 

 叫ぶ。


 しかし、何も変わらない。

 

 時折、生き残った人たちがこちらをチラリと見たが、何も見なかったとばかりに顔を背けた。


 苦しい、苦しい、苦しい!!!


 胸を搔きむしる。

 ドクドクと心臓が高鳴る。

 静かに、体が魔力へ適合してゆく。


 しかし、同時に拒絶反応も起こる。

 体中から何か、冷たい物が吹き出しそうな不快感が頭を貫くのだ。


「うう……ううううううううあああああああ!!!」


 どうしようもない孤独感と、不快感に叫んだ時だった。


「──小僧、モテたいか?」


 皺の寄った、40代ほどに見える屈強な男が手を差し伸べてきた。

 

 モテる?


 こんな状況でこの男は何をいっているのだろうか。

 ふざけるのも大概にしてほしい。

 そんな言葉を聞きたい気分じゃない。

 そう思い、無視した。


「そうか……そんな気分じゃないか」


 一人で話し続ける男。


「でもな、一つ良いことを教えてやる。辛いときにはな、漢なら笑え。じゃなきゃモテねえぞ」


 そして、男は笑った。


 なにがモテたいだ。

 別にモテたくなんてねえし。

 小学生だった当時の俺はそう思った。




「あー、彼女ほしー」


「またそれかよ」


「毎日言ってね?そんな事ばっか言ってるからモテないんだと思うぞ?」


 ひ、酷い……。

 いくら友人でもそれは超えちゃいけない一線を軽々しく超えられて涙が出てきそうだ。

 俺、大麻嘉オオアサコノムは今年で大学2年生の学生だ。

 ちなみに、お察しの通り彼女いない歴=年齢である。


 好きな女子が出来るたびに、告白して振られてきた。

 ある時は性格が合わなそうだから、だとか、

 ちょっとガツガツしてて怖いから、だとか、

 危ないお薬やってそうだから、だとかの理由で振られてきた。


 いやいや、最後の理由はおかしいだろ!?

 なにが危ないお薬やってそう、だ!?

 確かにやってそうな名前だけどさ?

 俺、吸ってないよ!?


 ……とまあ、そんな俺なのだが、周りの友人に彼女が居ないのならばまだ理解も出来た。

 しかし、


「なんでお前らには彼女が居るんだよぉぉぉぉぉ、俺一人だけ彼女いないぼっちにするなよぉぉぉぉぉ」


「そりゃあ、お前……」


「ガツガツしすぎなんだよ」


 グッ!

 流石に、互いに腹の分かる友人と言えど、今の言葉は効くッ!

 友人の癖に、言っていい事と言っちゃダメな事の区別がつかんのか!?


「じゃ、じゃあ、どうしたらモテるんだよ!?」


「うーん、あれよ、最近流行りのダンジョン冒険者とか始めたらどうよ」


「いいね。ダンジョン冒険者って出会いの場が多いらしいぞ?」


 え、マジ?

 ダンジョン冒険者とは、近年出現したダンジョンにある資源を採取する職業の事だ。

 魔物と戦わなければならなく、命の危機が常に纏わりついている危ない仕事なのだが、相応の報酬があり、基本的にC級冒険者でも年収は500万を昇ると言われる。

 そして、パーティーを組むこともあり、出会いも多い。

 命を託した仲間に、魅力を感じて結婚する事もしばしばあるらしい……。


「よし、ダンジョン冒険者始めるわ」


「マジ!?」


「決断早すぎワロタ、応援してるぞー」



 という訳で善は急げだ。

 俺は早速ダンジョンの受付に行った。。


「ダンジョン冒険者始めたいです!」


「身分証はありますか?」


 俺は高校3年の時に取得した運転免許証を見せた。


「はい、受けたわりました。では、こちらへいくつかの情報をご記載ください」


 そして、差し出された用紙に細かい情報を書き込んでいく。

 最後の情報を書き込み、受付嬢に戻すと、


「こちらが大麻さんの冒険者証です。紛失の際は、再発行料が必要となりますので、管理にはお気を付けください」


「わ、わかりました」


「では、冒険者初心者キャンペーンをご紹介します」


 もう一枚、紙を差し出してきた。


 そこには、冒険者がどうやって金を稼ぐか記載されていた。

 えっと、なになに?

 冒険者はダンジョン内で魔物を倒すことで得られる素材、或いはダンジョン内に点在する魔石を採取し、国へ売ることで金銭を得る?

 なるほどなるほど、こうやって冒険者は金を稼ぐんだな。

 そうだな……確かに金は要るよな。

 魅力のある男性は、余裕のある人と聞く。

 そして、余裕があるという事は金に余裕があるという事。


 ん?

 あ、良いこと思いついた。

 この初心者キャンペーンである程度稼ぎつつ、腕を磨いて、もっと自分のアピールが出来るようにすればいいのでは!?

 俺、天才かもしれない。

 

 


 なんてことから一年が経過しました。

 はい、えっと、結局モテませんでした。

 なんの成果も得られませんでしたッ!(ビシッ)


 まあ、うん、仕方がないっちゃ仕方がない。

 だってさ、魔物とかと戦うの楽しんだもん。

 俺には、意外にも才能があったらしくいつの間にかトントン拍子で階級が上がっていった。

 階級が上がってくのが楽しくなった俺は、より効率よく上がるための方法を調べたんだけど、ソロで潜る事が一番効率良いって知ったんだよね。

 つまりは、こういう事だ。

 パーティーで魔物を倒すよりも、ソロで魔物を倒した方が凄いじゃん!?って事だ。


 という訳で、一年間ボッチでダンジョンに潜り続けました。

 結果、S級冒険者になってました。

 ……あれ?なんだか、とても虚しい……。

 どうしてこうなった?


「す、凄いですよ、大麻さん!」


「そうですか……」


 興奮気味に、冒険者証をS級の物へ更新する受付嬢のお姉さん。

 ちょっと嬉しく思う自分も居るのだが、悲しく思う自分も居る。

 なにかを得る代わりに、なにかを失った気がして非常に悲しい……。


 ……さて、過去のことを後悔していても遅い。

 重要な事は未来だ。

 これからどうするか、だ。

 という訳で、俺は新しくS級冒険者の物となり煌びやかに輝く冒険者証を握りしめ、ダンジョンに潜ったのだった。

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