第3話

「青海!? 青海、青海ぃ!」


 朱熹の声に俺は茫然としてしまう。何が起こった? 空から落ちてきた拳銃。暴発で死んだ親友。そして俺がまたそれを放り投げたことで、またも暴発して死んだ親友。珊瑚。青海。何で? 何でだ?

 がふっと声も出せないで、たぶん胃か腸に当たったのだろう盲貫銃創は、青海の命をズンズンと奪って行く。それが見えるように血が広がって行った。青海、あおみと朱熹は叫んでいるが、青海は真っ青な顔をして何も言えないでいる。


 『必要悪』に親を殺され親戚を盥回しにされて来た俺には、この親友たちが何よりも大切だった。怒鳴られることも殴られることも無く、次はどうあの『必要悪』を虐げてやろうか。それを考えてげらげら笑うのは、俺達の娯楽だった。正直俺は、幼い頃に両親を亡くしているので『必要悪』に対する憎しみは少ない方だと思う。でもそうしているふりをしていれば、仲間に入れて貰える。それに暴力は嫌いじゃなかった。自分が振るわれる方だったからだろう。

 彼女に肉体的な暴力を与えるのは、大体俺が担当していた。一番背が高いし、今の両親は『必要悪』に子供を殺されているから俺にめいっぱいの食事も与えてくれた。だから体格は良く、ちっぽけな彼女の腹を蹴り上げるのは簡単な事だった。


 『必要悪』が何なのか、俺には分かっていなかったところが多かったと思う。ただし、発狂して授業中に窓から飛び降りたクラスメートなんかを見ていると、それは『ある』んだろうと思わせるのに十分だった。だから青海の提案にも乗った。僕達であいつを、粛清しよう。

 それでも律儀に毎日登校してくるのは、いっそ不気味だった。階段から突き飛ばしても、落とした鉛筆を拾う手を踏み付けても、彼女は何一つ動じなかった。俺達の方もそうしていると麻痺してくる。いっそ殺しても良いんじゃないか。一人ぐらい良いんじゃないか。だってこいつは『必要悪』。ああでも、必要だからこそなんだよなあと適当に考えていた。必要だから殺しちゃいけない。やっぱり俺には良く解らなかったけれど、適当に納得していた。


 その結果がこれなのか? 俺の所為で死んだ青海。もう唇が震えることもしていない。青海は死んだ。俺が銃を放ったから? 腰が抜けてへたり込む。わああっと朱熹が泣く。朱熹は青海が好きだったから。いつも明るい声で笑いながら、青海を追い掛けていた。小学校からの付き合いだと言うから、俺達の中では一番に付き合いが長いんじゃないだろうか。その朱熹は、銃を拾って自分の頭に当てて見せる。

 ぎょっとしたのは俺と萌葱だ。


「しゅ、朱熹、何して」

「青海がいないならもういらない」

「朱熹ちゃん?」

「青海が、青海がいないなら――」


 うわ言の様に言いながら、朱熹は――

 自分の頭を打ち抜いた。

 顔は、綺麗に残っていた。

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