第6話

「私の所為じゃないよ」


 ビルの上、真っ黒なワンピースと少し茶色の混じった髪を靡かせながら彼女――玄霞しずかは言った。隣に立つ男は黒いコート、背中には白で翼を描いている男が立っている。

 『ツバサ』――黒鳥霧玄くろとり・むげんは、妹が薄く微笑んで五つの死体を見下ろすのを、眺めていた。


「私は銃を落としただけ。後は勝手に起こった事故と自殺だよ。一応他殺もいるか。まあどうでも良いや、いい加減鬱陶しくなってきたところだったし、このまま高校も辞めよう。みんなホッとするよ、きっと」

「……俺が部屋にいない時はどうするつもりだ、玄霞」

「勉強は一人ででもできるよ。大体私、中学卒業したら兄さんのアシスタントやる予定だったんだから」

「俺の能力はお前より幾分強すぎる。巻き込まれるぞ、施設を脱出した時のように」

「二億四千万分の一の奇跡だったけ、悲劇だっけ。まあ良いじゃない、私は兄さんがいればそれで良いし。留守番だって慣れてるよ。この十年、兄さんが私の傍にいなかった方が多いんじゃないかな」

「痛いところを突く」

「私達同士なら能力は働かないんでしょう? 大丈夫だよきっと。兄さん世界中に部屋と女の人持ってるんでしょ」

「女は持ってない」

「じゃあ男?」

「お前な」

「冗談だよ。でもそう冗長にしていられないな。パトカーの音が近づいて来た。銃声におっとり刀が来たみたい」

「……とりあえずここからは帰るぞ。それからのことは、部屋で話そう」

「私は下着の変え二枚とワンピース一着で良いよ」

「だから」

「ふふふ」

「まったく……」


 十二年前、『ありえない悲劇』がとある研究所を襲った。

 被検体の半数、六人は死亡が確認された。

 二億四千万分の一の悲劇で、児増局前身黒白鳥機関は消滅した。

 だが研究は今も続いているらしい。

 それこそその、児増局で。

 ――今更自分達には関係ないか、と霧玄は息を吐く。

 そうして、足音軽くビルの屋上から外階段に向かって行く妹を眺める。

 あの組織で長兄は自分であり、末子は玄霞だった。

 間の十人、六人を差し引いた四人の居場所はまだ分からない。

 解らなくても良いだろう。

 この危なっかしい妹さえいれば、家族は十分だ。

 本当に、危なっかしい。

 放っておけない、可愛い妹。あくまで、霧玄にとっては。

 さあ、次はどこで誰を殺し合わせようか――。


「兄さん早く。スーパーの売り出しに間に合わなくなるよ」

「はいはい」


 ホルダーにちゃんと銃が収まっているのを確認してから、霧玄はその後ろをついて行った。


「そう言えばお父さんから連絡が来たよ」

「総理大臣から?」

「今すぐ出頭すれば悪いようにはしないって」

「ただの客じゃないか」

「そうだね。じゃあ私、官邸に張ってようか?」

「頼む」

「どきどきだね。初仕事が総理大臣を殺すことなんて」

「『細菌』――上手く使えよ。ボディーガードに殺意をばら撒いて来い」

「はーい。じゃあ兄さんは三つ目のアジトで待っててね。バターチキンカレー作るからその材料買っておいて。お願い」

「解った」

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黒白鳥の子 ぜろ @illness24

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