第7話

俺は、田中光輝、慶明大学附属志木高等学校、通称、慶明志木の3年だ。2年前、、俺は、両親から俺たち、80年前に、ここ、本崎地区に住んでいた人たちには、この世に、同じ顔を持つ人がいるって話を聞いた。でも、そのときの話では、これまで、その同じ顔のやつに会った人たちは命を落とすわけでもなく、重い病気にかかるわけでもなく、、特段、会ったからといって、何かが起こったわけでもないみたいだったんで、正直、だから、って感じだった。でも、美音が、幼馴染の美音が、、消えちまった。俺たち、近親者以外の記憶からも、記録からも。。今、思えば、この前、美音がK高との交流戦で、同じ顔のやつに会ったって言ってきたときに、もっと親身になって聴いてあげれば良かった。半年前に、俺は、油絵コンクールで、美音にそっくりの絵を観ている。。確か、K高の児島とかいうやつが描いた絵だ。そう言えば、2年前にも、美音は、K市で、鏡を見たみたいって。。全ての鍵は、K市、K高にあるんだ。


1.


 1人の青年が、K駅からK市営球場に向かっている。スタスタと、まるで怒っているように。服装はオレンジ色のポロシャツに白のパンツ。虹色のキャップを被り、ポロシャツの色に合わせたスニーカーを履いている。背中には、キャップと同じ虹色のリュックを背負っている。いまどきの青年としても、少し派手な恰好、、ではあるが。。


(今日は、慶明志木とK高との夏の甲子園埼玉予選決勝がある。俺は、初めて、K市営球場に来た。美音が鏡を見たって言ったのが、2年前のこの場所でのK高との交流戦の帰りだ。俺が、美音そっくりの油絵を観たのが、去年の12月、、作者は、K高の児島ってやつだ。で、1ヶ月前、美音が同じ顔の人間に会ったのが、この6月のK高との交流戦の帰りだ。K高にいるはずなんだ。美音と同じ顔を持つ人間が、そして、俺の。。。)


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(今日は、遂に、K高と慶明志木の埼玉予選決勝か。。勝てば、夏の甲子園、、か。。俺も出たかったな、、、まぁ、仕方がないんだけど。。せめて、思いっきり応援してやらないと、な。この2年、練習にも参加させてもらったし、、あ、そうだ!試合まで、まだ時間あるから、コンビニ寄って、チケットに代えとこう。。K市公会堂で小野リサさんのコンサートなんて、、きっと、そうあることじゃあないんだろうから、な。。鈴、喜ぶかな。。鈴、良かったな、消えなくて。。)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「健司、遂に、辿り着いたんだな。」

 正人が健司に声を掛けた。

「あぁ、正人。あと一つ勝てば、甲子園だ。」

 健司は、大きく頷きながら、答えた。

「いつものように、ベンチの上で、応援してるよ。」

「正人がこのグランドにいないのが、未だに、残念だが、な。」

 健司が残念そうに言った。

「・・・そう言うなよ。俺がいなくたって、K高野球部は、甲子園に出場できるだけのチームになっているよ。じゃあな、頑張れよ!」

 正人は、健司に大きな声で答えた。

「あぁ。お前の分も、な。。」


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(K高との試合、、、美音のそっくりさん、いや、この世界にいてはいけない、別の世界の美音、、そして俺、、探し出してやる。。そして、美音を取り戻すんだ!)


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(・・・打撃戦だな、、9回表が終わって、7対6の1点差か。。9回裏、慶明志木の攻撃を0に抑えれば、K高史上2回目の甲子園出場だ。。)

(カーン)

(ああ、いきなり、ヒットか。。ピッチャー、、ばててる、な。)

「おい、正人!いるんだろ!」

 竜司が正人に声を掛けた。

「え!監督?」

 正人は、びっくりして、聞き返した。

「おい、お前、このままで、、いいのか?高校3年間、、公式戦のマウンドで1球も投げないで、、本当に、、後悔は、、ないのか?」

 竜司が正人に語り掛けた。

「・・・そ、そんなこと、言われても。。」

 正人は、おずおずと答えた。

「お前の出場選手登録は、済ませてある、、2年前から、な。ユニホームはベンチ裏にある。背番号はもちろん“1”だ。野球部部員全員の総意で、な。早く着替えて、肩、作れ。」

 竜司は、命令口調で、しかし、優しく、正人に指示した。

「え?」

「慶明志木は、同点を狙って、バントをしてくるだろう。。その後、うちは、敬遠で、塁を埋める。その間に、肩、作れ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『ピッチャー北山君に代わり、田中君、背番号1。』

「・・・正人、、待ってたぞ。このときを。。」

「・・・健司、、ほんとに、いいのか?」

「馬鹿!もう、マウンドに登っちまってるだろうが。。」


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『ピッチャー北山君に代わり、田中君、背番号1。』

「何だって!田中だって。。」

(あいつ、、あいつは、俺じゃあないか、この世界のもう一人の。。)


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「正人、さあ、来い!」

「よ、よし!」

(シュ、パシン!)

「ストライク ワン」

(シュ、パシン!)

「ストライク ツーストライク」

(思った以上にいいストレートだ。。さあ、正人、3球目は、、何を投げる。。)

(・・・スプリットだ!)

(シュ、ストン。。)

「ストライク バッターアウト、、、ゲームセット!」


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「・・・さすが、俺が見込んだだけのことはある、な。最後のスプリットなんて、すげー落ち方したもんな。正人、いつの間に、あんな凄いボール、覚えたんだ?」

 試合が終わった帰り道、、健司が正人に話し掛けた。

「・・・ま、まぁ、、な。。」

「・・・なぁ、正人、甲子園、、一緒に、行ってくれるんだろ?甲子園で、、投げて、、くれるんだろ?」

 健司は、正人に懇願するかのような目で、話した。

「いや、それは。。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・おい!会いたかったよ。」

 正人と健司の前に、派手な服装をした青年が飛び出してきて、2人の行く手を阻んだ。

「お、お前。。」

 正人は、目を見開いて、言った。

「田中、、、だよな。。下の名前はなんて言うんだ?」

 光輝は、正人に問い掛けた。

「正人、、、田中、、正人だ。。」

 正人は、おずおずと答えた。

「俺は、田中光輝だ。おい、美音、山田美音をどこにやったんだ?」

「・・・・・・・・」

「ちっ、力ずくででも、答えてもらうぜ!」

 光輝は、正人の方に、走り出した。

「ちっ、こっちがお前を殺してやるよ!掛かって来い!」

 正人も光輝に向かって、走り出した。


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<C国ミサイル発射操作室>

「チフン、ミサイル、発射だ!」

(バ、バカ、この角度、浅過ぎだ、、これじゃあ、、、もっと、高くしとかないと。。)

(ふー。。危なかった。。あの角度じゃあ、東京直撃だ。。まぁ、直した角度でも、日本海沿岸に落下しただろうが、な。。まぁ、海上なら、何とか誤魔化せるんじゃないかな。。)


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(ブィー、ブィー、ブィー、ブィー、ブィー、)


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(え?)

「タ、タイム。。」

「どうした?光輝。」

「・・・一応、、確認だが、な。。。今、甲子園夏の大会の埼玉予選決勝、9回裏、1対0で、俺たち、慶明志木が勝っている。2アウト、1塁、バッターは、K高四番古賀健司、カウントは、3ボール2ストライク、、で、良いんだよ、な。」

「あぁ、光輝、、お前、暑さで、意識でも飛んだのか?田中光輝君、あとワンアウトで、甲子園だ。で、何を投げるよ。。得意のインハイストレートか?それとも、カーブ。。」

「スプリットだ!」

「え?お前、持ち球の中に、ないだろ、スプリット。」

「いや、、いける。。」

「わ、分かった。。」

(シュッ)

(カーン!)

(え?)


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「す、すまん。。」

「・・・まぁ、仕方がないさ。。ここまで来れたのは、お前のお陰では、、あるんだから。。連投で疲れていたんだろうよ。。抜けたスプリット、、古賀が見逃す、わきゃない。。残念だけど、な、甲子園、、行けなくて。。」


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(ブィー、ブィー、ブィー、ブィー、ブィー、)

(え?き、消えた。。田中、、正人が、、この世界のもう一人の俺が。。。)

「お、おい!お前、今、ここにいた、田中正人、、どこに行ったんだ?」

 光輝は、健司に慌てて話し掛けた。

「誰だ?お前、、田中正人って誰だ?」

 健司は、光輝に怪訝そうに答えた。

「お前とさっきの試合でバッテリー組んでた、だろ!」

 光輝は、健司に怒鳴るように、話した。

「俺がバッテリー組んでいたのは、こいつ、北山康太だぜ!あの慶明相手に、埼玉予選決勝で、完投した、技巧派のエースよ。。」

 健司は、康太を指さしながら、答えた。

「そんな。。」


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 光輝は、自宅に急いだ。今日の出来事を父、光司に相談するために。。

「親父、入るぞ。」

 光輝は、父、光司の部屋のドアをノックすることもなく、開けた。

「光輝か。。」

 父、光司が驚いた様子もなく、振り返った。

「親父、田中正人が、、消えた。」

「田中、、正人?」

「あぁ、親父の説では、別の世界からこっちの世界に来ちまった奴らの末裔、、俺の、、もう一人の、、俺だ。」

 光輝は、自分の頭を整理するように、ゆっくりと、言った。

「会ったのか?いつ?」

「今日、夏の甲子園埼玉県予選決勝、、時間は、昼12時頃だ。決勝は、慶明志木とK高。この試合に、美音と俺のそっくりさんが来ていると思って、、」

「・・・今日昼12時に、C国のミサイルが新潟県沖合50キロに着弾した。両政府は、お首にも出さないが、、核弾頭が使われたはずだ。」

 光司は、きっぱりとした口調で言った。

「え!嘘だろ!」

「・・・うちの大学からも原子力関連の研究をしているやつらが、急遽、駆り出された。俺の友人もその中にいる。そいつからの情報によると、全員、厚木基地に集められ、自衛隊機で、新潟に向かった。防護服を着て、放射能の測定をしているそうだ。」

「・・そ、そんな。。」

「・・・きっと、80年前に、本崎地区で起こったことと同じことが起こったんだ。その衝撃波で、あいつら、、俺たちのそっくりさんは、、元の世界に戻った。。」

 光司は、淡々とした口調で言った。

「でも、+αが、、“+α”はなんだったんだ?」

 光輝が問い掛けた。

「それは、これから検証する必要があるが、、もしかしたら、彼らのこっちの世界での存在は、弱いから、その“+α”がなくても、核の衝撃波だけで、戻ったのかもしれない。」


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 1人の青年が青年の父に会うために、父の部屋を訪ねている。青年の名は、田中光輝、父の名は、田中光司。

「・・・父さん、いるんだろ。入るぞ。。。父さん、、どんな感じ、、なんだ。。。」

 光輝は、おずおずと父、光司の部屋の中に入っていった。

「・・・K市での生活が、、夢の出来事のように、、父さんの中にある、、一方で、U市、パリでの生活の記憶も明確に、、ある。。」

 誠也の記憶を持つ父、光司は、おずおずと話し始めた。

「・・・俺も一緒だ。母さんは?」

「母さんも同じだそうだ。。」

「・・・そうか?で、山田さんとこは、、鈴は、、鈴はどうなんだ。。」

「・・・さっき、山田さんに確認したよ。ご夫婦は、俺たちと同じだ。ただ、、」

「・・・ただ、、、」

「美音さんには、、K市の鈴としての記憶が、、ない。。」

 誠也の記憶を持つ光司は、きっぱりと言った。

「そ、そんな。。ど、どういうことなんだ、父さん!」

 正人の記憶を持つ光輝は、大きな声で父、光司に問い掛けた。

「・・・今日昼12時に、C国のミサイルが新潟県沖合50キロに着弾した。両政府は、お首にも出さないが、、核弾頭が使われたはずだ。」

「え!嘘だろ!」

「・・・うちの大学からも原子力関連の研究をしているやつらが、急遽、駆り出された。俺の友人もその中にいる。そいつからの情報によると、全員、厚木基地に集められ、自衛隊機で、新潟に向かった。防護服を着て、放射能の測定をしているそうだ。」

「・・そ、そんな。。」

「・・・きっと、俺たち、ここで言う、“俺たち”は、父さんは誠也、お前は正人って名乗っていた俺たちのことだ。俺たちがいた世界でも同じことが起こった。そして、俺たちは、その衝撃波で、元の世界に戻った。。」

 誠也の記憶を持つ光司は、確信に満ちた声で話した。

「じゃあ、、前の世界で、同じ顔の人に出会って消えるって。。」

「・・・明日から早速調べるが、、多分、元の世界の自分に、戻る。。合体するんだろう。。」

「・・・じゃあ、鈴がこっちの美音さんに合体しなかったのは、、あぁ、もしかして、、俺が、あっちの世界の美音さんを、、美音さんを消しちゃったから、、なのか?何てことしちゃったんだ、俺。。鈴がこっちの世界で戻るべき体に、あっちの世界の美音さんを入れちゃったってことなのか?」

 正人の記憶を持つ光輝は、肩を落として、呟いた。

「・・・その可能性は、、、ある、、な。。すまなかったな、、正人。。」

 誠也の記憶を持つ光司は、力なく、、呟いた。


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 黒沢将司が汗を飛ばしながら、1球、1球、丹念に、放っている。まるで、横にいる誰かと競争をしているように。。

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)


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「将司、もう、完全復活、、だな。」

「あぁ、、宏、、この2年間、投げ込みに付き合ってくれて、ありがと、な。」

「水臭いことを言うな!お前と俺は、永遠のバッテリーなんだから。。で、将司、どうするんだ?球界復帰?前は、NPBのどっかの球団になんて話していたけど。。」

「・・・あぁ、あれか、、止めたよ。やっぱ、メジャーに挑戦してみるよ!」

 将司は、大きな声で言った。

「将司、、俺の知っている将司は、、そう言ってくれると思っていたよ!」

 宏は、嬉しそうに頷いた。

「・・・俺、この2年間の間に、、だれか、生きのいいピッチャーと隣で投げ合ってたような気がしてさ、、そいつと投げ合っているうちに、もう一度、俺の心に、、心に灯が、な、灯が付いちまったみたいなんだ。。そんなやつ、周りを見渡しても誰もいないんだけどな。。」

「・・・俺も、、俺のこのミットがそいつの球を、、覚えてるよ。。きっと、いたんだよ、そいつ。。」 


2.


 1人の青年がスマホを片手に歩いている。服装は、白のポロシャツに、ベージュのパンツ。黒のキャップに黒のスニーカー、、誠実そうな人柄を感じさせる落ち着いた服装だ。


(・・・この辺りなんだけどな。えーと、上尾市上町1丁目のっと、、小田さん、、小田さん、、あ、あった。。)

(ピンポーン)

『はい?どちら様ですか?』

「あ、あの、田中と申します。田中光司の息子の光輝です。あの、、小田さん、U市の本崎に住んでいた小田さん、、ですよね。。」

『光ちゃんの息子さんか、、、懐かしいな。。今、開けるよ。』


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「君が光ちゃんの息子さん?」

「はい。田中光輝といいます。」

「で、何でうちに?」

「あの、、あの話を少し調べていまして。」

「あの話って?」

「同じ顔の、、」

「・・・あぁ、あの話、、ね、、俺も昔、会ったけどね。まぁ、中に入りなさい。」


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「で、あの話の何が聞きたいの?」

「僕、父と一緒に、あのことが何で起こったのかを調べているんです。で、昔の話で恐縮なんですが、80年前に起こったことで、何か、おかしなことがなかったかってことを調べていて。」

「・・・そりゃあ、雲を掴むような話、、だな。。そもそも、80年前、俺は、まだ、生まれてないし。。まぁ、親父がいるから、親父を呼んでくるけど。。」


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「爺さん、どうだい?昔のことだけど、何か覚えてること、、あるかい?」

「・・・・儂は、そんとき、3歳だ。何かあったとしても、、覚えておらんよ。」

「・・・そうか、、そうだよな。。光輝君、、そういうことだから、、お役に立てなくて、すまんね。」

「・・あ、いえ。。」

「あ!そう言えば、、、」

「どうした?何か思い出したのか?親父。」

「・・ほれ、地元の老人会の細野さん、細野さんが変なことを言っとったんだ。」

「親父、細野さんって、あの人は、ずっと、上尾に住んでんだろ。聞いてんのは、本崎地区のことだぜ。」

「・・あ、いや、だから、、細野さんは、儂の7つ上だから当時10歳だ。儂よりも当時のことを覚えている。その細野さんが昔、言っとったんだ。南の空に火球が見えたって。」

「火球?焼夷弾じゃあないのか?」

「あの、、その細野さんにお会いすることはできますか?」

「あぁ、近所だから、、今から行ってみるか?」

「はい、お願いします!」


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「あぁ、細野さん、連れてきたよ。田中光輝君、儂の同郷の家のお子さんだ。」

「初めまして。田中光輝です。」

「あぁ、細野正治です。で、火球のことが知りたいって。」

「はい。細野さん、細野さんがその火球を見た日って覚えていますか?」

「忘れた、と言いたいとこじゃがね、、忘れられん日になってしもうたんで、な。8月6日、広島に原爆が落とされた日だよ。」

「・・・原爆が落ちた日か。。。で、その火球は、どっちの方からどっちの方に?」

「ちょうど、ほら、あの木があるだろ?あの上の方から、ほら、あっちの赤い屋根の家、あの家の方に、な。」

「大きさは?」

「いや、それは遠かったからよく分からんが、でも、まだ、朝の内でも見えたんだから、それなりに光っていた、ってことだと思うが、な。」

「あ、ありがとうございます。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(火球か。。上尾で南の空に見えて、、、そうか、、本崎地区の南側の場所で、北の空に見えたんなら、その火球は、本崎地区に落ちた可能性もあるってことになる、な。)


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(前川地区、、この辺りで、っと、、どうやって調べようかな。。あ!公民館!老人クラブみたいなものやっているんじゃないか?)

(えーと、、GoogleMAPで、っと。。ああ、ここだ。)


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「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」

「はい?どちら様ですか?」

「あの、僕、慶明大学附属志木高校の学生なんですが、80年前にこの辺りに落ちた火球について調べていまして。。この辺りに住んでいらっしゃった方で、85歳以上の方にお話しを伺えればと思っていまして。急にお邪魔して申し訳ないのですが。。あ、これ、学生手帳です。。学校の、、課題研究なんです。。」

「はぁ、、80年前の火球、、ですか?何のことか分かりませんが、ちょっと、そちらにお掛けになってお待ち下さいね。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「田中さん、どうぞ、こちらに。ちょうど、老人会でゲートボールをしている方の中に、一応、お住まいとご年齢の条件に合うお爺ちゃんがいたんで、、でも、火球のこと、ご存じかどうかは分かりませんよ。」

「あ、はい。もちろん、話を伺えればと思っているだけですんで。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「斎藤さん、聞こえる?この方が、田中さん。斎藤さんに聞きたいことがあるんですって。」

「あ、田中さん、斎藤さん、声、聞き取りにくいから、大きな声で話して上げて下さいね。」

「あ、はい。斎藤さん、初めまして。田中と言います。斎藤さんにお聞きしたいことがあるんです。」

「はい?」

「斎藤さん、随分と昔の話で申し訳ないのですが、80年前、8月6日午前中に、火球のようなもの、見ませんでしたか?」

「・・・80年前、、、、8月6日、、、、、火球、、、、、あぁ、、あれか、、」

「え!見たんですか?」

「・・・あぁ、見たよ。。ほら、ちょうど、、そうさな、、あのビルの上の方の空辺りから、、、ほら、あそこにマンションあるだろ、、、あの辺りに方に、、流れていった。。」

「本当ですか!ありがとうございます!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(えーと、地図で確認すると、、、うん、その火球が本崎地区に落ちた可能性は、、ある、な。よし、本崎地区に今でも住んでいる人たちに、もう一度、確認だ。)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(えーと、、本崎地区に当時から住んでいて、未だにここにいるのは、、清田さんに、室田さんに、宮田さんか、、でも、親父の資料によると85歳以上の人っていないんだよな。。ここが清田さんのお宅か。。)

(ピンポーン)

『はい、どちら様ですか?』

「あ、あの、田中と申します。田中光司の息子の光輝です。」

『光ちゃんの息子さん?1年ぐらい前に光ちゃんも来たけど。。まぁ、、今、開けるよ。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「で、また、あの話?8月6日に起こった何かって。。」

「はい。。」

「そのとき、俺、光ちゃんにも話したけど、うち、爺さん、婆さんもう亡くなったんで、その頃の話ができる人いないよって。。」

「はい、それは父から聞いています。今日、お邪魔したのは、その後の調べで、この辺りに火球、、まぁ、多分、隕石なんでしょうけど、、その火球が8月6日にこの辺りに落ちた可能性があって、、そんな話をお聞きになったことはないかなって思って。。」

「・・・うーん、、火球、、ね。。俺ん家じゃあ、そんな話はなかったけど、、でも、宮田さんのところなら、、宮田さんとこは、本崎地区の神事もしていたから、、もちろん、農家と兼業だったけどね。。でもな、宮田のおっさん、変わりものだからな。。まぁ、電話してみるよ、本崎地区に元々住んでいる俺たちの電話には出るみたいだから。。。いたら、この足で行ってみたらいい。」

「ありがとうございます。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「え?呼び鈴、、ない。。」

「あのー、、、田中です。宮田さん、、いらっしゃいますか?」

「・・・開いてるよ。。」

「あぁ、お邪魔します。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あの、、田中光輝と申します。田中光司の息子です。」

「あぁ、それは、さっき、電話で聞いた。で、何の用?親父さんには、ちょっと前に会ったけど、、」

「あの、、宮田さんは、長く、この地区の神事もされていたって聞いています。で、何か、祭ってあるものとかって、ないですか?多分、隕石のようなものだと思うんですけど。。」

「・・・・あぁ、光司、、、お前の親父さんも、そう聞いてくれれば良かったのに、な。。光司、80年前の8月6日に変わったことはなかったかって聞くもんだから、、俺は、今年69、親父もお袋もいない、、生まれていないときの話なんてできないって言ったんだ。。隕石みたいなもんだろ、あるよ。。一緒に来な。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・ほら、この祭壇の奥のケースの中、、俺も一度だけ見たことがある。3センチぐらいの隕石だ。いつのもんか何てことは親父に聞かなかったが、な。」

「あぁ、ほんとだ。。隕石だ。。これ、改めて、お借りしてもいいですか?少し調べてみたいことがあって。」

「あぁ、俺は、親父と違って、神事には全く興味がないからな、、いいよ。。親父がいたら、祟りがとか言い出すんだろうけど、よ。。」

「ありがとうございます!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「光輝、よく見つけたな。こいつを分析したら、何か分かるかもしれん。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「で、親父、どうだった?」

「分析したところ、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウムの合金だ。この試料の磁力から逆算して、80年前の磁力、、本崎地区を包み込んだ磁力を計算したところだ。」

「で、これからどうするの?」

「再現してみようと、、思ってる。」

「何を?」

「もう一つの世界への通り道を。。」


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「・・・一気にいけよ。」

「・・・え。。」

「・・・お前が持ってるナイフじゃあ、一気に俺のことを突かないと、俺を殺せやしないぜ。」

「・・・・・・・・」

「・・・昨日、俺がお前に電話したとき、、俺は、お前が鈴じゃあないってことは直ぐに分かった。お前には鈴としての記憶がなかったから、な。で、考えてみた。お前は誰なんだ、と。。電話口からも伝わる敵意に満ちた声、、声にならない想い。。お前、あっちの世界の美音さんなんだろ。俺が消しちまった。。で、学校の屋上で会いたいって。。俺は手鏡持参で、お前が来るのを待っていた。お前の手にある、、それ、果物ナイフ、、だろ。。」

「・・・・・・・・」

「・・・なぁ、いつ気付いたんだ?俺があの世界の光輝のそっくりさんだってことに。。」

「・・・埼玉県予選決勝で、最後の1球を投げる前、、私、スタンドから見ていた。あんたの目が、目が変わるのを。。あたしの首を絞めたときの、、、あんたの目に。。」

「・・・そうか。。でも、お前、何で、別の世界に飛ばされたって分かったんだ?あっちの世界とこっちの世界って、似ているんだろ?学校だって、慶明志木だし、、」

「・・・あたしがいた世界では、光輝は野球なんかしていなかった。光輝は、サッカー部だったから。。」

「・・・そうか。。そりゃあ、悪かったな。。そういうところは、、違いがあるんだ、、な。。」

「・・・・・・」

「・・・考えてみれば、親父の仮説、、まぁ、大体、合っていたんだけど、な、、対策が、な、、間違っていたんだ。あの世界の自分から逃げるんじゃなくて、会えば良かったんだよ、単純に。。そうしたら、元の世界に戻れた、、それだけなのに。。あのとき、あの世界でお前に会っちまった鈴を守るために、俺は、あの世界でお前を消しちまった。俺がお前と鈴を正真正銘の“漂流者”にしちまったんだな。まぁ、今更、赦してもらえるとも思えないんで、な。一気やってくれよな。」

「・・・・・・」

(がさがさ)

「・・・あぁ、そうだった。これ、やるよ。小野リサのコンサートチケット。あっちの世界で、鈴と一緒に行こうと思って買ったんだ。こういうのも、一緒にこっちの世界について来るんだな。。鈴、小野リサ、好きだったから。。お前も好きなら。。」

「・・・・・」

(カラーン)

「・・・もう、、いいよ。。あんたをここで殺したところで、、わたし、、あっちの世界に戻れるわけじゃあないんだし。。もう、、いいよ。。ここで、、生きることにするよ、、あたし。。」


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「光輝、お前と俺の最初の共同研究、、できたな。。」

「あぁ。」

「いいか、、確認していくぞ。。あの日、80年前に本崎地区で起こったことを。。」

「あぁ。」

「まず、大前提として、パラレルワールドは、、存在する。。世界は幾重にも並列して存在している。そして、その世界は今も生み出されている。。。そうだな。」

「あぁ。」

「類似したパラレルワールドは、一定の条件下で、相互に扉が開く。。その条件は、核による衝撃波と磁場。。」

「あぁ、そうとも。。1945年8月6日、、この世界の日本の広島に原爆が投下された日、、本崎地区には強い磁力を持つ隕石が落ちた。この2つの力が、もう一つの世界への扉を開けた。」

「・・・もう一つの世界でも、同じことが起こっていた。そして、あっちの世界の本崎地区の人たちは、こっちの世界のK市に飛ばされた。」

「さぁ、光輝、二つの世界を繋ぐマシンを作るぞ。」

「・・・できるのかな。。」

「・・・分からんよ。でもな、できると信じて、、やるんだ。。それが、、科学だ。。」

「・・・あぁ、そうだな。。親父、俺、頑張るよ。。美音を取り戻さないと。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「光輝、さあ、このパラレルワールドへの扉発生装置を使って実験だ。」

「あぁ、でも、最初の実験で、三毛猫なんか使って大丈夫かな?動物愛護団体に訴えられない?」

「・・・まぁ、、虐待ってわけじゃあないから、、、大丈夫、、だろ。。それより、何らかの変化、、例えば、三毛猫が2匹になるとか、、だな、、そんな変化があったときに、、三毛の柄で、同じ猫かどうかが一目瞭然だからな、、今回は、大目に見てもらおう。。さあ、80年前に、本崎地区を包み込んだ衝撃波と磁場を再現するぞ!実験の時刻は、80年前と同じ、午前8時30分だ。」

「・・・・何も、、起こらない、、な。。」

「・・・・ああ。ちょっと、条件変えて、、みるか。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・あれ!今、一瞬、三毛猫、2匹にならなかったか!」

「あぁ、もう一度、やってみよう!」

「あ!やっぱり、そして、、消えた。。あぁ、、もしかして、、そういうこと、、か?親父、曽爺さんの日記、もう一度、見せてくれ!」

「ん?あぁ、、これか?」

『昭和二十年八月六日

今日、起こったことを、私は生涯忘れることはできないだろう。昭和二十年八月六日朝、、朝っぱらから、米軍の爆弾が落ちた。で、目を開けると、そこには、もう一人の俺がいた。そいつと目が合って、数秒後に、そいつは、私の目の前から消えた。そいつは、確かに、私だった。何たって、今日の私の服装、髪型、更には、今朝、髭剃りのときに付けた頬のカミソリ傷まで一緒だったんだから。後に、この一帯の人たちにも聞いてみた。皆、同じ体験をしていた。もう一人の自分との遭遇。。まぁ、こんな話を体験していない誰かに話したところで、気がふれたと思われるだけなんだろが、な。』

『昭和二十年八月三十日

また、会った。もう一人の私に。。。山田さんも小田さんも、だ。三人でリアカーに野菜やらを乗せて、中山道から新宿に出て、闇市で、売って。その帰り、、そいつらは、俺たちの右手から、K街道に出るために、俺たちのリアカーを横切って行った。今度のそっくりさんの服装は、私が昨日着ていたものと同じだった。。一体、何が起こっているんだ。』

「・・・やっぱり、やっぱりそうだ。」

「光輝、何がやっぱりそうなんだ?」

「親父、これまでの俺たちの前提は、こっちとあっちの世界で同じこと、、核爆弾の衝撃波と隕石による磁場が発生し、あっちの世界からこっちの世界に、あっちの世界の本崎地区の人たちが飛ばされた、、だよな。」

「あぁ、そうだ。」

「・・・そうじゃあ、なかったんだよ。」

「え?」

「・・・あっちの世界でも、こっちの世界でも同じことが起こったんだ。但し、起こったことは、あっちの俺たちが飛ばされたんじゃなくて、あっちとこっちの本崎地区の人たちの分身が相互に飛ばされたんだ!で、時間だけが少しだけズレていた。8月6日に曽爺さんが会った同じ顔の人間、これは、自分の分身がこっちの世界に舞い戻ってきたんだ。ほら、ここ、曽爺さんの日記の、、“今朝、髭剃りのときに付けた頬のカミソリ傷まで一緒だった”って文章、、頬のカミソリ傷まで一緒って、のは、さすがに、あっちの曽爺さんじゃあなくて、こっちの曽爺さんなんじゃないか!で、K市の同じ顔の人間は、あっちの世界からこっちの世界に飛ばされた、あっちの世界の本崎地区の人たちの分身なんだ。多分、2つの世界を繋ぐ道で、それぞれの分身はぶつかりあった、、で、こっちの発生時刻が少しだけ遅かったんで、2つの分身は、ともにこっちの世界に来たんだ。一つは、U村本崎地区に、もう一つは、K村に、、U村本崎地区に舞い降りた分身は、本体と出会って、直ぐに消えた、、本体に戻ったんだ、、8月6日の話だ。で、K村に舞い降りた分身は、俺たちこっちの本体に出会う度に消えた。。多分、あっちの世界の本体に戻るんだ。。」


////////////////////


「父さん、明日からの実験用の三毛猫、なんで、2匹にしたんだ?」

「・・・1匹しか用意しとらんよ。。」

「いや、でもほら、、あれ?1匹だ。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・あ!また、2匹に!そして、、消えた。」

「あ!あぁ、、、もしかして、、あぁ、、そういうこと、、か?」


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「さぁ、もう一度、確認していくぞ。。あの日、80年前に本崎地区で起こったことを。。」

「あぁ。」

「まず、大前提として、パラレルワールドは、、存在する。。世界は幾重にも並列して存在している。そして、その世界は今も生み出されている。そうだな。」

「あぁ。」

「類似したパラレルワールドは、一定の条件下で、相互に扉が開く。。その条件は、核による衝撃波と磁場。。」

「あぁ、そうとも。。1945年8月6日、、この世界の日本の広島に原爆が投下された日、、本崎地区には強い磁力を持つ隕石が落ちた。この2つの力が、もう一つの世界への扉を開けた。」

「・・・もう一つの世界でも、同じことが起こっていた。そして、あっちの世界の本崎地区の人たちは、こっちの世界に飛ばされた。ここまでは、1年前に分かっていたことだ。で、」

「・・・そう、、但し、飛ばされたのは、それぞれの分身だった。。違いは、僅かに時間がズレていたこと。」

「・・・こっちの世界で起こったのは、もう一つの世界で起こった時間より僅かに遅れていた。」

「・・・そのことが不幸を招いたんだ。こっちの世界の俺たちの分身とあっちの世界の俺たちの分身がパラレルワールドの通り道で衝突したのは、こっちの世界の出口の近く、、、こっちの俺たちの分身は、俺たちの世界に舞い戻り、本崎地区に出現した。爺さんたちが、8月6日に見た同じ顔を持つ人たちだ。」

「・・・あっちの世界の俺たちの分身は、進路がズレて、約50キロ西のK村に出現した。8月30日に爺さんたちが見た同じ顔を持つ人たちだ。」

「・・・同じ世界に同じ人間は本来存在してはならない。。だから、この世界に飛ばされた分身がこの世界の自分に会うと消滅してしまうんだ。」

「・・・例外が、ただ一人、、山田美音、、こっちの世界の山田美音をあっちの世界の田中光輝の分身、、正人だな、、正人が消した。」

「・・・で、あっちの世界の山田美音、、鈴、、だな、、鈴は、この世界に存在し続け、行き場を失ったこっちの世界の山田美音は、あっちの世界に飛ばされた。」

「さぁ、光輝、2つの世界を繋ぐマシンをブラッシュ・アップするぞ!パラレルワールド間の移動を制御できるようにしないと。。」

「よし、もう一息だ!」


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 1人の青年がK市公会堂の前に佇んでいる。青年は、今日のこの公会堂の主役が出てくるのを待っている。

「皆さん、こんにちは!会田伊那です。今日は、私の初めてのコンサートです。是非、楽しんで下さい。では、最初の1曲は、私が尊敬し、目標にしている、小野リサさんのナンバーから、「おいしい水」、、お聴き下さい。」

(・・・あぁ、緊張する。。声、、出るかしら。。え?誰かが一緒に歌ってくれているみたい。。)


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「伊那ちゃん、お疲れ!今日のコンサート、良かったよ!また、一緒にやろうね、コンサート!」

「あ、ありがとうございます!こちらこそ、宜しくお願いします!」


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(さ、さすがに、疲れたから、早く、家に帰ろう。。)

「おい!鈴。」

「え?」

「探したぞ!鈴。お前、、住民票、移さずに、引っ越しているし、、名前も変えたろ。。途方に暮れた俺の耳に入ってきた噂、、K市で路上ライブをしている、会田伊那という名のボサノヴァ歌手、、ボサノヴァの軽快な音楽に鈴のような歌声とそこはかとなく醸し出される哀愁、、、俺が探している山田鈴だと確信したよ。」

「・・・正人、、なの?」

「残念だが、俺は、正人じゃあない。光輝だ。」

「光輝?」

「正人がこっちの世界で改名する前の名前だろ。」

「・・・え!じゃあ、、」

「そうだ。俺が田中光輝。こっちの世界での、、な。なぁ、鈴さん、、あの日、正人が消えちまった日、お前のとこ、何が起こったんだ?」

「・・・あの日、、夏の甲子園大会埼玉予選決勝の日、、試合が終わって、いつも正人と待ち合わせるマックに行った。。でも、いつになっても、正人は来なかった。携帯も、LINEも、っていうか、登録自体が消えていた。。家に帰ると、お父さんもお母さんもいなくて、、正人の家は、空き地になっていて、、警察に行ったら、、お父さんとお母さんは、元々、いないことになっていた。私は、孤児院で生まれたことになっていた。。それからは、、、あそこ、、あの家には、お父さんとお母さんとの思い出があり過ぎて、、正人とも。。で、引っ越しすることにして、、でも、家はそのままにした。。お父さんとお母さんが返ってくるかもしれないから、、それと、正人も。。で、、名前も変えて、、独りで、、独りぼっちで、、生きることにした。。ここ、K市で、路上ライブを始めて、、去年、今の事務所にスカウトされて、、今日が、初めてのコンサート、、初めてのコンサートはやっぱり、K市で、って思って。。」

「・・・そうか、、大変だったんだな。。なぁ、俺の親父の研究室に一緒に来てくれないか?試したいことがあるんだ。」

「え、、でも。。」

「お前の名前、、会田伊那、、“あいたいな”、、会いたいんだろ、田中正人に、、会わせてやるよ、、多分だけど、、な。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「親父、連れてきたよ。山田鈴さん、、あっちの世界の美音だ。」

「そうか。鈴さん、、私は、光輝の父親の田中光司です。きっと、混乱しているんだろうね。無理もない。。まぁ、話しても、なかなか理解してもらえるとも思えないんで、ね、論より証拠だ。。。明日、8月6日朝8時30分に、再現する。パラレルワールドへの扉を開ける。。鈴さん、鈴さんは、今日は、この実験室横の仮眠室でゆっくりしてもらって、、明日、光輝と一緒に、あっちの世界に行ってもらう。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「さぁ、この椅子に腰かけて、光輝も、だ。そう。。じゃあ、光輝、頼んだぞ、鈴さんをちゃんと連れて行ってやれよ。何かあったら、そのボタンを押せば、父さんがこっちに連れ戻すからな。」

「あ、あの。。」

「論より証拠って言った、ろ。。」

(ウィーン、、、)


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「・・・やっぱり来たか!正人。」

「・・・光輝か!」

「あぁ、来ると思っていたよ。俺がお前なら、あっちの世界で、きっと同じことをする、そう信じていたよ。7年振りか、、会うのは、、お互い、老けたな。。」

「・・・まぁ、、な。」

「お前がこっちの世界に置いていった、、忘れ物、、届けに来たぜ。。ほら、鈴さん、行け!」

「え?」


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「・・・俺がそっちの世界から誤ってこっちの世界に飛ばしちまった、そっちの世界の山田美音さん、、返すよ。。すまなかったな。」

「仕方がないさ。分からなかったんだから。。正人、ありがとう、な、美音をここまで連れて来てくれて。」

「それはこっちのセリフだ。ありがとう、光輝。」

「じゃあ、整理整頓も付いたところで、、美音、一緒に帰ろうな、俺たちの世界に。正人、鈴さん、元気で、な。また、会いたい気持ちもないわけじゃあないが、、会わない方がお互いのためだから、、壊すんだろ、帰ったら、、、あの機械。」

「あぁ、研究データと一緒に、永遠に封印だ。お前が考えている通りに。。ただ、“同じ顔の人間がいたら、会いに行け”って、メッセージは残そうと思っている。。」

「は、は、は。。やっぱり、な。。俺も、だよ。俺たち、最高に気が合うな。。当たり前だけど。。じゃあな、達者で、な。」

「あぁ、光輝も、美音さんも。。」


(エピローグ)


「・・・鈴、、大丈夫か?」

「え、えぇ。。」

「・・・鈴、左手首を見せてくれないか?」

「あ、えぇ。。」

「・・・やっぱり、あった。。星の入れ墨。。やっと、帰ってこれたんだね、鈴、、いや、こっちの世界じゃあ、正真正銘の山田美音だ。美音、お帰り。こっちの美音もこっちの世界の立派なボサノヴァ歌手だ。あっちの美音さんもこっちの世界で、独りぼっちになって、いい経験をしたんだろう、な。。ほんとに、いい歌を歌っているよ。」

「・・・うん、、知ってる、、ただいま、、、光輝。。ねぇ、、光輝、、じゃなくて、正人って呼ぶけど、、野球、、辞めたんだ。。」

「・・・え、、あぁ、、こっちの世界に来て、、、野球は、あっちの正人とこっちの光輝の夢ではあったけど、な、、こっちの世界に鈴を連れてくることとこっちの世界の美音さんをあっちの世界に戻してやることが、俺の実現をしないといけない課題になったんで、な。。2対4、、、あっちの世界の光輝分を入れてな、、多数決で、野球じゃなくて、物理工学を取った。。。もちろん、最高に幸せ、、だけどな。。」

「・・・ありがとね、正人、、そして、、光輝。。」

「・・・当たり前のことをしただけだ、、気にするな。。なぁ、、鈴、、そして、、美音、、もう、俺の傍から離れないでくれよ、な。。」

「・・・そういうの、、愚問って言うんでしょ。。。」


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漂流者たち 白崎夢中 @take3738

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