第6話

俺は、田中正人17歳、K高3年生。。あと1年で、高校も卒業だ。俺、卒業したら、どうしよう。。父さんと母さん同じように、K市役所に就職する?夢は?俺の夢ってなんなんだろう。。古賀監督、早坂さん、黒沢さんの好意で、何となく、野球を続けてきたけど、、この先、、どうしたらいいだろう。。

私は、山田鈴、17歳、K高3年生。。あと1年で、高校も卒業だ。私、卒業したら、どうしよう。。お父さんとお母さんと同じように、K市役所に就職するの?夢は?ボサノヴァ歌手になるって。。お父さんとお母さんが言うことも、分からないわけじゃあないけど、、それが安心な道なのかもしれないけど、、それって、、生きてる、ってことなのかしら。


1.


 俺は、投げている。早坂さんのミットを目掛けて、、一心不乱に、、投げている。ただひたすら、投げている。投げているときには、そのときだけは、不安や心細さを感じないでいられる。だから、投げている。でも、その後は、将来は?


(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

(シュ、パシン。。シュ、パシン。。)

「よし!正人、いい球だ!さ、少し休憩するか。。」

 宏が大きな声で話し掛けた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「正人、スプリット、、随分と操れるようになったじゃないか。」

 将司が嬉しそうに話し掛けた。

「黒沢さんのお陰です。」

 正人が嬉しそうに答えた。

「そんなこたぁねぇよ。お前の筋がいいんだ。。ところで、正人、高校、出たら、、どうするんだ?」

 将司が正人に真顔で問い掛けた。

「・・・まだ、決めてません。。。」

 正人が小さな声で答えた。

「なぁ、正人、お前が野球部に入らねぇ本当の理由、、俺は分からんし、興味もねぇ。だがよ、おめぇ見てると、何かに怯えて、何かから逃げてる、、そんな気がしてる。。お前、お前さえ、その気があんなら、アメリカ、行かねぇか?お前が、この狭い日本で、何かから、逃げているんなら、日本で、ここK市で、こそこそしてんじゃなくて、いっそのこと、アメリカまで行っちまえばいいんじゃねぇか?俺がお前が野球続けられる大学を紹介してやってもいいんだぜ。」

 将司が正人の目を見据えて、問い掛けた。

「黒沢さん、、そんなことまで、、」

 正人は、将司の視線を避けることなく、答えた。

「・・・世界には、な、、おめえより才能のないやつらがそれでも必死に頑張っている、それぞれの夢に向かって、な。俺は、おめぇみたいに才能があるのに、逃げ回っているやつが大嫌いなんだ。まぁ、逃げてりゃあ、、負けることはないから、な。でもよ、、それじゃあ、勝つことだって、、一生、できない。。そうじゃあないのか?正人。。」

 将司が強い口調で言った。しかし、その言葉には、優しさがあった。

「黒沢さん。。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「父さん、いるんだろ?」

「あぁ、、なんだ?」

 誠也が静かに答えた。

「話がある。」

「何だ?」

「俺、アメリカ、、行っても、、いいか?」

 正人がきっぱりとした声で言った。

「え?アメリカ?」

 誠也が両目を見開いて聞き返した。

「お父さんも知ってんだろ、黒沢将司さん。。K高野球部OBの、、」

「あぁ、直接の面識はないが、な。。」

「今、俺、早坂スポーツセンターで野球の練習を続けている。」

「あぁ、、知ってるよ。。」

「・・・知っていたのか、、じゃあ、黒沢さんもここで練習してるってことも、、」

「あぁ、、もちろん。。」

「・・・その黒沢さんに、アメリカの大学に行く気はないかって誘われたんだ。」

「しかし、K市を出るのは、、」

「・・・父さん、父さんが2年前に言ったこと、あのことが本当のことなら、そりゃあ、怖いよ、俺。消えちゃうんだろ、、同じ顔のやつに会ったら。。でもさ、だからって、K市でこそこそしてても、、それで、本当に生きてる、ってことになるのかなって、、父さんや母さんの生き方を否定する積りはないんだよ、でもさ、俺、もっと、自分に正直に生きたいんだ。それで、仮に消えてしまうとしてもさ、それまでの間を1秒、1秒、真剣に生きたいんだ。」

 正人は、父、誠也の顔を見据えて、大きな声で、叫んだ。その声の大きさは、正人の強い決意を物語っていた。

「・・・・・」


3.


 まだ、6月だというのに、夏を感じさせる暑さの午後、、、1人の少年がK街道沿いを歩いている。K市第1公園を左手に見ながら、K駅方面に向かって歩いている。服装は、薄手の黒のパーカーに、ブルージーンズ、、黒いキャップを被り、眼鏡を掛け、マスクをしている。背中には、やはり黒色のリュックを背負っている。まぁ、いまどきの少年にありがちな恰好だ。足取りは軽く、スイスイと、自分の行き先に、何の迷いもない、、そんな足取りで。。

同じ通りの500メートル後方を1人の少女が歩いている。足取りは重く、とぼとぼという言葉は、彼女の歩き方を表現するのにちょうど良い。


「いらっしゃいませ!」

「鈴ちゃん、こっち、こっち。」

正人が鈴を呼んだ。

「あぁ、正人君、、待った?」

「いや、今、着いたところ。」

「じゃあ、良かった。」

「俺、買ってくるよ。」

「じゃあ、、炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフのセットで、、、」

「ホットコーヒー、、だろ。。」

「え?あ、うん。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・2年振りだね。。2人で会うの。」

「・・・あ、あぁ、、2年振りだ。場所もここ、、マックだった。。」

 正人は、淡々と話し始めた。

「で、何?今日は。。LINEで、会おうって。。」

 鈴は、訝し気に言った。

「・・・うん、、2年前、、2人の家族の秘密を知って、、2人でここでその話をするために会った。。あれから2年。。鈴ちゃん、、どうしてた?どうやって、、この2年、生きてきた。。そして、これから、どうする?それが聞きたくて。。」

 正人は、鈴の目を見つめて、話した。

「あぁ、、そういうことか、、うーん、、私は、この2年、そうだな、、お父さんから言われた、目立たない、K市から出ない、を実践しながら、そう、、ギター、、前に話したように、部活はしてないけど、正人君も小学生のときまで一緒に通っていた、K市音楽スクールで、ギターとボイストレーニングを、、してた。正人君も知っているでしょ、幸代先生、幸代先生に、随分、良くしてもらって。。」

 鈴も正人の目を見つめて、話した。

「・・・そうなんだ。で、これから、どうするの?」

 正人は、鈴の目を見つめながら、問い掛けた。

「・・・そ、それは、まだ、決めてない、、かな。。お父さんとお母さんは、覆面歌手でデビューなんてこと、言ってくれてるけど。。」

 鈴は、正人の視線を避けるように、俯いて、小さな声で答えた。

「・・・そうなんだ。決めてないんだ。。俺は、ね、この2年、K街道沿いにある宮坂スポーツセンターで、野球、続けてた。そこのオーナーの宮坂さんや黒沢さんって人に教えてもらいながら。部には入ってないけど、K高でも、野球部の古賀監督のお陰で、野球部の練習にも、時々参加させてもらって。。で、俺、決めたんだ。高校を卒業したら、アメリカに行くって。同じ顔の人間から逃げるんなら、日本で、ここK市で、こそこそと逃げてるんじゃなくて、いっそのこと、アメリカまで行っちまえばいいんじゃないかって、野球をアメリカで続けようと思ってるんだ!そこまでして、それでも、もしも、もう一人の自分に出会ってしまって、俺が消えてしまうとしても、それまでの間、自分らしく、生きたいって思った。そのことを鈴ちゃんに伝えるために、今日、会うことにした。」

 正人が一度離れた鈴の視線ともう一度合わせて、言った。

「・・・正人君、、、凄いね、、私、実は、少し前にね、その宮坂スポーツセンターで、ブルペンっていうんだ、っけ、そこで、投げてる、正人君を見た。。凄く真剣に、そう、必死に、、」

 鈴がもう一度合った視線を今度は避けることなく、答えた。

「・・・俺も聞いたよ、幸代先生に、、前に、駅前で、鈴ちゃんを見掛けて、吸い寄せられるように、K市音楽スクールに4年振りに足を踏み入れて、そこで、聞いたよ、鈴ちゃんが一生懸命練習していることを。。。」

正人は、鈴の視線がもう一度離れたら、もう二度と合わないような気がして、必死で、鈴を見つめて話した。

「・・・ねぇ、正人君、、一緒に行かない?アメリカ。お父さんとお母さんは、覆面歌手とか、YouTubeでの音楽配信ってやり方もあるって言ってくれて、、いっとき、それもいいかなって思ったこともあるんだけど、、でも、私、やっぱり、ちゃんと、皆の前に、顔を出して、歌いたいと思った。それがプロとして歌を聴かせるってことだと思ったから。。だから、私も、日本で、ここ、K市で、こそこそと逃げまわるんじゃなくて、アメリカに行って、歌手を目指したい!そう、、そこまでして、それでも、もしも、もう一人の自分に出会ってしまって、私が消えてしまうとしても、それまでの間、自分らしく、生きたい。正人君と同じように。。駄目、かな?」

 鈴がきっぱりとした口調で話した。

「駄目じゃないよ!一緒に行こうよ、アメリカ。考えてみりゃ、俺たちの家族の秘密云々を知るずっと前から、、鈴ちゃんと俺は、生まれた時から一緒だったんだし、、何でも言い合えるし、、なぁ、父さんたちの話が本当なら、同じ顔のやつに会っちまって、どっちかが消えちまうまでの間かもしれないけど、、一緒にいてくれよ、、鈴ちゃん。。」

 2人の視線は、そのまま、暫くの間、離れることはなかった。


4.


 まだ、6月だというのに、夏を感じさせる暑さの午後、、、1人の少女がK街道沿いを歩いている。K市第1公園を左手に見ながら、K駅方面に向かって歩いている。服装は、薄手の白のパーカーに、ブルージーンズ、、黒いキャップを被り、眼鏡を掛け、マスクをしている。背中には、やはり黒色のリュックを背負っている。まぁ、いまどきの少女にありがちな恰好だ。足取りは軽く、スイスイと、自分の行き先に、何の迷いもない、、そんな足取りで。。


「はい、今日のレッスンはこれで終了です。鈴ちゃん、歌もギターも上達したわね。もう、いつデビューしても大丈夫よ!先生、誰か、知り合いを手繰って、業界の人、紹介しようか?」

 幸代が満足そうに言った。

「幸代先生、ありがとうございます。あの、、その前に、、先生、、お願い事が。。」

 鈴が幸代の目を見つめて、言った。

「何?鈴ちゃん。」

「この教室の部屋って、私、借りたりできるんですか?」

「あら?どうして?」

「私の歌とギターを聴かせたい人がいて。。1人なんで、この教室ぐらいの大きさがいいなって思って。。」

「・・あら?鈴ちゃんの彼氏さんかしら、ね。」

 幸代が嬉しそうに言った。

「・・・うーん、、彼氏、、っていうよりも、、、同じ運命の元にいる、、同士、、かな。。」

 鈴は、きっぱりと答えた。

「あらまぁ、そりゃあ、彼氏以上ってことじゃない。。良いわ。私、社長にお願いしてみる。鈴ちゃんは、長年に渡る優良顧客だし、鈴ちゃん、歌手で成功したら、それこそ、うちにとっては、凄い宣伝だから。。」

 幸代は、本当に嬉しそうに、頷ぎながら、答えた。

「あ、ありがとうございます。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・あの、、こんにちは。あの、、今日、鈴、えーと、山田鈴に16時にここに来るように言われて。。」

「はい!お待ちしていました。部屋にご案内するわね。ふふ、まさか、正人君が鈴ちゃんの運命の人とはね。。前、ここで正人君に会ったときはそんな素振りも見せなかったけど。。先生の目、節穴だったかな。まぁ、いいわ。あなたたちの年頃の子は、1日で変わっちゃうから、ね。」

 幸代は、正人を嬉しそうに、楽しそうに、見つめて言った。

「俺は、、もう、、変わりませんよ。。」

 正人は、きっぱりと、そして、はっきりと言った。

「そ、そう、、正人君、凄いね。。じゃあ、安心だ。。。今日は、ね、、、鈴ちゃんの歌手としてのデビュー日よ。まだ、プロってわけじゃあないけど、初めて、人前で歌う。その栄誉を正人君は受けるのよ。心して聴きなさい!良いわね!」

 幸代は、強い口調で、しかしながら、優しく、、言った。

「あ、は、はい。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(カチャ)

「・・・正人、、来てくれてありがとう。一生懸命歌うから、、聞いてね。。」

「・・・あぁ、しっかり、、聴くよ。。」

「じゃあ、最初の曲は、、、」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(パチ、パチ、パチ、パチ)

「・・・びっくりしたよ。鈴がこんなに歌、うまいなんて。。」

「正人にそう言ってもらえると、、嬉しい。。私、高校卒業したら、ボサノヴァ歌手になる。これまで、散々、逃げてきたけど、、もう逃げない。。もう、逃げずに、、頑張る。。一緒に、アメリカに行ってくれる?正人。」

「あぁ、もちろんだよ。。鈴、鈴は、、偉いんだな。。頑張れよ。。精一杯、応援、、する、、から、、な。」

「ありがとう、、、正人。」


5.


6月、、少年と少女が2人でK街道を肩を並べて歩いている。K市第1公園を左手に見ながら、K市営球場方面に向かって歩いている。服装は、お揃いの薄手のグレーのパーカーに、ブルージーンズ、、黒いキャップを被り、眼鏡を掛け、マスクをしている。背中には、やはり黒色のリュックを背負っている。まぁ、いまどきの少年、少女にありがちな恰好だ。足取りは軽く、スイスイと、自分たちの行き先に、何の迷いもない、、そんな足取りで。。


「慶明志木との交流戦、、いつの間にか、全校応援になっちゃったね。。私、人混み、嫌なんだけど。。」

「仕方がないさ。今年のK高は、慶明志木とともに、埼玉県大会優勝候補だもん。。健司を中心にした攻守のバランスは、俺が練習見ていても、、本当にいいチームだ。」

「だからって、全校応援にしなくたって。。私、チアガールよ、、恥ずかしいわ!正人はどこで観るの?」

「まぁ、せっかくだから、いつものベンチの真上の席で観るさ。健司に声も掛けてやりたいし。。」

「じゃあ、試合終わったら、また、いつものマックでね。。」

「あぁ。。」


////////////////////


「美音、早くしないと、集合時間に遅れちゃうよ!」

「・・・桜、いっそのこと、、バックレない。。」

「そんなわけにはいかないでしょ。。出欠取るって、先生言ってたじゃん。欠席したら、内申に響くもん。。」

「あーあ、、どうしてこうなるかね。。」

「K高の監督に、古賀さんがなってから、K高、どんどん強くなって、、春の選抜も危うくK高になる感じだったらしいし。校長、カリカリしているんじゃないの。私立はそう言うことで、人気に影響するから。。人気がなくなると、受験生が減る。受験生が減ると学校の収入が減る。。死活問題よ。。」

「学校経営で、学生の時間を奪うなってぇの。。」

「もう、、美音、、うだうだ言ってないで、ほら、急ぐよ!」

「はい、はい。。」


////////////////////


(あーあ、、終わった、終わった。。こんな恥ずかしい服、早く着替えて、マック行こ!正人、待たせちゃ、悪いし。。)

「真紀、先に帰るよ!」

「もう、、鈴は、帰るときだけは、速攻なんだから。。はい、はい、じゃあね。来週ね。」


////////////////////


「桜、私、先に帰るよ!」

「はい、はい。。どうせ、光輝君と待ち合わせなんでしょ!楽しんで来てね。」

「残念でした。光輝は、今日、試合、、部の公式戦、、公式戦がある人はこの試合の応援免除だから。。私も演奏会があれば良かったのに、な。。まぁ、いずれにしても、こんなとこ、長居はしたくないわ!さ、急ご!」


////////////////////


(急げ、急げ、っと、、さ、マックだ。もう、眼鏡もマスクも要らないわね。こんな暑苦しいもの、とっとっと、とろう!あ!来週の授業で使うノート、先に、買っとくか。。ちょっと、戻る感じだけど。。あの角を左にっと。。)

「あ!」

「え!」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「ひ!」

(ダッ、ダッ、ダッ)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「鈴、遅かったな。もう、食べちゃったよ。。」

「・・・・・・・・・・・」

「おい、どうした?鈴。。お前、顔色、悪いぞ。。何か、あったのか?」

「・・・・わ、私、見ちゃった。。」

「何を?」

「・・・・わ、私を。。」

「え!会ったのか、、、どこで?」

「・・・・今、そこで、駅前で、、、お父さんたちが言っていた、もう一人の自分に。。」

「・・・嘘だろ!」

「・・・・ほんと、、、慶明志木の、、慶明志木の制服、、着てた。。」

「じゃあ、、、」

「わ、私、、3日後に、、消えちゃうんだ。。。」

「・・・そ、そんなわけ、そんなわけ、ないだろ!あんなの親父たちの作り話だよ。鈴、こんなに、ピンピンしてんじゃんか!」

「正人、、、どうしよう。。」

「お、俺が、俺が、何とかするから。。」

「どうやって。。」

「・・・そ、それは、、これから考える。。」

「そうよね、、それって、、無理ってことよね。。」

「と、取り敢えず、直ぐ、家に帰ろう。父さんにも伝えないと。。」

「う、うん。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 正人は、鈴とともに、自宅に急いだ。鈴を家に送り届け、自宅に戻った。鈴のことを父親に相談するために。

「と、父さん、いるか!」

 正人が父、誠也の部屋を激しくノックしながら言った。

「何だ、正人、騒々しい。」

 誠也が部屋の中から答えた。

「父さん、大変だ!鈴が、鈴が、会っちまった!」

 正人が慌てた口調で、誠也に話した。

「会ったって、誰に。。」

「父さんが前に俺に話してくれた、もう一人の自分に。。」

「な、何だって!」

 誠也は、びっくりして答えた。

「なぁ、父さん、父さんの話だと、鈴、3日後には、、消えちゃうんだろ。。」

 正人は、躊躇いがちに、誠也に聞いた。

「・・・・あぁ、近親者の中の記憶以外は、全て消える。。友達の記憶からも、戸籍の記録も、何もかも、、鈴ちゃんが消えたら、鈴ちゃんのご両親と俺たち3人の記憶以外の全ての記憶、記録が消されてしまうはずだ。。」

 誠也は、小さな声で、しかし、きっぱりと答えた。

「ど、どうしたらいいんだよ!父さん。。」

 正人は、誠也に畳みかけるように聞いた。

「・・・父さんにも、どうしたらいいかは、分からんが、、もしも、消える理由が、この世界に、山田鈴、まぁ、この場合、改名前の山田美音ってことだが、、山田美音は、1人しか存在できないってことであれば、鈴ちゃんが会ったという、この世界の山田美音が先にいなくなれば、もしかしたら、鈴ちゃんはこの世界に存在し続けることができるのかもしれない。。確証は、、ないが、、な。。」

 誠也は、思案気な表情で、答えた。

「・・・・わ、分かった。。俺、何とかするよ!」

 正人は、大きな声で、きっぱりと言った。

「何とかするって。。。」


////////////////////


(ツゥルルル、ツゥルルル、)

(つながって、お願い!)

『何だ?美音。電話なんて、珍しいな。。』

「光輝、今から会えない?」

『え?あぁ、じゃあ、駅前のモス、な。20分後で、いいか?』

「う、うん。。じゃあ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「美音、ごめん、待った?」

「・・・大丈夫。。」

「どうした?」

「私、会っちゃった。。」

「え?誰に?」

「もう一人の自分に、、」

「え、、、そうか。。ほんとにいたんだ。もう一人の自分。。で、どこで?」

「今日、光輝は来なかったけど、K高との交流戦の後、K駅前で、、K高の制服、、着てた。」

「そうか。。K市にいたんだ。。俺のそっくりさんもK市にいるのかな?でもさ、父さんの話だと、会ったところで、何も起こらないんだろ。」

「うん。うちのお父さんもそう言ってた。」

「じゃあ、気にすること、ないんじゃないか。」

「まぁ、そうだけど。。あんだけ、似てると、、ちょっと、気持ちが悪いわ。。」

「気にするなよ。。何もないんだから。。」

「まぁ、それもそうね。。ねぇ、ここでご飯食べちゃおうよ。」

「そうするか。俺も腹減ったし、な。」


////////////////////


 少年は、慶明志木の正門前に来ている。正門前の路地の片隅に、静かに佇んでいる。

(ここなら、怪しまれずに、校門を見張れる。。来てくれよ、山田美音。。)

(き、来た。。鈴、、ほんとだ。。鈴、そっくりだ。。)

(・・・帰りだな。。声を掛けるとすれば、、お、俺は、、えーと、、田中光輝、、)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(き、来た!)

「み、美音。」

正人は、緊張した声で、美音に話し掛けた。

「え!あぁ、光輝、一昨日はありがとう、ね。よく考えたら、別に気にする必要もないって、光輝の言う通りだわ。で、今日、休みじゃなかったの、学校、、倶楽部の方の試合で?あぁ、早く終わったんだ、試合。だから私服なのか、、あれ?そう言えば、髪、切った?昨日?」

 美音が正人に答えた。

「あ、あぁ、、まぁ、、な。なぁ、一緒に帰らないか?」

 正人は、美音におずおずと言った。

「え、あぁ、うん。いつもは、駅前のモスで待ち合わせだけど、、」

 美音は、腑に落ちない様子で、答えた。

「あ、あぁ、今日は、な。。ちょっと、、な。。」

 正人は、少し慌てたように、答えた。

「・・まぁ、いいけど。。」

「・・な、なぁ、ちょっと、公園寄ってかないか。」

 正人が美音に小さな声で問い掛けた。

「え?どうして。。」

(・・・あらら?私、遂に、光輝から、告られる、ってこと、、かしら。。)

「・・・・ま、まぁ、、気分転換だよ。。」

(私的にはもうそういうことだって感じだったんだけど。。まぁ、正式に、ってことなら、、もう一人の自分に会ったって話が何かの切っ掛けにでもなったのかしら?)

「いいわよ!行きましょ!公園。。ふふ。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(・・そりゃ、まぁ、話題が話題だから、、人通りがないところを目指すわよ、、ね。。光輝ったら、私に告るために、わざわざ、髪切ったりして。。意外と純だったのね。。)

「美音さん!すみません。」

「え?」

(ウグ、、、ウー。。。)

「え?き、消えた?」


////////////////////


(・・・美音、、やけに遅いな。。今日、ここで待ち合わせだったよな。。)

(・・・LINEでもしてみるか。。。)

「え!美音の登録が、、ない。。え、携帯は、、、え?携帯番号の登録も、、消えている?」

(俺、何か、変な操作しちゃったのか、な。。あぁ、学校に行ってみるか。。)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 光輝は、慶明志木に向かった。慶明志木の正門前から、美音の友達の桜が出てきた。光輝は、桜に尋ねた。

「おーい!桜ちゃん。。」

「ああ、光輝君、来てたんだ、学校。。今日の試合、どうだったの?」

「あ、あぁ、それは、まぁ、いつものように、、な。。そんなことより、美音、知らないか?」

「・・・美音?誰、それ?」

 桜が怪訝そうに答えた。

「え?美音、、山田美音だよ、、桜ちゃんの友達の、、軽音楽部の。。」

 光輝が慌てて付け加える。

「何、寝惚けたこと言っているのよ!私たち、3人、、今、軽音楽部の部活の帰り、、美音なんて子、軽音楽部にいないわよ!光輝君、他の学校の軽音楽部の美音って子と付き合っていたりするわけ?」

 桜が不機嫌そうに答えた。

「・・・あ、いや。。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 光輝は、自宅に急いでいる。父、光司に美音のことを相談するために。田中光輝の父、光司は、慶明大学物理工学の教授をしている。185センチ、85キロの均整の取れた体躯を持つ男、、、それが、田中光司だ。趣味は、超常現象の研究、、仕事仲間からは、“異端の物理学者”と呼ばれている。


「親父、入るぞ。」

 光輝が父、光司の部屋を強くノックしながら入っていった。

「光輝か。。」

 光司が机から振り返り答えた。

「親父、美音がいなくなった。俺以外、学校で美音のことを覚えているやつは、、誰も、、いない。。」

 光輝は、光司に慌てた口調で話した。

「孝輔、、あぁ、山田の叔父さんのことだよ、、山田の叔父さんから、、聞いたよ。携帯の登録が消えてる、って。。」

 光司は、冷静な口調で答えた。

「一昨日、俺、美音と会っていた。美音は怯えていたんだ。一昨日のK高との野球の練習試合の後で、同じ顔の人間に会ったって言って。。親父、親父が前に言っていた、同じ顔の人間がいるって話、俺、そのときはまともに聞いちゃあいなかったけど、、美音が消えたことは、そのことと関係あるんじゃないのか?」

光輝は、光司にまくし立てるように話した。

「光輝、お前、幾つになった?」

「え?18、、だよ。。」

「・・・そうか。。父さんが山田の叔父さんとあのことを初めて話し合ったのは、今のお前と同じ、18のときだ。」

「・・・あのことって?」

 光司は、淡々と話し始めた。

「山田の叔父さんも父さんも、同じ顔の人間に会ったんだ。18のときに。。まぁ、会ったっていっても、通りの向い側にいて、相手は気付いていなかったと思うが、ね。。それまでは、孝輔も父さんも、同じ顔の人間のことなんて、まともに取り合っていなかった。別に、同じ顔の人間に会ったところで、何も起らないんだろって、たかをくくってた。。今のお前と同じように、、な。。でもな、いざ、会ってみると、な、、本崎地区出身の人たちは、同じ顔の人間に会ったことがある。だからって、何が起こったってわけじゃあない。。でもな、相手はどうなんだろうって、な。。」

「相手?」

「・・・そう、、同じ顔の相手さ。。孝輔と俺が同じ顔の人間に会ったのは、U市サッカー競技場に隣接されていた展覧会だ。孝輔と俺の共通の趣味は、サッカー観戦、、その日は、O市とU市のプロ倶楽部同士の対戦、、いわゆる、埼玉ダービーだった。早めに会場に着いた俺たちは、時間を潰すために、隣接していた展覧会、確か、埼玉県高校生写真展の会場だ、その展覧会で時間を潰すことにした。その会場に荷物を搬入しようとしていた人の中に、孝輔と俺と同じ顔をした2人が歩いていた。。眼鏡とマスクで顔を隠していたが、ね。それでも、背格好やらなにやらで、分かるもんだ。で、孝輔と俺は、2人の後を付けることにした。そして、彼らの自宅まで辿り着いた。2人は、K市郊外に住んでいた。その後、孝輔と俺は、K市役所に行って、俺たちと同じ名前のやつがいないか探した。。いたんだ。。田中光司と山田孝輔、、名前を変えていたが、ね、、田中誠也と山田陽平って名前に。。で、不思議なことに気が付いた、、2人とも、両親の記述がないんだ。。で、考えた、、同じ顔の相手は、俺たちに会うとこの世界からその人の記録ごと消滅しちまうんじゃないかって、な。」

「消滅って。。」

「孝輔と俺は、日本を離れることにした。4年掛かったが、ね。。俺は、慶明大学からパリ大学大学院に、物理学博士になるために。孝輔は、日本芸術大学からパリ芸術大学院に、オペラ歌手になるために。パリに渡ったんだ。俺は、母さんを連れて、孝輔も雅代さんを連れて、な。」

「何で、パリに?」

「80年前に、俺たち本崎地区の人間の周りで起こった不可思議なこと、、何が起きたのか、、どのようにして起きたのか、、それを知るためさ。で、まずは、何が起きたのかの解明だ。欧州、特に、パリは、この手の怪奇現象、超常現象に関する研究成果や文献が揃っている、文明の歴史が古いから、な。孝輔と俺は、パリを拠点にして、俺たちと同じような事例を探した。声楽家の孝輔は、世界各地に行く度に、その地に残る伝承の記録を探した。同じ顔に出会ったという類の伝承、、だな。孝輔が持ち帰る資料を俺が分析する、、そういう風にして調べた。」

 光司は、遠い昔を思い出しながら、話を進めた。

「で、、、何か分かったのか?」

 光輝は、光司に話の続きを促した。

「多くの怪奇現象、超常現象を分析した俺たちは、同じ顔に出会う可能性のある現象を3つに絞り込んだ。」

「3つ?」

「ああ、一つは、ドッペルゲンガー、二つ目は、タイム・スリップ、最後に、パラレルワールドだ。」

「・・・・まるで、オカルトか、SFの世界、、だな。。」

「あぁ、そうだ。でもな、言い古された表現だが、この世で起っていることを俺たちは今の俺たちの知識で全てを理解できているわけじゃあない。俺たちは、“あり得ない”という言葉を禁句にして、この調査を進めた。」

 光司は、一言、一言を噛みしめるように話した。

「・・まぁ、そうなんだろう、、な。。で?」

「3つの現象と俺たちの前で起こった事象から、同じ顔に出会う可能性のある現象をパラレルワールドと結論付けた。」

 光司は、確信に満ちた声で話した。

「なぜ?」

「まず、ドッペルゲンガーだが、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種と定義されている、、あくまでも、今、現在の定義、、だが、な。。で、幻覚だとすると、俺たちの周りで起きた現象とは大きく違ってくる。何せ、俺たちは、本崎地区に住んでいた人間が3代に渡って見ているんだから、な。次に、タイム・スリップだが、80年前の俺の爺さん、、お前の曽爺さん、、だな、その爺さんの話によると、服装も同じようだったって言うことだった。お袋から聞いた話だが、な。。なら、遠い未来、遠い過去からってことじゃあない。極端に言えば、明日から今日への、或いは、昨日から今日へのタイム・スリップだ。。でも、な、もし、明日や昨日から今日にタイム・スリップした人間がいたとして、今日の自分に会い、消滅したとするなら、孝輔と俺のそっくりさんの両親の記録も消えちまうって、のは理屈に合わないんだ。だって、孝輔と俺の両親がそれぞれのそっくりさんに会い、その結果として、消滅したとしても、それまでの生活履歴は、この世界に残るはずなんだ。でも、記録は消えた。。パラレルワールドってことなら、誰かが消えた瞬間に、その世界が消滅し、その誰かがいない世界が誕生するってことも有り得る。そうであれば、消えた人間の記憶がなくなり、記録もなくなってしまう、ってことになる。80年前にこの本崎地区で起こったことは、もう一つのこの世界に類似した世界の本崎地区の人たちがこの世界に来たと考えるとこれまで起こってきたことの説明が付くんだ。」

「で、父さんはどうしたんだ?」

「孝輔と俺が次にしたことは、一定数の規模で、同じ顔の人間を見た事例に絞り込んでのその事例の深堀だ。深堀して見えてきたものの中に、次の課題、、、どのようにして、の答えがあると考えた。」

「・・・あったのか?同じような事例が。。」

「・・・あった。。マーシャル諸島の一つ、、その島は、現地では、“Island with another me”、“もう一人の自分がいる島”、、と呼ばれている。1954年に発生している。その島の言い伝えでは、島民およそ200人が自分と同じ顔の人間に会ったとされている。その同じ顔の人間は、ほどなく、消えてなくなった。1954年3月1日のことだ。。」

「1954年3月1日?」

「米国が、マーシャル諸島ビキニ環礁で、水爆実験を行った日さ。そして、俺たちの地区の人たちが同じ顔の人間を見たと言い出したのは、1945年、、広島と長崎に原子爆弾が投下された年だ。」

「でも、原爆は広島と長崎に落ちたんだろ。」

「そう、、だから、広島と長崎は、火炎と放射能による多大な被害にあった、、でも、その衝撃は、それ以外の見えない被害を与えていたんだ。見えないから、誰も認識していないだけの、ね。」

 光司は、遠くを見やりながら、言った。

「でも、だったら、日本全国で、そんな被害が、、」

「そう、、、まだ、分からないんだ。“Island with another me”で起こったとされることは、近辺の島では起こっていない。。調べた範囲では、、、な。本崎地区で起こったことも、、あくまでも推定だが、他では起こっていない。。起こっていないはずなんだ。他でも広く起こっているとすれば、もっと、大きな社会問題になっているはずだから、な。」

「じゃあ。。」

「・・・そう、“Island with another me”と本崎地区であって、他でなかった“こと”、或いは、“もの”があるはずなんだ。“Island with another me”では、いくら調べても、その“こと”、或いは、“もの”は見つけられなかった。。だから、2年前、孝輔と俺は、日本に戻って来たんだ。本崎地区で80年前にあった“こと”、或いは、“もの”を探し出すために。。原爆の衝撃波+αの“+α”を探しだすこと、、それが帰国の理由だった。」

「でも、あっちの世界で起こったことが必ずしもこっちの世界で起こるとは限らないんじゃないか?」

「パラレルワールドが複数存在するとして、複数存在する意味を考えると、それは、そこに存在する生命の選択の相違によると考えることもできる。であるとすると、私たちと同じ顔を持つ人々が存在するはずだった世界は、こっちの世界と極めて類似していると考えた方が自然だ。何たって、3代に渡り、そっくりさんを生む意思決定をしている世界だからな。他のパラレルワールドは、例えば、1945年8月8日のソ連対日宣戦布告以降、ソ連の日本への侵攻が止められず、日本は、ソ連に併合されている、そんな世界かもしれない、、或いは、、、1962年のキューバ危機<drifting.7>で、米ソの核戦争になり、既に、消滅してしまっている、、かもしれない。。そんなことを考えれば、こっちの世界とあっちの世界は今時点では極めて似通っている、、あっちの世界で起こったことは、こっちの世界でも起こっていると考える方が自然なんだ。」


<drifting.7>キューバ危機

:1962年10月から11月にかけて、ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚、アメリカ合衆国がカリブ海でキューバの海上臨検を実施し、米ソ間の緊張が高まり、核戦争寸前まで達した一連の出来事のこと。


「・・・そういうもんか。。。で、その“+α”って、のは見つかったのか?」

 光輝は、訝し気な目で、光司を見据えた。

「いや、まだ、見つけられていない。何せ、80年も前の話だ。本崎地区の人たちも日本各地に移動していた。さすがに、各地を回る時間がなかった。ただ、な、この家の書庫から、爺さんの日記が見つかった。」

「日記って。。」

「田中家は代々、本崎地区の10戸を取り纏める役をしていたから、な。各戸の農産物の状況やら、何やらを書き留めていたんだ。その中の一文、、これだ。。」

『昭和二十年八月六日

今日、起こったことを、私は生涯忘れることはできないだろう。昭和二十年八月六日朝、、朝っぱらから、米軍の爆弾が落ちた。で、目を開けると、そこには、もう一人の俺がいた。そいつと目が合って、数秒後に、そいつは、私の目の前から消えた。そいつは、確かに、私だった。何たって、今日の私の服装、髪型、更には、今朝、髭剃りのときに付けた頬のカミソリ傷まで一緒だったんだから。後に、この一帯の人たちにも聞いてみた。皆、同じ体験をしていた。もう一人の自分との遭遇。。まぁ、こんな話を体験していない誰かに話したところで、気がふれたと思われるだけなんだろが、な。』

「・・・・・・・・」

「・・・そして、これだ。。」

『昭和二十年八月三十日

また、会った。もう一人の私に。。。山田さんも小田さんも、だ。三人でリアカーに野菜やらを乗せて、中山道から新宿に出て、闇市で、売って。その帰り、、そいつらは、俺たちの右手から、K街道に出るために、俺たちのリアカーを横切って行った。今度のそっくりさんの服装は、私が昨日着ていたものと同じだった。。一体、何が起こっているんだ。』

「・・・なぁ、父さん、同じ顔のやつら、、消えたら、、どこにいくんだろうな。。」

 光輝は、光司に問い掛けた。

「・・・それは父さんにもまだ分からんが、な。。。可能性ってことで言えば、元の世界に戻るんじゃないかな?それが、本来の形なんだから。。」

 光司は、自信なさげに、答えた。

「・・・そうか。。。じゃあ、もしかしたら、美音は、この世界のもう一人の美音の代わりに、あっちの世界に飛ばされちまった可能性もあるってことなんだな。。。俺に、俺にも手伝わせてくれないか!美音を、美音を取り戻したいんだ!」

 光輝は、力強く、言った。

「・・・分かった。ちょっと、待ってろ!当時、本崎地区にいた人たちの一覧がある。本崎地区にいる人たちには、この2年で話を聞いてみたが、まだ、“+α”に関する成果はない。。光輝、お前、まだ、話を聞けていない人たちのところに行って、話を聞いて来てくれないか。」

「わ、分かった。」


////////////////////


 鈴と正人がいつものマックにいる。2人の周りを静寂が包み込んでいる。

「・・・正人。。」

 鈴がすごすごと正人に話し掛けた。

「・・・あぁ。。」

「・・・ねぇ、、どうなってんだろう。。」

「・・・何が、、」

「・・・私、私、、消えなかった。。」

 鈴が小さな声で言った。

「・・・ま、まぁ、何がなんだかが分からないけど、、良かったじゃないか、、な、、鈴。。」

 正人も小さな声で言った。まるで、誰かに聞かれたら、鈴が消えてしまうかのように。。

「・・・あ、、う、うん。。」


////////////////////


<C国ミサイル発射操作室>

「チフン、また、ミサイル発射実験だと、よ。」

「了解。今度は、何をどこに撃つって?」

「IRBMを日本の排他的経済圏内に落とすと、さ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「なあ、ソンホ、、何でまた、今回のミサイル、、核弾頭のダミーなのに、皆、防護服、着てるんだ?」

「そりゃ、お前、臨場感を出したいんだろ。。」

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