習作「夕焼け湖の殺人」

雨地草太郎

習作「夕焼け湖の殺人」

 二ヶ月後にぼくの通う高校では文化祭が開催される。

 ぼくの所属している文芸部では合同誌を発表することが決まった。

 そこで、部員――五人全員が短編を寄稿することになった。


 ジャンルは各自得意分野を担当。

 枚数は四〇〇字詰めで三〇枚まで。


 部内には純文学好きやSF好きがいるけれど、ぼくと副部長はともにミステリ好き。どちらがミステリを担当するか話し合った結果、ぼくが書くことになった。ぼくもみんなもジャンル特化しすぎているので、読書の幅が一番広い副部長に手薄な恋愛小説をお願いするわけだ。


 さて、ではどんな作品を書こうか。

 それをこれから考えることにする。


 最近、好きな作品のプレゼンテーションで学園ミステリを紹介したばかりだ。同じ舞台は避けよう。


 ミステリと一口に言っても色々ある。

 ぼくが大好きなのは本格ミステリだ。伏線が鮮やかに回収されるシーンの感動は何度味わっても飽きない。

 とはいえハードボイルドも捨てがたい。ノワールもいい。サイコサスペンスも大いにありだ。

 雑食はこういう時、すぐに目移りしてしまう。


 でもやはり、ここは本格ミステリを書きたい。


 まずはシチュエーションから考えていこう。

 安楽椅子探偵ものはどうだろう。短編という形式に向いている。主人公の父親が警察の関係者で、謎を持ってきてくれる。王道パターンだ。

 それもいいが、結末を鮮やかにひねって着地、という構成にも憧れる。三〇枚までしか使えないし、そういう作品の方がよさそうだ。


 ぼくは長野の田舎に住んでいる。

 せっかくだから地元の風景を使いたい。

 そういえば子供の頃はもっと山奥、母親の実家で暮らしていた。

 家の裏手が深い森で、分け入っていくと湖があった。小学生の頃は、友達を連れてきて魚がいないか探したものだ。


 よし、舞台はあの森をモデルにしよう。

 森の中にある小さな湖。

 すると、登場人物は小学生くらいになるだろうか?

 釣り人でもなければそんな場所には行ったりしないだろう。

 無邪気な子供だからこそ、人が寄りつかない場所にも平然と近寄っていく。それが悲劇につながるとも知らずに。


 ――おっ、今のはあらすじの締めっぽかった。


 では湖の周辺で事件を起こそう。

 事件には被害者と加害者がいなければならない。

 舞台の次は登場人物を置いていく。

 あくまで文芸部の出し物だ。キャラの名前は下手に凝るよりわかりやすい方がいいのではないか。


 ということで主人公の名前は一郎にしよう。

 友人の一人目は耕二こうじ

 友人は四人もいればいいだろう。三太郎さんたろう四介よんすけ誠五せいご。――うん、わかりやすい。


 この五人の間で事件が起きる。

 場所は森の中の湖。

 どんな事件だろう。


 さすがに子供五人が皆殺しにされるのはまずい。それだと新たに犯人を投入する必要が出てくる。子供が皆殺しだなんて不謹慎な、と先生に怒られるのも嫌だ。

 死んだ者の中に実は犯人がいた、というのは文芸部のみんなから非難を浴びるかな。

 ぼくはパソコンに向かってじっくり考える。


 ……埒が明かない。


 こういう時は思い切って書き始めてしまおう。

 ぼくは書いているうちにどんでん返しを次々に思いつくタイプだ。今回も閃きが飛び出してくることに賭けよう。


 さて、書くぞ。

 最初の一文は重要だ。インパクトのある文章で引きずり込むか、無難に風景描写から入るか。

 せっかく田舎の奥地を舞台にしているのだし、風景描写から始めよう。一文目はこんな感じでどうだろう。


「緑の生い茂る森の奥。その湖にたどり着くまでに、深紅の夕日はたっぷりと絞られる。」


 学校が終わってから集まるのだから、夕方の描写でいいはずだ。日の光が絞られると書いておけば、生えている木々が多いことも伝わるだろう。


 まずは主人公の一郎がそこに友達を連れてやってきたことを書く。

 湖で遊び始めるわけだが、何をさせよう。

 実体験を思い出す。

 水の中には入らなかった。危険な魚がいるのではないかと恐れたからだ。雷魚とか。

 他にも、当時は河童の存在を疑っていたので、引きずり込まれたらおしまいだという恐怖もあったような気がする。


 主人公たちには水辺で遊んでもらおう。

 水辺でやることと言えば水切りだろう。各自が石を拾って、サイドスローで放り投げる。石が小気味よく水面を跳ねていく。


「そうだ」


 この五人の中に、一人どんくさい少年が混じっているのだ。彼だけはうまく水切りができずにからかわれてしまう。一が主人公だから、五の誠五にその役割を受けてもらう。

 誠五は一人だけ水切りが下手だ。

 三太郎と四介が特にからかう。二人は、誠五を一緒に行動させることで、至る所でストレス発散に使っているのだ。

 一郎はその事情を知りつつも、友達を失うことを恐れている。だから何も言えない。


 ううむ、ちょっとイヤミスのような雰囲気になってきている。

 でも気にせず進めよう。


 今日も三太郎と四介が誠五を馬鹿にする。

 誠五もやられっぱなしではいられないから、なんとか見返してやりたいと思っている。誠五は水切りで反撃したいと、跳ねそうな石を探す。

 跳ねそうな石。たぶん、平べったい形の石だ。


「あ、石じゃなくてもいいな」


 ぼくはつぶやきながらキーボードを叩く。

 誠五が「見てろよ」と言ってそれを投げる。それは石よりも何連続で跳ねまくる。

 三太郎と四介が驚き、一郎は「やればできるじゃないか」と思う。


 ――で、飛ばしたのは石じゃないなという論争になる。


 結果、誠五が投げたのは貝殻だったことがわかる。

 淡水域にも二枚貝は生息している。そいつの貝殻を使えば簡単に十連続くらい跳ねさせることが可能だ。実体験である。

 貝ってそんなに跳ねるのかと話が盛り上がり、みんなで貝殻を探そうという流れになる。


 ここで、ちょっとした冒険描写を挟み込んでページ数を稼ごう。あまり短すぎてもよくないだろうし。それにただのページ稼ぎではなく、ぼくの経験も織り込んで青春小説のような味わいを出していく。これなら文句は言われないはずだ。


 ある程度ページを進めたら、いよいよ事件が起きなければならない。

 被害者は誠五だ。

 彼が死んでしまうのだ。


 殺人事件にはまず動機が必要である。

 貝をうまく使いたい。

 例えば、真珠を作っている貝を誠五が見つけた、なんていうのはどうか。淡水に真珠を作る貝がいるのかはともかく、横取りしようとしたが誠五が頑として渡さなかった、だから争いになって――という流れが作れる。


 問題は誠五と犯人が二人だけの状況を作れるかどうかだ。

 周りは森だが、湖のほとりは木が少ないというイメージが頭の中にある。ここは風景描写を徹底して、二人が周りから見えなくてもおかしくない状況に説得力を持たせよう。

 例えばこんな描写。


「一郎は湖の北側に回り込んだ。水辺をじっと見つめて、貝の姿を探す。ふと視線を上げると、対岸でだるそうに寝転がっている耕二が見えた。三太郎と四介はススキの向こうにいるのか、よく見えない。」


 ――おお、いいじゃないか。


 湖のほとりにはススキがたくさん生えていてもおかしくない。

 障害物があった方が、犯人の絞り込みにも役に立つ。

 一郎、耕二、誠五が単独行動、三太郎と四介が二人組で行動しているわけだ。


 ススキの位置をはっきりさせておこう。

 一郎が湖の北、耕二が南にいる。すると西か東になるわけだ。ここはなんとなくで東に決めた。

 東側、ススキの向こうに三太郎と四介がいる。

 では誠五はどこにいるのか?

 ススキの生えている地帯が広ければ、同じ東側にいても問題ないだろう。

 ただしこれだと犯人は三太郎と四介以外にありえなくなってしまう。最初からいじめているこの二人が犯人では意外性の欠片もない。

 すると耕二が犯人か。

 あるいは語り手――この作品は三人称一視点で進めているから視点人物の一郎が犯人になりそうだ。


 どうやって殺す?


「うーむ……」


 しばらく頭をひねるが何も思いつかない。


「無理にこのタイミングじゃなくてもいいかな……」


 そんな弱気になって、いったん全員を集合させる。ススキの近くに五人がそろった。

 ここで誠五がみんなに、真珠を作った貝を見つけたことを報告する。

 みんな、小さな真珠の美しさに心を打たれる。

 お前すごいな、よく見つけたな、と一郎や耕二が誠五をほめる。三太郎と四介は面白くなさそうにしている。


 やっぱり、貝殻ほしさの犯行で間違いないだろう。大人でも子供でも、天然物の真珠はものすごい価値を持つ。それを一番どんくさい誠五が拾ってしまったのだから、騒動が起きないはずがない。


 案外、ここまで存在感のなかった耕二に犯人をやってもらうのもいいかもしれない。ただしその場合、彼の出番が少なすぎるという問題がある。ろくに描写もされていない奴が犯人だと言われても、

「へーそうですかー、びっくりしたなー」

 と、文芸部の先輩たちに棒読みで言われるのがオチだ。


 これまでの展開の中に、もっと耕二の描写を増やすという手もある。

 が、すでに三太郎と四介、誠五の関係にかなり文章を割いている。一郎が、友達を失いたくないという思いから注意できないでいることも。


「じゃあ、それを逆に使うか」


 つるんではいるけれど、耕二はいつも一歩引いている描写を入れよう。彼は小学生ながらだいぶ大人びた少年で、常に厄介事から距離を置いているのだ。そんな耕二もやはり小学生だ。真珠の魅力には勝てなかった。


 耕二についての情報を追加したところで、次の展開に移る。

 再び、時間が来るまで真珠を作っている貝を探そうという話になる。みんなで散らばって探索開始だ。

 今度は耕二と誠五が二人で、三太郎と四介がコンビ、一郎だけが単独行動になる。

 これで殺人事件を起こす……。


「無理では?」


 思わず声が出た。

 どう考えてもバレバレの展開にしかならない。

 まず舞台設定がよくない。視界を遮るものが一つしかない場所で登場人物が五人。これで犯人特定のロジックを入れたミステリを書くには、作者の能力が足りなすぎる。


 だったら動機の問題にシフトしようか?

 犯人はすぐわかってしまうが、なぜ殺したのか、という部分は不明。そこを解き明かしていくタイプのミステリとする。


 耕二は生き物を大切にする子供だったから、貝を強引にこじ開ける誠五の乱暴さが許せなかった、とか。いや、普通すぎるな。現実にこんなニュースが流れたらインパクトもあるだろうが、フィクションとしてはかなり弱い。


 では、仲のいい女の子が耕二にはいる、なんてどうか。

 その女の子と二人でこの湖に来たことがあり、偶然、真珠を作った貝を見つけた。それは耕二にとって非常に大切な思い出だった。ゆえに、誠五が貝を乱暴に扱ったことがどうしても許せなかったのだ。


 こっちの方がよさそうかな。ぼくの頭ではこの程度が精一杯だ。


「あ、待った!」


 誰もいないのに叫ぶ。

 いいことを閃いてしまったのだ。

 動機はさっき思いついたものでいいだろう。しかし犯人は変更だ。

 耕二ではなく一郎にやってもらう。

 重要なのは、貝を探し終えたシーンまで書いたら場面転換することだ。

 こんな具合でどうか?


「五人はそれぞれのグループに分かれて、もっと真珠を作っている貝がいないか探索した。五人はまさに子供らしい執拗さで水中に目をやった。誰も時間は気にしていなかった。いつしか湖面が赤く染まるほどになるまで、誰も帰ろうとは言い出さなかった……。」


 こんなもんかな。これで場面を変えるための「☆」を打って湖のシーンはおしまい。


 翌日、一郎が小学校に行くと、誠五が行方不明になっていると周りが騒いでいる。耕二も三太郎も四介も、さすがに不安そうな顔をしている。

 一郎も表面上は心配してみるが、内心ではまったくそんなことは思っていない。

 なぜなら、書かれていない部分で、一郎は誠五を殺しているからだ。


 この物語は三人称一視点で書いている。

 最初から最後まで一郎の視点で追いかけているわけだ。その視点人物が犯人なのである。強力な動機が用意できなかった以上、構成をひねるしかない。


 なので、序盤に文章を追加する。

 一郎が、好きな女の子とあの湖に行ったエピソードだ。思い出の場所に大勢で行こうとしたのが気に入らない、と文章を入れる。


 そもそも、湖に行こうと誘ったのは誠五だった、なんていうのもありではないか。自分の大切な場所に大勢を誘おうとした姿勢。さらに貝を乱暴に扱ったやり口。どちらも一郎には耐えがたいものだった。


 書かれていない部分で、一郎は誠五を湖に突き落として溺死させている。

 いったんみんなで帰ったあと、一郎は誠五にだけひっそり囁いているのだ。


 ――今夜は月夜になりそうだから、二人だけでもう一回探してみないか?


 誠五はこれに乗って、こっそり家を出てくる。

 夜中に湖で合流した二人だったが、いきなり一郎が誠五に掴みかかる。湖に突き飛ばして頭を押さえ込み、溺死させる。


 しばらくして、湖で誠五の死体が発見される。

 足を滑らせて落ちてしまったのだろう、という見解が出される。耕二や三太郎たちも証言する。あの湖には真珠を作る貝がいて、誠五は夢中になって追いかけていたと。

 この件は事故で片づきそうになる。


 だが、一郎の犯行は露見する。

 見破ったのは、よりにもよって彼が好きな女の子だった。

 まず彼女は、動機の面から一郎に疑いを抱く。湖は「僕たちにとって大切な場所だ」と一郎は強調していたのだ。聖域を侵されたことに怒りを持っていたのではないか。


 そして靴。

 事件の翌日、一郎は濡れた靴で登校した。変えたら怪しまれると思ったからだ。彼女はこれを見て違和感を覚えていた。

 このシーンは、一郎の内面描写で「なんだか靴が気持ち悪い。」と書いて伏線とする。昨日、靴のまま水に入ったと見せかけて――というミスリードも兼ねて。


 大好きな子に罪を看破され、一郎は泣き崩れる。

 これにて物語は終幕である。


 ……やっぱり創作って難しいな。


 もっとミステリを読んで、少しでも上達したいものだ。

 間違いなく下手だろうけど、誌面に穴を開けてしまうのが一番やってはいけないことだ。不格好でも作品は完成した。これを提出して、ミステリ好きの副部長に駄目なところを指摘してもらおう。

 まだ文化祭まで時間はある。問題点があっても修正は可能だ。

 明日、この原稿を学校に持っていく。

 印刷しよっと。


     ☆


「真相に面白みがないよね」


 ばっさり斬られた。袈裟懸けである。


「素人しかいない高校生の会誌なんだよ? もっと読んだ人が思わず苦笑しちゃうような真相か仕掛けを作ろうよ。整合性よりインパクトだよ」

「えええ……」


 そんな無茶を言うのは、文芸部の副部長である狛村こまむら先輩だった。栗色のロングストレートと小柄な体格、なぜかいつも自信満々の表情をしている二年生の女子である。


「インパクトと言われても、そんなに大きくは変えられませんよ。一から書き直しとなると時間が足りるかどうか……」

「問題ない。二回ほど読んだけど、これは印刷日までに直せるものだと判断した」

「どんな風に?」

「極めてシンプルさ。犯人を一郎だけじゃなくす。、と変更するんだ」

「全員で? それって――」

「しっ。迂闊なネタバレはよくない」

「す、すみません」


 ぼくらしか部室にいないのになぜそんな真剣な顔で止めてくるのか。


「そ、それで全員が犯人ってどうやるんですか? 相当変えなきゃいけない気がするんですけど」

「大丈夫だ。君はもう重要な伏線を仕込んでいる」

「え、どこですか」

「冒頭だよ。

「一行目? これですか?」

 ぼくは一枚目を指さす。


「緑の生い茂る森の奥。その湖にたどり着くまでに、深紅の夕日はたっぷりと絞られる。」


「これが伏線なんですか?」

「作者は君だろう」

「いや、自分でもよくわからないんですけど」


 狛村先輩はポケットからパイプを取りだした。中には何も入っていないが、暇さえあればスパスパやるふりをしている。たぶん名探偵に憧れているのだろう。


「いいかい? 一行目では、木々に阻まれて夕日がたっぷり絞られると書いてあるわけだ。つまり湖にはほとんど夕日が届かないことになるね」

「そうかもしれません」

「だとすると、そのあと主人公たちが帰る直前の描写はおかしいんだよ」


「五人はそれぞれのグループに分かれて、もっと真珠を作っている貝がいないか探索した。五人はまさに子供らしい執拗さで水中に目をやった。誰も時間は気にしていなかった。いつしか湖面が赤く染まるほどになるまで、誰も帰ろうとは言い出さなかった……。」


「ああ……」


 ぼくは思わず呻いた。


「つまりこの赤く染まった湖面というのは……」

。四人がかりで袋叩きにされて、水の色が変わるほどの怪我をして突き落とされたんだ」

「すると、動機も変えないといけませんね」

「動機の種も君はすでに用意しているよ」

「ありましたっけ?」

「あのねえ……」


 狛村先輩が「やれやれ」と大仰に肩をすくめてパイプをふかす。ミステリ……というか小説全般にありがちな「肩をすくめる」という動作をわざとらしくやられるとイラッとするね。もちろん言わないけれど。


「一郎が好きだという女の子がいるだろう。これを、全員の憧れの女の子だったと変更する。そして、誠五はその子を誤って死なせてしまった、とする。不運な事故だったと大人たちは受け入れたが、多感な少年たちはそうはいかない。少女の復讐を果たすため、四人は誠五を殺したんだ」


「しかし、なぜ湖に行ったタイミングで? いやまあ、そういう伏線を張りたいからというメタ的な理由になるんでしょうけど……」


「すぐそういうことを言わない。――女の子が「真珠を作る貝がいる。みんなで探しに行こう」と死ぬ前に言っていたとしたら? 四人は、少女が目を輝かせて真珠の話をしているのを聞いた。その日を楽しみに待っていた。なのに彼女は誠五のおふざけが行きすぎたことで死んでしまい、さらに、よりによって誠五が最初に真珠を見つけてしまった。それによって全員の殺意が共鳴したわけだよ」


「さすが狛村先輩……」


 完全に後付けの動機なのによく即興でスラスラ出てくるな。この頭の回転の速さは本当に名探偵に向いているのかもしれない。


「さあ、直すべきシーンに赤ペンを入れておいたよ。印刷日までに頑張って修正だ」

「ありがとうございます。やれるだけやってみます」


 ぼくはお礼を言って、コピー用紙の束を受け取った。


     ☆


 結果的に、合同誌は無事に発行された。

 小説好きの一般来場者さん、自校他校の生徒が買ってくれたおかげで少部数ながら完売。

 声をかけてくれた人たちからは「SNSに感想書くね」と言われていたのでさっそく調べてみると、


〈「夕焼け湖の殺人」、オチがエグい〉

〈学生の合同誌でこの胸糞エンドはよくやったな〉

〈読んだ先生に怒られそう〉


 ……なんて、ぼくだけ悪目立ちしていた。


「わたしの作品に言及してくれた人、いなかったんだけど? 君ばっかり感想を書いてもらえてうらやましいよ」


 狛村先輩にもそんなことを言われる始末。そりゃ納得いかないよね。だって解決編、ほとんど先輩の改変案に沿って直したんだから。


 でも、得るものはとても多かった。

 狛村先輩には悪いけど、すごく勉強させてもらった。こうやって物書きは一歩ずつ進んでいくのだろう。最後まで書き切って成果がゼロの創作なんてない。次もまたミステリを書いてみたい。強く、そう思った。

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