第1話 入学



 ミコが十四になり、来年はこのまま地元の共学の魔法学校に変わらず通いながら休みには旅に出るか、と両親と検討していた秋。

 涼しい風が吹く中、ミコは剣の稽古を自身の家の庭でしていた。


「セイ!! ヤッ!! セイ!!」


「おー! やってるねぇ、ミコちゃん」


「ふぅ、こんにちわ、郵便屋のおじさん」


 ミコが素振りをしていると、小さい頃からよく見知った郵便屋のおじさんが今日はやけにご機嫌に顔を見せた。


「おじさん、今日はご機嫌ですね! なにかありました?」


「これだよ! これ!! ミコちゃんに入学案内!!」


「入学案内?」


 自分に入学案内なのになんで郵便屋のおじさんがご機嫌なんだろうと、不思議でならないミコ。

 入学案内を封筒から出すと、学校の施設紹介と共に、綺麗な筆跡の生徒会長からの手紙がついていた。


「いやぁ、『乙女の園』なんてこんなド田舎の娘が行けるとこじゃないんだよ?! 国の重鎮の娘とか、騎士の娘とか、そういう娘しか行けないんだけどね? やっぱり加護の神子は違うなぁ」


「『乙女の園』……、生徒会長、キャロライン・ローレン様」


 キャロライン・ローレンといえば、ミコが住む田舎でも有名で知らないものはいない、この国の次期女王候補の一人である。

 王家の血をひく者は、男女カップルでなく、同性同士でも子をなすことができるとされていて、今の国王も妃も女性である。

 というか、代々女系一族なので子をなして、娘が出来て、娘が『乙女の園』に通う、イコールで恋人が身近な同性になってしまうのである。


「キャロライン様はどんな方なの?」


「さあ? 絶世の美女とは聞くけど、『乙女の園』は情報統括厳しいからなぁ。それに、この村にこんな熱烈ラブレター来たの初めてだしな」


「ラブレ、?!」


 ぼんっ、とミコの顔が赤くなる。

 それを見て、郵便屋さんは「はっはっは!」と笑いながら去っていった。


「……ラブレターって……」


 一度、封筒に施設案内と手紙を仕舞い、右手に剣、左手に封筒を持って、玄関から家に入る。

 すると、リリアが朝食を作っていたところで、フローマは寝ぼけ眼で自室から現れた。

 秋は冬眠に向けてモンスターたちが食べ物を取り合いするので、それに巻き込まれたら一貫の終わりである。ので、冒険はお休みするものが多い。


「あら? 貴方宛てに来てたの?」


「あー、入学案内。『乙女の園』から」


「「えぇ?!」」


 驚愕のあまり、リリアはフライパンから目玉焼きを落とし、フローマは階段から落ちた。


 まあ、それからはあれよあれよと事が進み、冬には面接で一発合格、試験も難なくクリアし、春。


「(うわぁ、可愛いコばっかじゃん!! レベルたっけぇ!!)」


 いや、見るところがやはり違う。

 しかし、いかにもお嬢様風な女の子はジャンパースカートのワンピースで背後にお花を背負っているし、騎士風な宝塚の男役みたいな女の子は軍服のようなパンツスタイルで、腰にサーベルを差している。


「宝塚なのか、ここ」


 勿論、ミコは軍服のようなパンツスタイルの制服に新調したサーベルを差している。

 前世からスカートというガラでもなかったし、何故か学園側から「キミはこっちね」とパンツスタイルにされたのだった。

 まあ、もとよりこっちの制服で、『騎士団』に入る予定なので好都合だったが。


 どうやら、あのキャロラインからの手紙は生徒会長として有望な人材が欲しい、という想いが半分、キャロライン・ローレンという一人の女として、ミコを欲しているというラブレター的想いが半分で、ミコは嬉しい反面、相手は次期女王候補なので困惑はした。


 しかし、キャロラインの手紙に、とりあえず、騎士団に入って団長のライザリー・リークに挑めとあったので、それを遂行しようと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

組長の側近の娘が抗争に巻き込まれ転生したら…… 三途ノ川 黒 @jakou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ