序章
神崎美子は、日本のあるやくざの組長の側近の娘として生まれた。
美子が生まれた当初は、組長はまだ若頭だったし、父はその世話役だった。
しかし、月日が経つにつれ、若頭は組長に、美子の父はその側近になった。
美子はそんな父と組長、そして組長の子供たちの役に立ちたいと、事務の仕事をしたり、はたまた、屋敷の警備に赴いたり、ペンを持たせても有能だが、腕っぷしも強かった。
そうして、何年か経ったある時、敵対組織といざこざがあり、それは抗争と発展した。
「組長!! 危ない!!」
パーン!! という発砲音。
その銃弾が射貫いたのは、組長ではなく、彼を庇った美子だった。
そして、美子の意識は一旦ブラックアウトした。
即死だったのだろう。
しかし、美子はまた意識を取り戻す。
「おぎゃあ!! おぎゃあ!!(あれ? 私なんで赤ん坊に??)」
美子は、前世の『神崎美子』の記憶を持ちながら、生まれ変わったらしい。
しかも、現代日本ではなく、所謂、『ファンタジー』な世界に……―――。
「(ふぅん、此処はフ―ロンハーゲン国っていうのね)」
美子は生まれ変わり、つまり転生後、ミコ・ジュリエッタという名前になった。
ミコは幼い頃から、冒険家で家に中々帰らない父の書斎に入ってはこの世界のことを勉強していた。
「(魔法……そういえば、前に風を起こせたっけ。私にもそういう素質はあるのね。でも、やっぱり、銃とか、剣も使いたいわね)」
―がちゃり
「ミコ!!」
「(やっば!!)」
当時五歳のミコが夫の書斎に入っては何かをしていることに頭を悩ませていた母、リリアは今日もいち早くミコの居場所を知る。
「もー、貴方は。お父さんの書斎に入っても読める本ないでしょうに」
「読めるもん!!」
何故だか、この世界の言葉は読み書き出来たミコ。
父、フローマの難しい書物も、努力で難なく読めたのだ。
ついで言いうと、此処では一応五歳なので子供ぶっている節はある。
中々の演技派だ。
「じゃあ、これは何の本だった?」
リリアが指さしたのは先ほどミコが読んでいたこの国についての本。
「これはね~、この国の地名とかが書いてあるの」
「……じゃあ、これは?」
次に指さしたのは、魔法についてや、襲ってくる野良モンスターの弱点を描いた書物。
それも的確に言い当て、母は何か考える仕草をした。
「貴方は、天才なのかしら? まだ五歳よね?」
「ミコ、天才??」
「うふふ!! 私とお父さんの子供だものね!! 偉いわ、ミコ!!」
「やったぁ!!(はぁ~、危なかった……)」
それから、母、リリアは自分の過去をミコに言い伝えた。
今は農家の後継ぎをやっているが、昔は自分も夫、フローマのパーティで女剣士として活躍していた。
フローマもただの冒険家ではなく、魔法剣士なのだと。
「貴方も、もしかするわね」
「ミコ、魔法剣士なりたい!!」
「ふふふ!! じゃあ、まず子供用の練習剣から買いましょうか」
「うん!!(よしよし、いい感じ!!)」
そして、ミコはリリアから剣術を教わり、たまに返ってくるフローマから魔法剣士としての心得を教わった。
子供用の練習剣からまだ子供用だがそれなりの性能の剣を買い与えられた十歳の頃、ミコは街はずれの洞窟にいた。
此処の中は選ばれたものしか入れず、入れなかったものは、跳ね返されてしまうという。
「(すごい清い、って感じ。流石、聖龍の住処ね)」
ミコは跳ね返されることなく、薄暗い、涼しい洞窟の中を歩いていく。
これには、訳があった。
『聖龍の加護』が欲しいのだ。
聖龍の加護は、得るとあらゆる身体能力が研ぎ澄まされるとされ、魔法も強靭になるという。
『来たか、力を求める幼きものよ……』
「聖龍様なの?」
洞窟の奥の奥、湖から清い鱗を纏った一匹の龍が低い声を響かせミコの前に姿を現わせる。
『ああ、いかにも。しかし、お主は稀有な気配を感じる』
「私、一回死んで此処に来ているから」
『……なるほどな。転生者か』
「……他にもいるの?」
『いや、お主が初めてだ。面白い。愉快故、加護をくれてやってもよい』
つぃ……と聖龍が頭でミコの右腕に触れると、ぱぁぁぁ! と碧い光が洞窟を照らし、ミコの右腕には、前世で彫っていたような青龍の痣が広がった。
「聖龍様、ありがとう」
『幼きものよ、健やかに生きよ』
そうして聖龍は身を湖に隠した。
ミコはその後、危険な場所に立ち入ったと母と偶然帰って来ていた父にこっぴどく叱られたが、『聖龍の加護』を受けたことを両親に伝えると、母「そんな……、百年に一人いるかいないかよ?!」、父「書籍にしなければ!!」とドタバタしているうちに村や街や国中に噂は広がり、ミコは『加護の神子』と呼ばれるようになった。
ミコはそれからそこいらの男子よりも強くなってしまい、尚且つ、顔も整っているし、女子の好意を一身に集めるようになり、「あれ? 悪い気はしないな?」と己のセクシャリティについて考え始めるのだった。
前世で異性の嫌な部分を見飽きてきたからかもしれない。
―四年後
「……ミコ・ジュリエッタ。加護の神子……」
「キャロライン様? 如何なされましたか?」
「ライザリー、この者のもとに入学案内を送りなさい」
「はっ!! わが主の仰せのままに」
フ―ロンハーゲン国の重鎮の娘たちが通う、全寮制の女学校、『乙女の園』。
その生徒会室でミコの情報を熱のこもった瞳で眺めている在校生は、一体……―――。
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