第3話 いつもと違う何か

 あれから数日が過ぎた。

あれからというもの、何かで釣ることができなくなり

あの一件以降また、引きこもり始めた。


「雅姫、なんかこう、食いたいものとかないのか?」


ベットに座っていた雅姫がバタッとベッドに倒れこむ


「んー、たこ焼きとか食べたいかも」


「おぉ、今から行くのとかどう?」


むすっとした顔をする雅姫


「行かない」


ボソッとそう言って布団を被った。

布団に入ってから数分がたった

中々出てこないので、近づいてみると

スースー、と寝息が聞こえる。

眠るのが早すぎる、こいつ昨日寝てないな

生活習慣だけはしっかり正常に戻さないと。

そう考えながら、今日は帰ることにする。

寝てしまったのだから、もう僕が残る意味もないだろう。

一階に降りようと階段に向かっていた時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

いつも聞いている、結構身近な人がこんな声をしている。

うちの母だ。

急ぎ階段を降りると、玄関前にうちの母さんと雅姫のお母さんが

話し込んでいた。


「夫から聞いたけど、この前焼肉奢ったらしいわよ~男らしくなったわねぇ」


「あら~そうなの?あたしですらまだ奢られたことないのに、

雅姫ちゃん羨ましいわね~」


「あ、碧君!終わったの?」


「はい、雅姫寝ちゃったので」


雅姫のお母さんが僕に気づき声をかける

うちの母さんはといえば貰ったであろうまんじゅうを一人で食べながら

僕を見つめている。


「碧お疲れ」


まんじゅうを飲み込んだ母さんが貰った紙袋を隠しながら

そう言った。


「うん」


そっけなく返事をするとむっとした顔をした母さんが

懐からまんじゅうを取り出し僕の口へと突っ込んだ。


「甘いの苦手なの知ってるだろ、やめ…」


「常備用のまんじゅうよ、私が3年厳選したレアものよ!」


「なんてもん持ってるんだよ!」


なにかした?と言ってきそうなほど平然とした表情を見て

僕はいつか毒でも飲まされるのではと少しだけ不安になる。


「あ!そうだ、雅姫ちゃんにもあげてこよ!」


「それだけはやめてくれ」


そう言うと「なんでぇ」と返ってきたが当たり前だろ

流石に3年前のまんじゅうは当たる、確実に当たる


「はいはい!奥さん今日はあれでしょ!」


そう言いながら、母さんを奥の部屋へ連れて行こうとする


「あれ?なんかやるんですか?」


僕がそう聞くと、母さんがにやりと笑い言った。


「酒よ!パーティーよ!今日は帰り遅いから何か買っていきなさい!」


毎日飲み歩いている母だ、多分今日は…。

いややめておこう、それより夕飯何にしようかな


「じゃ僕は帰ります、お邪魔しました~」


夕飯のことを考えながら、僕は帰路へとついた




次の日の夕方、僕は今日も雅姫を外へと誘いに樋ヶ島さんの家へと向かう

昨日は結局母さんは帰ってこなかった。

今ももしかしたら、そう考えると少しだけ行きたくはない

帰りに荷物が増えるのは勘弁してほしいものだ。


ピンポーン


チャイムを鳴らすと、いつも通り雅姫のお母さんが出てくる


「は~い」


ドアが勢いよく開き、頬を少し赤らめた雅姫のお母さんが出てきた


「碧くんじゃない、さぁさぁ入って」


「はい、お邪魔します」


「あ、碧じゃない!よぉお!」


昨日より、少し元気な気がする。

母さんを無視して二階へ行こうとする。


「お~い碧、何無視してんだよぉお」


そう言い、母さんが僕の腕を引っ張ってくる

酒の匂いが強い、相当飲んでるし、多分寝ずに飲んでいたな


「どんだけ飲んだんだよ」


「酔わないギリギリまで飲んだ!」


「酔ってなくてあれかよ!」


「だってぇ?無視するんだもんさ」


「背中が震える、もういいか?」


「はいはい、こんなおばさんより若い子のほうがいいわよね~」


そう言いながら奥へと戻る母に


「ちげぇわ」


そう言って階段を上がった。

階段を上がり、雅姫の部屋の前に来た


「入るぞ~」


そう言って部屋の中へと入る

中へ入ると珍しく、雅姫が起きていた

ベッドに座り、スマホをいじっている

が、窓、カーテンが開いており

空気の入れ替えがされている。


「お前…風邪だったら早く病院へ行ったほうがいいぞ」


「…」


「なんかあった?」


珍しく窓の外を見ている雅姫

どうしたのかと考えていると雅姫が口を開いた


「あんたの…」


バタリとベッドに倒れこみ言った。


「あんたのお母さんが部屋に入ってきて

布団とカーテン持ってどっか行ったと思ったら

窓を開けてからスマホの充電器を取って帰っていった」


ドンっと大きな音が鳴る、見てみると

スマホが落ちていた。

充電がないようだ、母さん…なにしてんだ

確かに思い出してみると

家前で待っているとき、布団が干してあった気がする

珍しい時間に干しているなとは思ったが

母さんがやっていたとは。


「なんか、すまん」


「もういい」


枕に顔を沈め、小さな声でそう言った

バタバタとベッドを足でたたいている

充電器を取られイライラが溜まっているのだろう

少しかわいそうに思える


「充電器、返してって言いに行かないのか?」


僕をにらんでから言った


「私が部屋から出れるとでも…」


「この前出れたじゃんか」


「あれは、違う…」


起き上がり、椅子へ座る

引き出しを開け、何かを取り出して言った。


「これ見て」


そう言って一冊の本を広げる

広げられたページには大きく

『人は同じ場所にとどまることができない』

そう書かれていた。


「これ見てから、なんか、変わった気がする」


困惑した、1年部屋に閉じこもっていた雅姫

何も変わってはないだろと言いたくなったがぐっと抑える

思い返せば、いつもベッドにはいたが時々頭の向きが変わっていたり

座りながら寝てることもあった気がする

寝相が悪いんじゃなかったのか


「お前、割となんでも信じるタイプだったのか」


「全部信じってるわけじゃない、ちゃんとネットで調べるし」


「まぁまぁとりあえずさ、一回言いに行ってみないか?」


「無理、あんたのお母さんなんか怖いし」


「確かに怖いけど、話せば返ってくるって」


むっとした顔をして僕を見る


「取っては来ないからな」


そう言うと、はぁ、と大きなため息をついた

しばらくすると諦めたかのように雅姫が立ち上がった


「ゲームの進行、ゲームの進行」


小さくそう連呼し、ドアを見て言った。


「話はあんたがして、怖いから…」



ぶるっと震えながらも、歩き始める雅姫

こうして母さんから充電器奪還計画が始まった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひきこもり天使の外出計画 夏芽椎 @Natsumeshii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る