第2話 久しぶりの空

 カーンとでかい音が鳴る

振り向くと深くかぶったフードで前が見えず

ドラム缶や、電柱にぶつかって歩く雅姫の姿が見えた。


「ずっと思ってたんだけどさ、それ前見えてる?」


「見えると思う?」


「思わない」


「くぅ~ほんとに痛い」


鳴き声のような声でボソッとつぶやく、家を出たときから隅をずっと歩いているからか

前が見えないことで、障害物を避けずに来ている。

痛いのも当然、数分歩いたが、14本ある電柱全部に当たっている


「だろうな前見て歩こう」


そう言い、深くかぶっているフードを下げた

突然光が当たった雅姫が足を止めた。

目にでも当たったかと心配していると


「眩しぃいいいい」


そう叫んだ。


「お前...嘘だよな?」


「焼けるし痛い!目が!痛い!!」


一応毎日夕方、カーテンを開け太陽が当たるようにはしている

ずっと家に居るから少しでも太陽に当たるようにと

雅姫のお母さんの願いだ。いつも開けると布団に包まり

出てこなかったから気づかなかったがここまで酷くなっているとは

思わなかった。

前が見える程度でフードを被せた。


「目どうだ?」


「痛い」


フードを深く戻し、しゃがみ込む。


「手、頂戴」


「僕の手は手羽先じゃないんだが」


「違う、ぶつかると痛い、引っ張って」


「引っ張ってもぶつかる可能性はあるからな」


そう言いフードに置かれていた手を取った

そこからは少しマシになった程度でそこまでぶつかる回数は変わらなかった。




雅姫の家から三十分ほどしたところにある食べ放題のチェーン店。

路地裏の地味なところにあるからか客も少ない。


「着いたよ」


「もう歩かなくて済む」


そう言い大きくため息をつく雅姫


「早く入ろう、本当に溶けそう」


「そうだね」


店の扉を開け中へ入る。


「いらしゃいませ!二名様ですか?」


「はい」


「席にご希望などございますでしょうか?」


「窓から遠いせ」


僕が言い終わる前に雅姫が入ってきた


「個室!」


そう一言、言い終わると一歩下がり返答を待つように隠れる


「えーと個室ですか?ちょっと待ってください確認しますね」


店員も困惑しているようだった。それはそうだたった二人で予約もなしに

個室の要望、普通ありえない。

店員が中へ戻り数分が経った。


「お客様お待たせしました。ご案内します」


あるのか、とびっくりした。

案内された所は和室で雰囲気のあるところだった。

中に入りフードを取った雅姫のどうよと言いたげな

顔は今年一イラっとした。


「ごゆっくりどうぞ」


店員がメニューを置き、戻っていった。


「雅姫はなに頼む?」


雅姫の方を見る、目を光らせ写真を撮っている


「え、なにしてんの?」


「写真撮ってる」


「見りゃわかる、なぜ?」


「友達に...自慢?」


「お前友達いたんだな」


怒ったのか、僕が見ていたメニュー表を取り

注文用のタブレットで注文をする。

注文が終わったのか、メニューと共にタブレットを渡してくる


「へ?」


タブレットを見たとき思わず変な声が漏れた。

頼まれた注文は6人分の量だったからだ


「雅姫さん?全部食べるおつもりで?」


コクリとうなずきスマートフォンをいじりだす

話す気はなくただ食べに来ただけのようだ


「こちらご注文の牛カルビでございます」


注文が届く、机に皿が次々と並ぶ

雅姫はスマホを見ながら


「焼いといて」


そう言い寝ころんだ

音が漏れ聞こえてくるゲームの音を聞きながら

肉を焼く、雅姫の取り分け皿にはあふれるほどのお肉がたまった

僕も久しぶりの肉屋で少し楽しくなり、皿からあふれるほど焼いた

しばらくするとゲームが終わったのか、起き上がる雅姫


「いただきます」


あふれかけたお肉を食べ始めた。

お肉は次第になくなり数分で6人前は胃袋の中へと消えていった。


「ありえない」


「?」


追加で頼んだ僕の分を食べながら不思議そうに僕を見る


「いやお前、え?6人前食べたよね?」


「食べたよ」


「今僕の分も食べてるよね?」


「食べてるね」


「その小柄な体のどこにそんな胃袋があるんだ」


「さぁ?私家でも結構食べるし」


「はぁ運動もしないでどうやってその体系を維持してるんだか」


「運動はしてるよ、ゲームするにも体力は居る!」


どや顔でそう語る雅姫。


「運動してたの!?」


「するよ」


「外出て?」


「家で」


「どんなのやってるの?」


「走るふり」


「外出て走ればいいじゃんか」


雅姫が机をボンとたたき立ち上がる


「それは嫌だ!出たくない!」


「でも今日は出たじゃんか」


「それは羨ましいからだよ!」


「えぇ?」


どういうことだと困惑していると雅姫が話し始める


「この前ゲーム仲間の友達がみんなで焼肉に行ってたから」


「え?」


雅姫は座り、チビチビとお肉を噛みながら言った


「私!外出ないから!誘われなかったの!!」


それを聞いた僕は固まった。しばらく気まずい雰囲気が続いた。

雅姫はやけ食いか僕の分も食べきった。僕はあまりものを食べながら

追加で注文をした。


「終わった?」


スマホを見ていた雅姫が口を開いた。


「もう終わるよ」


僕はそう言い最後の一口を口へ運ぶ。

通知音が鳴るたびに嬉しそうにスマホを見つめる雅姫を見ていると

なんだか今日まで1年頑張った甲斐があったのかもと思える。

まぁ喜んでいるのはスマホに来たメッセージになんだろうけど。


「終わったよ」


食べ終わったことを伝えると、スマホをポケットにしまい

立ち上がりすぐにでも早く帰ろうとする。


「じゃあ帰ろう」


「会計しないとな」


僕がそう言ったとき急に雅姫が走り出し言った


「お手洗い行ってくる!」


本当に肉を食べに来ただけか!

少しだけ、そうほんの少し期待した分を返してほしい

軽くなった財布と一緒に。


支払いを済ませると同時に出てきた雅姫と外へ出ると

雅姫が外に出たと聞いて興奮状態の雅姫のお父さんが車で迎えに来ていた。


「雅姫ぃお前ついに」


「ねぇ!邪魔い、離して、あ、目が!光がぁ!!」


「え?聞こえないよ雅姫、あれ前も見えないや」


しばらくして落ち着いたところ雅姫のお父さんがこちらへ向かってくる


「碧君、今日は本当にありがとう!」


そう言い僕を抱きしめる、目には涙がたまっており

少しすると車に乗り「ありがとうね~」と大きな声で一言いい

解散となった。

僕も別の意味で涙を流しながら軽くなった財布を見つめ

帰路へと歩き始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひきこもり天使の外出計画 夏芽椎 @Natsumeshii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る