ペンギンを中心に世界は回る。ペンギンホームを中心に、家族は回る。

 ただいまー。ふぅー、今日も疲れたなぁ……ん? なんだこの状況。ペンギンは餌のイワシを飲み込んだけれど、僕はこの状況が全く飲み込めていないんだけど……。いや、むしろ、飲み込まれそうだけれど。
 あぁ、なるほど。うちがペンギンホームに選ばれたのか……。甥っ子の大志が餌をあげる様子を微笑ましく見守る僕。
 父さんはマグロの特上の赤身……それ、ペンギンじゃなくて僕たちのご飯じゃダメかな……? きっとダメだろうな。ほら、父さん、目が🐧になってるもん。おっと、ここでストレートなド直球の正論だ! 僕も「そーだそーだ!」と内心乗っかりたいところではある。マグロの脂のように。(赤身には脂は乗っていないのだろうけれど。)
 ……ほらね(ニッコリ)。僕たちで食べろってことだったんだよきっと。うん、美味い。ってペン太郎……立ったまま寝てる……⁉
 生き物を飼う。命を預かるということは、人もペンギンも等しく同じこと。だからこそ、身の回りの世話はみんなで分担して……なんだか雲行きが怪しくなるような姉の一言が非常に気になる僕だった。
 どんな仕事でも、誰かがやらなければいけない。それがたとえ汚れ仕事だったとしても。でも、愚痴ばかり吐いていてもしょうがない。ペンギンの糞ともども、床に落としたこの愚痴もキレイにしないとな……って痛えよ! 「お疲れ様!」とか「ご苦労さん!」ならもっと優しく叩けば良いだろうに……。加減を知らない子供か? おっとこの愚痴も拾っておかないとね。
 出会いがあれば、別れもある。大志もこれからたくさん経験するよ。しかしなぁ……ペン太郎もようやく家に馴染んできたというのに。勝手知ったるなんとやらな感じで風呂場に直行してるし……。
 僕たちがペン太郎を話したくない一心で、熱心に議論を交わしている中、当の本人は何食わぬ顔で自分のスペースに戻ってきて、自由を謳歌しているし。なぁ、ペン太郎。謳歌だけに、自分がペンギンであるということを謳った歌でも歌ってくれないか? そんなことができたらきっとこの場はすごく和むと思うんだ。……そのあと、ペン太郎を離したくない思いはより一層強まると思うけれど。
 ちょ、ちょっと待って父さん! それはあまりにも、あまりだ。納得いかないという個人の感情だけで動いたら、前述していた通りのペンギン横領罪でペンギン法廷行きだよ! 少しは冷静になって! ほらちょうどそこにアイスノンも大量にあるし!
 アイスノンを頭や首に当てるより、冷や水をぶっかけるより、姉さんの放った一言が一番効いたのは、良かったのか悪かったのか。冷静になってくれたのは良いけど、父さんの心に穴が開いていないことを祈るばかりの僕である。
 そんなこんなでアッという間に時間は過ぎて。最後の糞掃除の最中、またしても痛えよ! でも、こんなこと言うのも最後なんだよな……。
 出会いが突然なら、別れも突然に……いや、別れは必然に。ふいにスペースに目を向けても、もうペン太郎はいない。なんていうか……夏の終わりが、ペン太郎との終わりを告げような感覚がして、僕の気持ちもすっかりしぼんでしまっていた。
 勿論、分かってはいたけれど。父さんの心にぽっかりと空いた穴は予想以上に大きいらしい。浮き輪くらいのサイズだったら、その間にペン太郎(との思い出)をスポッとはめ込んで懐かしむこともできたのかもしれないけれど……。いなくなってから分かるペン太郎の存在意義。……というと、ペン太郎に失礼かもしれないけれど、ペン太郎の残した功績はとても大きかった。大志にたくさんの友達を作ってくれたペン太郎。
 父さん、そろそろ発言を控えないと、鬼に寝首掻かれかねないよ……。僕はいよいよ本気でそっちの方が心配になってきたよ。
 ペン太郎が僕に残してくれたものは、花岡さんとお近づきになるきっかけ。あぁ、このカツ丼も、もしかしたらペン太郎が残してくれたものなのかも知れないな。