身近な人の死について

 細かいことなど気にせず日々をなんとなく過ごしていた主人公が、身近な人の死をきっかけとして、「日常から逸脱してみたい」との考えに固執するようになる。

 自分が日常から逸脱してみせたとき、周りの人々はどんな気持ちになるのか?
 主人公の関心事はそこだ。

 たとえば自分が死んだら、母親は悲しむのだろうか?

 日常に退屈するあまりストレスを発散したくなったのとは違う。生にも死にも鈍感なまま生きていた普通の人間が、他者の死に直面したことで、あたりまえの世界のすぐ外側を覆う不可知の闇に魅入られてしまったのだ。
 正気と狂気、生と死、日常と非日常、可知と不可知。薄皮一枚隔てた先へ飛び出してしまったらどうなるか分からないという疑問が、主人公の精神を日常から逸脱させ、じわじわと蝕んでゆく。
 あるいは亡き祖父への悔悟の念が、死神を引き寄せたのかもしれない。