心に花束を

羽入 満月

花束

 どうして、あなたが傷ついた顔をしているの?

 傷ついたのは私だよ。


 どうして、あなたが泣くの?

 泣きたいのは私。


 そうやって私の感情を先回りして反応をされて、勝手に可哀想と思われて、同情されて、私は身動きがとれなくなるの。


 だから、私は心を殺した。

 何も感じない、何も思わない。

 見て見ぬふりは、得意だから。

 あなただって得意でしょう?

 私はね、そうしないと生きていけないの。


 痛みも悲しみもなにもない世界へようこそ。



 それでも私の知らないうちに、心の痛みは溜まっていく。

 そして抱えきれないその痛みは、落ちたものから芽が出て花が咲く。


 水の代わりに、私が流すはずだった沢山の涙を糧に。

 栄養の代わりに、心の傷から流れる血を糧に。


 痛みが大きければ大きいほど、きっと綺麗な花が咲く。

 沢山の涙と傷から流れた栄養で、花はすくすくそだつだろう。


 足元には、気付けばそこに花畑が広がっている。


 それを一つひとつ集めていけば、いつか花束に変わるだろうか。

 大切に束ねていったら、いつか綺麗な花束をつくれるだろうか。


 それは誰にも真似できない、私だけの花束。

 その花が散るころにきっと傷も癒えると信じてる。




 そして全ては私の知らない間に過ぎていく。

 気づいた頃には、そこにはなにもない。

 花も痛みも悲しみも。

 事後報告で察する事しか出来ないから、そんな事もあったなぁ、と。

 思い出として語れるだろうか。


 そのときは、青空が広がって優しい風が吹いていると信じてる。

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心に花束を 羽入 満月 @saika12

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