このまま無事に終われると思うなよ
ある日、俺は織田に呼び出された。
「貴史、お前の気持ちに気づいてやれなくてごめん。猫部のことは、俺を諦めるためにわざとけしかけたんだろ?」
「は?」
「猫部と有原から聞いたんだ。お前が俺を好きだって」
猫部ッ!! 有原ッ!! そういうことか!!
「男が相手だなんて考えたことがなかったんだけど、俺も、単に性別だけで恋愛を考えるんじゃなくて、貴史をもっと深く知って、好きになったらその時は男同士でもいいかなって思うんだよ」
「いや! いいよ! 無理するな織田! 猫部と有原が嘘をついてるんだ! 俺の恋愛対象は女だよ女!」
織田は、ははは、と笑った。
「何、何がおかしいの?!」
「猫部が言った通りだ。”貴ちゃんは恥ずかしがり屋だから自分の素直な気持ちを言わないだろうし、きっと女が好きだって嘘をつくだろう”って」
先手を打たれた!!
「”だから、貴ちゃんの気持ちを真剣に受け止めてほしいの。私は幼馴染の幸せのために身を引くよ!”って言われてさ、幼馴染愛にすごく胸を打たれたね……」
織田は瞳をうるませた。
「違う……違うんだよ、俺はお前のことをそういう風には思ってないから……」
「そう思わないようにしてるんだろ? 有原も言ってたよ。”貴史は好きになったら止まらなくなるから、好きにならないようにしてるんだ。でも、自然と目で追ってるのは隠し切れてない”って」
有原、コロす。
「まず、お互い男同士なんて初めてなんだから、ゆっくりいこうよ。あ、でも、勢いも大事だから、そん時は思い切ってくれて俺は構わないけど……」
織田はもじもじしながら言った。
♢♢♢
有原に蹴りを入れながら白状させた。
猫部が勝ったら、”この勝負の黒幕が誰かを教えること”。それが賭けの内容だった。
『お前らがプライド賭けて勝負しているときに、高みの見物をしてる奴がいるんだろ? 許せねぇよ』
猫部はそう言ったらしい。想像するだに恐ろしい。そして、制裁を加える際には有原も手伝うということも賭けの内容に盛り込まれた。
そして織田返しをしてきたのだ。やはり猫部に関わるのを早くやめるべきだった……。
こうして、俺と猫部の十五年戦争は、全敗のまま幕を下ろした。
大柴は本格的にドMの才能が開花して、キックボクシングを習い始めた栄子に蹴られてるし、湯川は猫部の視界に入る確率を減らすために激痩せした。
有原のことはもう怒っていない。が、有原といると織田がやきもちを焼いて機嫌を悪くするから、一緒にいられなくなってしまった。
「今度一緒にディズニーに行こうよ」
織田が目を輝かせて言ってくる。
嗚呼、戦争はどんな理由があってもやってはいけない。失われた日常は、二度とかえってこないからだ。
猫部祐里は相変わらず、人気の女子に囲まれていた。そして、バカにしたような、それでいて哀れみの目で俺を見るのであった。
(おわり)
俺と猫部の十五年戦争 千織@山羊座文学 @katokaikou
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★18 エッセイ・ノンフィクション 連載中 29話
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