第5話

「ここが収録室か……。ちゃんとしてるんだな」

 部屋に入った紅葉が物珍しそうにキョロキョロしている。

「利用者は多いらいしいよ。休み時間に調べてみたんだけど、ここで、YouTubeとかラジオとかの収録をする部活やサークルがそこそこあるんだって」

 咲良が自分のカバンを漁りながら、会話を続かせた。

「そういえばー、この学校ってー、同じ敷地内に中学も高校も大学も全部あるんでしたっけー?」

 恵梨も、この施設の存在にはさすがに驚いていた。

 この施設は、普段から授業で使われているわけではない。

 そんな無意味とも思える施設が、何故設置されているのか……なんでも、数年前に在籍していた先輩が、学校に懇願したらしい。


「とりあえず、収録する曲を決めないと……」

 彩が呟くと、三人は互いに顔をあわせてニカッと笑った。

「アタシ、実は歌いたい曲があるんだ」

「奇偶だな、咲良。私もだ」

「実はー、私もなんですよー」

 彩は首を傾げた。

「えっ? なんの曲?」

「それはもちろん、『アイリス』で最も人気が高いあの曲だよ!」

 彩は三人を交互に見た。

 咲良の言葉に、紅葉も恵梨も頷いている。

 最も人気が高いあの曲……。

 彩は一度、ニコって笑った。

「わかった。あの曲でいこう。……意外と難しいけど大丈夫?」

 彩は心配しているような口ぶりで聞いておきながら、挑発的な顔をした。

「大丈夫ですよー。私達歌が上手いですからー」

 恵梨はやる気に満ち溢れた顔をする。

「木崎恵梨、一様言っておくが私はまだお前を許してないからな」

 紅葉は恵梨をジロッと見た。

 恵梨は、肩を落としてみせる。

「そうですかー。残念ですー」

 咲良は、顔を膨らませた。

「もう! 二人とも喧嘩しない! ほら、速く歌詞割りをして、練習して歌おう?」

 彩は咲良を見つめた。

「咲良……。そうだね!」


 あれから数分間個人で練習をしたあと、収録をした。

 収録した曲を聴いた結果、皆上手いけど個性が爆発しすぎて、なんだかチグハグになってしまった。

 それでも……。

「いいじゃん! ねえ、やっぱりアタシ達四人で歌おうよ!」

 咲良が目を輝かせながら言うものだから、なんだか皆やる気になってしまう。

「……まあ、いいぞ」

 紅葉は少し不満そうだったが……。

「そうですねー。なんだかー、面白い歌ができそうです!」

 恵梨は、いつものニコニコ顔になった。

 そんな皆の様子を見た彩は、一つ、提案をすることにした。

「じゃあ、折角だし、四人のチーム名を決めない?」

 咲良は忘れてたとばかりに、驚いた顔をした。

「あっ! 確かに! やっぱり歌を出すときに、カッコいいチーム名があったほうが、人気も出るし、アタシ達も楽しそうだもんね」

 咲良の意見は、まさに彩も考えていたことだが……。

「そう。……でも、何がいいんだろう?」

 彩には丁度いい名前が思いつかなかった。

 そんな時、紅葉がまっすぐ彩達三人を見つめてきた。

「カッコいいかどうかわからないが、『Flower』という名前で投稿するのは、どうだろうか?」

 Flower……。

 彩の心には、一つの衝撃が走った。

「いいんじゃないですかー? 個性がバラバラでー、チグハグな歌を歌う私達にピッタリだと思います」

 恵梨が一瞬真顔になった後、清々しい笑顔を見せた。

「アタシもそう思う! ……なんだかアタシ達、いいチームになるんじゃない!?」

 前のめりになる咲良は、この新しいチームの中でとても眩しい存在だ。

 Flower……なんだかカッコいいな。

「じゃあ、『Flower』で決まりだね」

 彩は前を向いた。

 新しい仲間と一緒に。

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