Birthday

第1話

 今日が自分の誕生日だと気づいたのは、母親からお祝いの電話があったからだ。


それまでは自分の誕生日の存在どころか、早くこの世を去れるように毎日祈りながら自分の存在を否定する生活をする日々だった。


誕生日を電話でもお祝いしてくれる親に対してなんて親不孝者なんだろうか。


なぜ、生き方をしているかと理由を問われれば自分でも、もうよくわからない有様

だ。


 よくある話で過去に戻れるならやり直したいかと言う質問があるが俺が答えるとしたらNOである。


やり直したい事など一切ないし、自分が選択してきた結果に後悔なども特にはないのだ。


「今日で二十四歳になるのか....」


 自分と同じ代の人と比べれば、行動や努力が実り好きなことしてそれなりのお給料をもらっている現状は一般的に考えれば充実していると言えるのだろう。


ただ、それでも俺は満たされないのだ。


もう俺自身何も求めていないのだ。


自分という人間があまりにどうしようもなく呆れてしまう。


本当にいつからこんな風になってしまったんだろうか。


小さい時に憧れた“大人”はいざ成ってみればあまりにも期待外れだった―――。




 今日は誕生日らしいが余計な事を考えたせいで憂鬱な気分に陥った。


この感情すら非常に煩わしい。


俺はまだ生きているというのを実感させてくる。


もういつこの世を去っても未練など一切ないし残せるものは残そうと色々準備もしているのだ。


とは言っても金銭面だけの事なのだが....それでも何もしないよりかはマシであろう。


「早く楽にさせてくれ」


そう呟きながら、一つの封筒を手に取りソファーに寝転んだ。


 封筒から一枚の紙を取り出し、だいぶ前から支払っている生命保険の明細を広げればそこに書かれている金額はこの歳でかけるような額ではない金額が記入されている。


俺の年齢なら目に見えない物にお金をかけるより他の事に使うのだろうが....物欲なども特にはないし、家もあまり出ない為交際費もかからないに等しい。


そんなわけで俺にとってはこれが一番良いお金の使い道だと思っている。


これをしておく事によって残された家族などにお金がいっぱい入るならそれに越したことはない。


 まぁ、今の所その現実は程遠くこの生命保険が発動されるのは大分先のことであろう、なんせ俺の気持ちは汲み取られず体は健康なのだ。


「.....現実って辛いな」


決して逃げてる訳ではない、色々やってきた末に辿りついたのが今なのだ。


まだ二十四...いやもう二十四歳なのか...気づけば成人してから数年立っていた。


自分の過去を振り返れば壮絶なものだ。


 この一度の生で客観的に見たとしてもあまりに色々な事を経験をしてきた。


自分がこんな風になるとは思わなかった...こうなる前に何度も変わろうと本気で誓って頑張った...なのに..なんで。


気づけば目頭が熱くなり次第にポタポタと涙が溢れてくる。


「うざい...うざい...なんで泣いてんだ俺..」


言葉とは裏腹に涙は止まらず、次第にはいい歳して小さな子供のように俺は一人で泣きじゃくった。


 ・・・どのくらい泣いていただろうか?


自分でもまさかこんなに泣くとは思わなかった。


静まった部屋で鼻をすする音が響き、泣いた反動でズキズキと頭が痛み、不快感を与えてくる。


….もういいや、一回寝よう。


 起きたらまたいつも通りになるだろう。そう思い目を閉じれば泣き疲れたのか一瞬で意識を手放した。


 ――ぼんやりとした意識からだんだんとはっきりしていき目を覚ました。


周囲を見渡しても部屋は暗く、時間を確認しようと時計を見ても上手く視認できなか

った。


気分は虚無だ、ただ嫌な虚無ではない。


小さな子供みたいに泣きじゃくったのが功をなしたのかはわからないがうまく表せない感情だった。


 泣きじゃくった、ただそれだけ。


いい歳して一人で声を出してみっともなく泣いた。


思い返してみれば大分恥ずかしく、誕生日に一人で過ごすのは寂しい気がするが一人で良かったと矛盾しているがそう思った。


そもそも誕生日を一緒に過ごしてくれる人もいないしな...。


 部屋の明かりをつけると暗かった部屋を暖かい照明が照らしてく

れた。


明るさに慣れていない目に光が差し込み、時間をかけてようやく部屋の時計を確認す

る事ができた。


 二十三時五五分――時計が差す時刻は誕生日が終了する五分前だった。


泣いて、寝ただけで終わりを迎えそうな誕生日。


ただ、普段の日常と比べれば俺にとっては違う意味で特別だった。


ここ数年感情を大きく表に出す事はなかった。


 感情を出したとしても何も変わらない、その時間すらも無駄だと思っていたのだ。


でもそれが、今の俺にはそれが一番大事だったのだろう、きっと。


 変わろうと確かに本気で頑張ってきた。でも、頭の片隅でちらつく皮肉な考えが俺を前に進ませなかった。


結局あの時の”本気”は偽物だったのだと今ならそう思える。


何かと理由をつけて諦めて不貞腐れるのはやめよう。


 どこまでも行ける気がしたあの時の俺はどこへ行ったんだ思い出せ。


少年だった俺はなんど躓いても立ち上がったじゃないか。


 大事なことを忘れていた、知らない間に気づけなくなっていた。


ちゃんと俺の中に残っていた。俺は大事なことを思い出したのだ。


 人は簡単にかわるものではないが、それでも今の俺なら変れる気がした、いい方向へ向く気がした。


ダメ元でもう少しだけ頑張ってみよう。


ここでも捻くれてダメ元がついてしまうのはここ数年の負の産物であるがこれも俺なのだ。


 今の自分を受け入れ大きな一歩を踏み出した。


二十四歳の誕生日にまた大きな選択をした、後悔はない。


だって灰色だった世界が少し色づいて見えたのだ。


ハッピーバースデー、俺。気がつけば0時を回って誕生日が終わっていた。

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